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7章 帰郷!エルフの里へ ~祝福された小さな命~

メラルダで過ごそう ~つわりのピークと新居の準備~

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メラルダで拠点とする家も決まり、本来ならば早急に家具を揃えて住み始めたかったけど、新居を契約した翌日からちょうどあたしのつわりがどんどん重くなり、ずっと寝ているか目が覚めても吐き気が酷かったり身体が怠い日が続き、ほとんどベッドから動くことができなくなってしまった。

そのため、入籍やエルの両親とのご対面はつわりが少し軽くなってからすることになった。
予定通りだったのは、クラリスさんがエルフの里に帰ること。今日は帰る前にあたしに少しだけ会いに来てくれた。

「このあと迎えが来たら、私はエルフの里に帰るわ」
「そうなんですね。・・・えっと、おめでとうございます?」
「ふふっ、なんで疑問形なのよ。あんたってホントに変な奴ね」

お別れの時まで変な奴扱いされてしまった。なんて返したらいいかわからなかっただけなのにっ!

「私、エルフの里に帰ったらまずは魔法を学ぶわ。その後はルーシェント様に薬学も習おうと思ってるの」
「・・・前に言ってましたね。アレク兄様を手助けしたいって・・・」
「えぇ。でも、そのためだけに頑張るわけじゃないわ。学んだ結果自分がどうしたいかを改めて考えるつもりよ」
「クラリスさん・・・」
「アレク様のことは好きよ。・・・でも、“今”の私はアレク様の隣にはいられないから・・・でも、目標にはするつもり」

クラリスさんは少し寂しそうだけど、瞳からは強い意思を感じた。きっと本気なんだ・・・

「どうかお元気で。あたしも安定期になったら一度エルとエルフの里に行く予定なので、その時会えたら嬉しいです」
「えぇ。その時は、私のとっておきのお茶をご馳走してあげる。・・・待ってるわよ、サーヤ」
「!!」


嵐のように現れたクラリスさんは、いろんな経験を経て出逢った頃より精神的に大人になった気がする・・・いや、年相応になったのかな?
深い意味はないかもしれないけど、名前を呼んくれたのが認めてもらえたみたいで嬉しい。
アレク兄様とも普通に会話してたみたいだし、目標ができたことで吹っ切れたのかもしれないね。

クラリスさんは真っすぐでこうだと思ったら突き進む人だから、本当に凄い魔法が使えるようになるかもしれない。エルフの里でまた会ってくれるみたいだし楽しみが増えたなぁ。



クラリスさんがエルフの里に帰った後も、あたしはつわりで寝込む日々が続いた。
エルは新居に住むための準備で外出することが増えたので、日中はマデリーヌさんとセイルと一緒にいることが増えた。もちろんエルは、家よりもあたしのそばにいてくれようとしたけど、あたしや周りの説得で新居の準備を優先してもらっているのだ。

だって、せっかく家を買ったのに宿泊費がかかり続けるなんて、いくらお金があっても無駄遣い過ぎる!
エルと一緒に暮らす家だし、自分で選べないならせめて家具関係はエルに選んで欲しかった。
そして、つわりが落ち着いたらエルと足りないものを買いに行きたいと思っている。

渋々出かけて行ったエルは、間取りや部屋の雰囲気に合わせて客室や自分の研究室の大まかな家具や雑貨関係をすぐに買い揃え、すでに配送されているものもあるんだとか。さすがはエル様仕事が早い。
ただ問題だったのは、寝室やリビング、特に台所関係の家具についてはどうしてもあたしの希望を叶えたいらしく、見てきた家具候補の特徴などを説明してくれるもののなかなか決めることができないでいた。こんな感じと紙に描きながら教えてくれるけど、それだと一つ一つ伝えて理解するのに時間がかかり、一気に効率が落ちてしまうのだ。

「ねぇ、エル。エルが良いと思ったモノに決めちゃって良いんだよ?」
「だが、この家はサーヤと一緒に暮らす目的で買うものだ。2人の家なのだから時間がかかってもお前の意見を取り入れたい」
「エル・・・」

もうその気持ちだけで十分嬉しいのに・・・スマホやカメラがあれば撮影した画像をすぐに送ってもらったりできるけど、この世界には見たものを記憶するカメラのようなものはないから・・・


ん?見たものを記憶する・・・?


「あ~~~~~~~!!ベルナートさん!!!」
「は?駄犬??」

思わず叫んだら、隣の部屋から呼ばれたベルナートさん本人があたしの声に気付いて寝室を覗きに来てくれた。
ベルナートさんがドアからひょこっと顔を覗かせた下に、カイトくんとミナトちゃんも同じように一緒にひょこっと顔を出してきたものだから、あたしは思わず吹き出してしまった。

「サーヤ、俺のこと呼んだ?」
「サーヤまま、おきたの?きょうは、からだだいじょうぶ?」
「おねーさん、大きい声出してたけど大丈夫?」
「ふふっ、今はわりと元気だよ☆心配かけてごめんね」

3人を寝室に招き入れると、一緒にセイルとマデリーヌさんも入って来たので、結局皆集合してしまった。

「あのね、ベルナートさんにお願いしたいことがあるの」
「ん、なに?俺にできることならなんでもするよ」

”お願い”という言葉に尻尾をピンっと伸ばし、尻尾を振りながら内容を聞かずにすでに了承するベルナートさん。
・・・いや、尻尾は実際ないんだけどどうしてもそう見えてしまう。

「ベルナートさんって、自分や人が見たモノを黒曜石に記憶できるよね?それで、エルの見た記憶からあたしがその家具を見ることができないかなって・・・―――ダメかな?」

アネモネさんやエルが記憶喪失の時のように、エルの見た記憶を黒曜石に込めて選んでくれた家具を見れないかなと思ったのだ。画像というより映像だけどね。

「俺の能力で、エリュシオンが見た家具をサーヤに・・・?」
「あ、もちろんイヤなら別の方法を・・・―――」
「ぷっ、はははははっ・・・ははっ、どうしよう、笑いが止まらない、ふっ」
「え?えぇ??」

あれ?あたし、そんなに面白いこと言ったっけ?
ベルナートさんってこんなに笑うっけ?ってくらいすごく笑ってる。
周りを見ると、セイルまで背中向けて震えながら笑ってる。え?なんでなの??

あたしが一人で納得できない顔をしてると、背中を向けて笑っていたセイルが教えてくれた。

「ふふっ、ホントにサーヤってば予想外のことばっかり言うよね☆使い方によっては国だって簡単に滅せる精霊王の力を、ただの伝達代わりに使おうとするなんてサーヤくらいだよ♪」
「ぁ・・・やっぱり失礼なお願いだよね・・・ごめんなさい」

やっぱりダメか・・・わんこっぽいからついつい忘れてしまいがちだけど、ベルナートさんも精霊の王様だもん。プライドとかいろいろあるよね・・・良いアイデアだと思ったんだけどなぁ。

しょんぼりしてたら頭をぽんってされた。ベルナートさんだ。

「ふふっ、いいよ、サーヤのお願いだもん。それくらいいくらでも叶えてあげる」
「え?いいの?!」
「うん。俺の能力にそんな使い方があるなんて思わなかった。・・・だったら俺も、ご褒美にぎゅうってサーヤを抱きしめても良い?」
「ホントに?!やったぁ!!いいよ、ご褒美あげる!」

やった!これであたしも一緒に家具が選べる!!
嬉しすぎて今はあたしがベルナートさんをぎゅうってしてあげたいくらいだよ!!

「駄犬」
「「!!」」

思わず勢いでいいよって言っちゃったけど、エルの一言で我に返った。
どうしよう・・・勝手に了承しちゃった・・・

ベルナートさんと2人で恐る恐るエルの方を向いた。

「・・・サーヤの負担になるような抱きしめ方はするな。抱きしめること以外は禁止だ」
「!!」

了承をもらって尻尾をぶんぶん振って・・・るように見えるベルナートさんは、ご主人様、もといエルの了承を得てゆっくりとあたしの隣に座り、優しくぎゅうって抱きしめる。

「ふふっ、こうしてサーヤを抱きしめるの久しぶりだ。嬉しい」
「・・・もう変なトコ触っちゃダメだからね」
「・・・お腹は触れても良い?」
「いいよ。元気に動くのはまだまだ先だけどね」

今日はお願いも聞いてくれるベルナートさんに出血大サービスだ!と思って赤ちゃんのいるお腹も触れる許可を出した。

「ここに・・・赤ちゃんいるんだね」
「うん。2人もいるんだよ」
「サーヤに似てきっと可愛いんだろうね」
「ふふっ、まだ女の子かわからないよ?エルに似た男の子かもしれないし」
「やだ!エリュシオンに似たら可哀そう!2人共サーヤみたいな女の子だったら良いなぁ」
「・・・ほぅ。駄犬、そんなに改良前の回復薬が飲みたいとは気づかなかった。俺が直々に飲ませてやろう・・・」
「??!!」

身の危険を感じ、脱兎のごとく逃げ出したベルナートさんと、それを追いかけるエル。
そして、あたしのお願いを聞くとぎゅうできると思ったミナトちゃんとカイトくんは、「自分達は何をしたらいい?」と目をキラキラさせながら言ってきた。
とりあえず、ミナトちゃんにはエルが作る薬草農園ができたら水まきのお手伝いを、カイトくんにはエルが研究室や薬草農園を作るとき、もし庭に邪魔な石とか植物とかあったらそれを除去するお手伝いをして欲しいとお願いしたけど、これも精霊王様の力の無駄遣いじゃないだろうか?




お願いした2人はとも可愛い笑顔で快く了承してくれたので、もちろんお約束のぎゅうをした。

天使2人は今日も良い子で超可愛いです!
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