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7章 帰郷!エルフの里へ ~祝福された小さな命~

メラルダで過ごそう ~恋する乙女の胸の内~

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晩ご飯を食べ終えて、食後の休憩にミナトちゃん達と少しお茶を楽しみつつ、セイルにお米の購入をお願いした後、「また明日ね☆」とセイル達は森へ帰っていった。
あたしに無理させないよう、皆が気遣ってくれているのがよくわかる。
・・・なんかそれだけで涙が出そうになるのも妊娠のせい?涙脆くなってるのかな?

「体調はどうだ?サーヤ」
「ん、ちょっとだけ怠い感じがするけど大丈夫だよ」
「ブレスレットの石は・・・黄色か。とりあえず少し魔力を補給しておくか」
「・・・お手柔らかにお願いシマス」

最近エルから魔力をもらうときは口移しが多いんだけど、エルは魔力だけじゃなくしっかりと舌を絡めた濃厚なキスをしてくるので、魔力とエルの甘さでいつもあたしは蕩けそうになる。
この後クラリスさんを部屋に呼んでお話するのに、そんな状態ではとてもじゃないけど話ができない。

「んっ、はぁ・・・はふ、ぁ、んんっ、エル、もぅ・・・」
「ん、まだ魔力はそんなに与えていないんだが?」

魔力の前にその気持ち良すぎるキスをどうにかしてくださいっ!!
意地悪な笑みを浮かべるエルは、絶対わかっててやってるくせに!このドSっ!!

その後ブレスレットの石が緑になるまで魔力を与えられ、なんとか持ちこたえることができたあたしは、ベッドで枕を背もたれに座った状態でクラリスさんを迎え入れた。
エルはあたしが見えるようソファに座り読書をしている。ベッド周りに遮音の結界を張っているため、見えているが話している内容までは聞こえない。

「クラリスさん、お久しぶりです。わざわざ来てもらってすみません」
「別にいいわ、部屋にいたってすることがないもの。それより子供ができたのよね。改めておめでとう」
「ありがとうございます」

目の前のクラリスさんは、少し元気がないように見えるけど前みたいにあたしへの敵意は感じられない。
海のときもそうだったけど、なんて話を切り出そう。「アレク兄様とはどうなったの?」なんていきなり聞くのはおかしいよね?

話題に迷っていたら、先にクラリスさんの方から話しかけてきた。

「・・・巨大オクトパに襲われたとき、どうして私を庇ったの?」
「どうしてって・・・とっさに身体が動いちゃったので理由を聞かれても・・・」

あの時は「このままじゃ2人とも捕まっちゃう!」って思っただけで、結果的に庇ってるんだけど庇おうと思って庇ったわけではないというか・・・うん、よくわかんないや。

「皆あんたを大事にしてるんだから、私が捕まってあんたが逃げれば良かったじゃない・・・私なんていなくなってもあんた達は困らないんだから・・・」
「クラリスさん?」

なんか様子がおかしい。クラリスさんらしくない気がする。やっぱり何かあったんじゃ・・・

「クラリスさん・・・アレク兄様と何かあった?」
「・・・」

沈黙は肯定だろう。これはフラれてしまったんだろうか?
クラリスさんがアレク兄様を好きになったのはいきなりだったし、アレク兄様って恋愛よりも仕事優先にしそうな気がするからどうしても2人がいちゃいちゃするのは想像できないというか・・・

「・・・ここで話したことは、エリュシオン様には聞こえないのよね?」
「うん、音を遮る結界を張ってくれてるからエルには聞こえないですよ」
「そう・・・アレク様とは、その・・・同衾どうきんしたわ・・・」
「え・・・どう、きんって」
「だからっ、抱かれたわ!それともあんたの言葉で言うとえっちしたと言えばわかるのかしら?」
「えぇ??!!」

ちょっと待って?好きなんだよね?告白とかすっ飛ばして、えっちしちゃったの???!!!
何でそんな展開に????!!!!

あたしが頭を抱えて混乱してると、心配そうにしたエルが近づいてきたので“大丈夫”とアピールしておいた。

「えっと・・・なんで、そんな急展開に・・・?」
「・・・っ」

今度はクラリスさんがポロポロと涙を流し始めてしまった!
ちょっとちょっとっ!!まずは何があったのか教えてくれないと慰めようがないんだけど!!!

あたしがおろおろとしながらとりあえずクラリスさんの頭を撫でると、一瞬ビクって顔を上げたクラリスさんは、そのままあたしの胸に飛び込んで泣き始めた。
心配したエルが立ちあがってこっちに来ようとしたけど、“大丈夫”と手で制して話を続けた。

「クラリスさん、話せるようになったらでいいから何があったのか教えてね」

クラリスさんはあたしにしがみ付きながらコクンと頷き、あたしはそのまま背中を撫でたりして無言で慰めていた。
数分くらいそうしてから、クラリスさんがゆっくりと静かに話し始める。

クラリスさんの話では、あたしの妊娠が発覚した日の夜にカルステッドさん達と宿屋の食堂で皆でお酒を飲んでいたらしい。
途中リンダがジュースとお酒を間違えて飲んだことで酔っ払い、アルマさんがリンダを部屋に連れ帰った。
残ったメンツで飲み続けていたけど、そろそろ部屋に戻ろうかというときに、きっとリンダのそばにはアルマさんもいるはずだから「一人はイヤなのでアレク様と同じ部屋が良い」と言ったのだそう。

「・・・クラリスさんってものすごく勢いがあるというか、大胆ですね・・・」
「仕方ないじゃない・・・メラルダに着いたら私は迎えが来て、エルフの里に帰らないといけないんだもの。馬車の中では2人きりなんてなれないし、あの時しかないと思ったのよ」

なるほど。確かに2人きりになるのは難しそうだ。
常に先を考えて行動するアレク兄様は、宿にいても明日以降の予定について考えたり調べたりするに違いない。
ちなみに、今日の夕方メラルダに着いたばかりなのに、明日あたしはアレク兄様が手配した産院に行くことがもう決まっている。
お仕事早すぎませんか、アレク兄様。

「それで・・・2人になってからどうなったんですか?」
「・・・想いを打ち明けたわ。「あなたを好きになりました」と・・・。でも、アレク様はエリュシオン様やあんたに仕えることが最優先で色恋にうつつを抜かす気はない、と言っていた」
「・・・」

予想通りの返答で何も言えなくなってしまった。

「だから、アレク様を押し倒したの」

うんうん、そうか。アレク兄様を押し倒し・・・―――――――え?

「断られる理由が“嫌い”とか“好みじゃない”とかハッキリ振られるならまだしも、“最初の頃より、きちんと人の意見を聞くキミの方が好ましい”とか“エルフはやはり美しいな”とか言っておいて、断る理由が「俺はキミが好きではない”人間”という種族であり、色恋よりも“仕事”を最優先にする男だから別の男を探すと良い」って・・・納得できるわけないじゃない。私は、“人間”とかそういう関係なく”仕事”に誇りを持っているアレク様を好きになったの!」
「!!」
「エルフの里の常識しか知らなくて、まんまと人間に騙されて奴隷商で売られそうになった私を、バカにするでもなく種族で判断するでもなく私自身を見てくれた数少ない人。前を向くきっかけをくれたのはリンダだけど、前を向いてどう歩いていけば良いか、「どれだけ悩んでも良いから自分で考えて行動したら、どんな結果でも自分の経験になるから無駄なものなんかない」と、道を示してくれたのはアレク様なの・・・」
「クラリスさん・・・」
「身内のあんたに大分甘いのは正直腹が立つけど、自分の主であるエリュシオン様への忠義や、常に先を読んで行動する先見の目は素晴らしくて尊敬に値するわ。”仕事”を円滑にするために努力を惜しまず、予定通りに事を進めているときの嬉しそうで生き生きとしているアレク様を私は好きになったの」
「・・・」
「どんな結果でも、初めては私自身が好きになった人に捧げたかった・・・だから、抱いてとお願いしたわ」
「・・・そう、だったんですね・・・」


・・・どうしよう。
アレク兄様がクラリスさんに言ってること・・・当たり前のことを言ってるだけにしか聞こえないのはあたしだけ・・・?

クラリスさんを考えて言ったことではなく、簡単に言うと「自分のことは自分で考えて行動しろ」というあまり考えなしな友人知人に言ったり、大人が子供にお叱りするときに言う言葉に思えて仕方がない・・・
でも、クラリスさんにはそんな“当たり前”のことを教えてくれる人がいなかったのかもしれない・・・いや、いたけどクラリスさんが聞く耳持ってなかった可能性の方が高いのかな?

でも、アレク兄様はクラリスさんを抱いたんだよね?
どうしてなんだろう・・・嫌いじゃないとは思うけど、好きかというと正直そこまでの感情は伺えない。


「・・・私を抱く前に、アレク様はこう言ったわ。「俺が生涯共にする女性に求めるのは仕事上でも良きパートナーであることだ」と・・・」

うん、確かに言いそう。

「私はそのパートナーになれる可能性があるのか聞いてみたら、「それは今後の頑張り次第だ」と・・・」

ん?

「だから、エルフの里に帰ったら魔法や薬学、エルフの里で学べそうな役立つことをたくさん身につけるつもりよ。私はお母様似で魔力は高い方だから、転移魔法とかアレク様が使えない魔法を覚えたら役に立てるもの」

んん??ちょっと待って・・・それって・・・

「メラルダに着くまでは、一夜を共にしたのに何事もなかったかのような態度に納得できない気持ちと、情事を思い出してしまう恥ずかしさと、この後離れる寂しさでアレク様とどう接して良いかわからなかったけれど、あんたと話してたら少しスッキリして気持ちにも整理がついたかも。私、アレク様のお仕事を手助けできるようなパートナー目指してこれから頑張るわ!!」

本人ものすごく納得してやる気になってるから言えないけど、あたしの考えが間違ってなければ、クラリスさんの発言は“私、彼のために尽くす女になるわ”発言と同じだと思いますっ!! 
あぁっ!なんかものすごく昔の自分を見ているようで痛いっ!!だって、同じようなコトを浮気三昧バンドマンの元カレのときにあったもんっ!!!散々尽くした結果は”都合のいい女”にしかなりませんでしたというイヤな思い出だ。

いや、アレク兄様は浮気三昧なんかじゃない女遊びが激しいわけでもないけど、とにかく純粋な気持ちや好意からではない気がするとあたしの本能が言っている。・・・後でエルに相談してみよう・・・



とりあえず、思いっきり泣いて、あたしに言いたいことを話したクラリスさんは大分スッキリした顔で部屋を去って行った。
悩みが解決したクラリスさんとは逆に、今度はあたしが微妙な気持ちになったのは言うまでもない・・・

・・・男女の関係とはどこの世界も難儀なものだなぁ
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