上 下
235 / 512
6章 帰郷!エルフの里へ ~2人の婚約者編~

幕間 それぞれの喜び inセイルside

しおりを挟む


サーヤが妊娠した。

最近ちょっと眠そうにしてたり熱っぽい日が続いていると聞いてたから心配してたけど、どうやら妊娠が原因だったらしい。
まさかこんなにも早くエリュシオンとの子供ができるなんて思わなかったけど、よくよく考えたらまぁ当然かなと思う気持ちも少なからずあった。
・・・ふふ、エリュシオンってばアネモネクソ女の件以降の溺愛っぷりが凄かったからね☆


ボクがエリュシオンから報告を受けたとき、まだミナトやカイト達も起きてたからその旨を伝えた。

「サーヤままの、おなかに、あかちゃん・・・?」
「そう、サーヤとエリュシオンの子供だよ☆ミナトはお姉さんになるんだ♪」
「あたし・・・おねーさん・・・」
「ミナトがおねーさんになるなら、僕もおにーさんになるね。一緒に可愛がって護ってあげよう」
「まも、る・・・うん!サーヤままとそのこ、まもりゅのっ!!」

いまいち理解できてないかもしれないけど、自分にとってまた護る存在ができたことは理解したみたいだ。

「サーヤが、妊娠・・・」
「ベルナート・・・」

サーヤのことを“好き”でも、どういう好きかをいまいち自覚していないベルナート。
エリュシオンを婚約者として認めているし、これ以上2人の仲を引っ掻き回すことはないと思うけど、心配なのはベルナート自身の“心”だ。無意識にショックを受けたりしないだろうか・・・?

ボクがそう気にするのとは逆に、ベルナートは嬉しそうに微笑みながらこう言った。

「サーヤの子供なら絶対に可愛いし、俺のことも受け入れてくれそう。早く会いたい・・・」
「・・・そうだね☆2人の子供ならそもそも同じ“黒”の可能性もあるけど、そんなこと関係ないだろうね♪まだサーヤの体調が安定しなくて、とりあえず明日は1日安静にしてなきゃいけないみたい。これからも、移動中はまたベルナートの特殊空間で安静に過ごすことが増えそうなんだけど大丈夫?」
「もちろん大丈夫!魔力が減ってきたら、頑張ってあの薬を飲むよ!!・・・ただ、もう何本か回復薬が欲しいんだけど、できればエリュシオンに少し味の改良して欲しい・・・」

ベルナートの特殊空間は、維持するだけでも結構魔力を消費するらしい。
しかも、ボク達も一緒だからサーヤを誘拐したときよりも空間を広げていると聞いた。
今は妊娠しているサーヤから魔力を貰うわけにいかないから、維持するには余裕を見て数日に1度は回復薬を飲んだ方がいいみたい。
そんな見えない努力をしているベルナートには、またサーヤからのご褒美をお願いしておいてあげよう。

「ふふ☆そうだね、エリュシオンに味の改良について伝えておくよ♪」
「ありがと、セイル。助かる」

エリュシオンの研究室から調合の材料を持ってきたら、特殊空間内でも回復薬作ったり改良ができるよね。
明日にでも提案してあげよう。


ミナトやカイトが少し早めに寝入り、枕代わりの大きなわんこ姿になったベルナートも少しでも回復するため一緒に眠った。
森にいる精霊達も、サーヤの妊娠を聞いて大いに喜び、帰ってきたら盛大にお祝いしようと張り切っている。
この森に入った人間は生きて帰ることができないという“帰らずの森”が、今では人間であるサーヤをこんなにも受け入れていることに正直驚いた。
もちろん他の人間に対して精霊達は容赦ないけどね☆

エリュシオンが言うには、マゼンダがサーヤのためにウェディングドレスを作っているというし、結婚式を挙げるならきっと森だろう。気が早いかもしれないけど、精霊達にはそうなる可能性が高いことを伝え、今から準備をお願いしてみたら皆快く引き受けてくれた。
ふふ☆結婚式がいつになるのかまだわからないけど、サーヤはきっと驚くだろうね♪楽しみだ☆


そして、ボクにはもう一つ嬉しいことがあった。
エリュシオンから伝達魔法で連絡がきたとき、サーヤからボクに伝えて欲しいことがあると伝言があったのだ。



『セイル、サーヤは意識がないときのことを少しずつ思い出したときに話していたんだが・・・』
『うん、なぁに?』
『あいつは、夢の中で死ぬ者が渡るという大きな川にいたらしい』
『え?』
『しかも、その川に足を入れてバシャバシャと遊んでいたらしい』
『ぷっ、サーヤってばホントに期待を裏切らない行動をしてくれるよね☆』

死にかけたということは間違いないけど、その川で遊ぶなんてホントにサーヤくらいじゃないかと思う。
あ、リアもそういうことしてたかもね☆

『“それ以上はダメだ”と小さな手に引かれ川から遠ざかったようだ。・・・顔は見えなかったらしいが、お腹の子供が助けてくれたのでは・・・と思っている』
『ふふ、さすがだね☆そんなころからサーヤを助けるなんて♪』
『あぁ。だが、出逢ったのはそいつだけではないらしい。遥か下に森が見える崖の上に連れて行かれたとき、背中を押されて突き落とされたそうなのだが・・・』

川の後には崖の上から突き落とされるって・・・そっちの方が死ぬんじゃないかと思ったのはボクだけじゃないはずだ。

『夢の中なのに、随分な目にあってるね☆突き落としたのもまさかお腹の子供?』
『・・・いや、サーヤと同じシルバーブロンドで、紅い瞳をしていたようだが、少し猫目の女性だったらしい』

ドクンっと胸の鼓動が急に強くなった。
・・・サーヤと同じシルバーブロンドに紅い瞳で、猫目の女性・・・って

サーヤサーシャは猫目ではないし・・・サーヤは以前セイルの記憶の中で見たリナリアだった気がすると言っていた』
『・・・え?』
『そいつが“こっちにきてはダメだ”と言ってサーヤを突き落としたそうだ』
『!!!』

ドクン、ドクンっとさらに鼓動が強くなり、身体が歓喜に震える。

・・・リアだ。
理由を聞かれてもわからないけど、リアで間違いない・・・そんな気がした。

ということは崖の下の森は”現世”で、リアは”現世に戻れ”ってサーヤを崖から突き落としたの・・・?

ふふ、リアは相変わらずやることがサーヤに負けず凄いなぁ。
まさか、リアがサーヤをこんな形で助けてくれているなんて・・・完全に予想外だった。

『その女性とは・・・』
『うん、間違いなくリアだと思う☆ボクもそんな気がする・・・ホントに、リアってば・・・』

逢えなくなってから、こうしてサーヤを通してリアの存在をボク以外と共有できるなんて思わなかった。
今もリア自身が形を変えて、ボク達をちゃんと見守ってくれていることが何より嬉しかった・・・―――

『リアとお腹の子供が守ってくれたサーヤの命・・・ボク達もこれから全力で護らなきゃね☆』
『当たり前だ。・・・これからも、世話になる』
『ふふ☆ホントにエリュシオンは昔に比べてホントに素直になったよね~♪サーヤのおかげだ☆』
『・・・ぅ、うるさい。もう切るぞ』
『はいはい、おやすみ~☆』





さっきの出来事を思い返しながら、木の上で夜風に当たっていた。
この木もよくリアを連れて登っては2人で昼寝をしていた木だ。


「リア、サーヤを助けてくれてありがとう・・・」



さわさわ・・・と心地良い風に包まれながら、ボクはそのまま眠りについた。

夢なんてめったに見ないし、起きたらすぐに忘れてしまうボクだけど、その日見たのが幸せな夢だったことだけは起きてからも覚えていた・・・―――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる
恋愛
 気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。  主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。  もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。  ※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】悪役令嬢は元お兄様に溺愛され甘い檻に閉じこめられる

夕日(夕日凪)
恋愛
※連載中の『悪役令嬢は南国で自給自足したい』のお兄様IFルートになります。 侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは五歳の春。前世の記憶を思い出し、自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付いた。思い出したのは自分にべた甘な兄のお膝の上。ビアンカは躊躇なく兄に助けを求めた。そして月日は経ち。乙女ゲームは始まらず、兄に押し倒されているわけですが。実の兄じゃない?なんですかそれ!聞いてない!そんな義兄からの溺愛ストーリーです。 ※このお話単体で読めるようになっています。 ※ひたすら溺愛、基本的には甘口な内容です。

処理中です...