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8章 帰郷!エルフの里へ ~出産騒動編~

メラルダで暮らそう ~それぞれの長い夜2 ~

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前半→アレク視点
後半→エリュシオン視点
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セイル様に小屋にあったロープで縛ってもらった後、ティリアと2人きりになってから今回の件を改めて謝罪した。

「ティリア・・・こんな形で巻き込み、怖い思いをさせてしまって本当にすまない」
「ううん、アレクのおかげでそんなに怖い思いしてないから大丈夫だよ」
「そうか、なら良かった」

上半身と足首をロープで縛ってもらった俺とティリアは、壁にもたれて隣合って座っている。
ティリアの耳と顔色から、今の言葉が本当であることがわかり安心した。

「・・・良くないっ!違う意味で全然良くないっ!」
「ティリア?」
「確かにアレクのおかげでそんなに怖い思いはしてない・・・でも、攫われた事より、さっきの、そのっ・・・口づけに対しての謝罪を要求します・・・」
「あ・・・」
「・・・は、初めて、だったのに・・・」

いくら周りを騙すためとはいえ、先程俺はティリアに口づけたのだ。
それがティリアにとって初めての口づけだったとは・・・申し訳ないような、少しだけ嬉しいような・・・

「すまない・・・初めての相手が俺なんかで・・・」
「違うっ、そうじゃない!・・・す、好きな人と、初めての口づけがあんな形でされた事が全然良くない!酷い!!」
「ティリア・・・」
「アレクが、勉強しか取り柄のない私なんか相手にしないって事はわかってる・・・でも、あんな人前でされた事で済まされるのはあんまりだよ。だから、あたしとなんてイヤかもしれないけど、一度したなら・・・ちゃんと、その・・・」

顔を真っ赤にしながら、ティリアのうさ耳がぴょこぴょこと動きつつ、大きく広がったり垂れ下がったりを忙しく繰り返している。

ティリアは昔から、いろいろな仕事で汚れきった自分には眩しいくらい真っ白で純粋な、サーヤとは少し違った意味で守りたい存在だった。
もちろんそんな想いは今まで伝えていないし、久々に会った今も伝える気はないのに、そんなことを言われたら理由を付けてもっと触れたくなってしまう・・・

「・・・ティリア」
「ひゃいっ」
「くすっ、こっちをむいて」
「え・・・?」
「こっちを向いてくれないと、ちゃんと口づけできないだろう?」
「!!・・・や、そのっ、別に今ってわけじゃ・・・」
「俺は今ティリアに口づけたいんだけど?」
「あぅぅ・・・」

顔を真っ赤にしながら目をぐるぐるさせるティリア。
だが、近づいてくる足音がティリアの心の準備を待ってくれる様子はなかった。

「ティリア。残念だが、仕切り直しはまた今度だ」
「へ?仕切りなお・・・んんっ??!!」

顔を上げたティリアに一瞬口づけた後、すぐに離れたところで小屋のドアがバタンッと開け放たれた。

「アレク殿!ティリア先生!!大事ないか??!!」

入ってきたのは警備隊の隊長で友人でもあるヘンリーだった。



「アレク!ティリア!」
「エリュシオン様、隊長」

敷地内にポツンとあった物置小屋から出てきたのは、警備隊長に連れられたアレクとティリアだった。

「2人とも、大事ないか?」
「えぇ、問題ありません」
「ん?ティリアは少し顔が赤いようだが・・・」
「や、あのっ・・・だ、大丈夫でしゅっ」
「ぷっ」

少しティリアの様子はおかしいが、アレクを小突く元気もあるようだし外傷などもないようだな。

「エリュシオン様、ここに第三王子はいたのでしょうか?」
「あぁ。この伯爵邸に滞在していたようで、客室にいるのを警備隊がすでに取り押さえている」
「ベルナート殿の黒曜石が動かぬ証拠だからな。詳しい尋問は明日、王都の警備隊と連携して行うようだ」
「ティリア、いろいろ聞きたい事はあると思うが、詳しい話は家に着いてからだ。良いな?」
「あ、はい!わかりました」
「エリュシオン様、少々ヘンリーと話をしてきても良いですか?」
「あぁ」

アレクは警備隊長と少し話をしてからすぐに戻ってきた。
その際、俺達ももう帰って良いと了承を得てきたらしいので、早々に馬車で家に帰ることにした。


家に着く頃には、空が白み朝日が昇り始めていて、意外と時間が経っていたのだなと感じた。
セイルと共に行動していたカイトは、ヒューストン邸でセイルと少し遊んだ後眠ってしまったらしく、そのままセイルが森へ連れ帰って行った。

家に到着し、さすがにまだサーヤ達は眠っているだろうと思いながらドアを開けると、美味しそうな匂いがすぐに漂ってきた。
もしやと思って台所に向かうと、エプロンを付けて料理をしているサーヤとミナト、そしてすぐそばに駄犬が一緒にいて料理を手伝っている。

「あっ、エル!わぁ・・・皆も!!おかえりなさい!!!」
「おかーりなしゃい!!」
「おかえり」
「・・・サーヤ、お前達も・・・」
「へへ、何だか目が覚めちゃって・・・」

サーヤはミナト共に、サンドイッチと簡単なスープを作っていたようだ。

「帰ってきた時、お腹空いてるかもしれないと思って・・・サンドイッチだからそんなに重くないし、フルーツサンドも作ったから食べたかったら好きな方を食べてね。あ、もちろん皆さんもお腹空いてたらどうぞ!残ったらそのまま朝食に回すので気にしないで下さいね」
「ありがとう、サーヤ。ちょうど小腹が空いてたから助かる」
「ふふっ、カルステッドさんもお疲れ様です。温かいスープもいかがですか?」
「あぁ、一緒にいただこう」

帰ってきた奴ら皆に直接声をかけ、「おかえり」と伝え、サンドイッチやスープを勧めるサーヤ。
どうやら火を使うのは駄犬に任せているらしく、スープの温めなおしを含めて駄犬に指示している。
ちゃんと料理で火を使わないという約束を守っているようだ。

「アレク兄様、ティリアさん、無事でよかったです」
「あぁ、サーヤもこんな時間から起きていて大丈夫かい?」
「ふふっ、お昼寝もしてたし、寝たのも早かったから大丈夫ですよ」
「サーヤちゃん、顔色も良いみたいだし、大丈夫そうね」

帰ってきたアレク達と直接話して安心したサーヤは、再び俺の所へ来た。

「ふふっ、エルには特別にプリンをあげる!・・・数が少ないから皆には内緒だよ☆」
「・・・サーヤ・・・」

さすがに明け方までずっと気を張り詰めてきた俺も、少なからず疲弊していたんだろう。
そんな時にこうして笑顔で出迎えられて、さりげなく自分を特別扱いしてくれるのは予想外だったがすごく嬉しい。
出産も近づいて身体を動かすのも辛い時があるのに、こういった心遣いをいつでも自然にできてしまうサーヤは本当に凄いと思うし、好きな所でもある。

目の前で微笑むサーヤが堪らなく愛おしくなり、思わず抱きしめた。

「え?・・・エル、ど、どうしたの?!」
「いや、お前の顔を見て、帰ってきたんだなと思ってな・・・」
「ふふっ、大変だったもんね。お疲れ様。そして、お帰りなさい」
「あぁ・・・ただいま」



「ただいま」と言って帰る家があり、迎えてくれる妻と仲間がいて、しかも間もなく子も産まれる。
当たり前の事かもしれないが、自分がこんな“当たり前”の生活ができるとはな・・・

俺は幸せを噛みしめつつ、そのまま抱き寄せたサーヤに優しく口づけた・・・―――
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