上 下
209 / 512
6章 帰郷!エルフの里へ ~2人の婚約者編~

トルク村で過ごそう ~親の決めた婚約者~

しおりを挟む


アルマさんはとりあえず部屋で休ませるためにリンダが支え、一緒にカルステッドさんとアレク兄様も、何かあれば呼んでくださいと言って退出していった。
そして、残ったメンツで成り行き上助けてそのままついてきてしまったエルフの彼女・・・クラリスさんをどうしようかという話になった。

ちなみに残っているのはあたしとエルとセイルとクラリスさん。
ベルナートさんはミナトちゃんとカイトくんを連れて先に森へ帰っている。
・・・話がややこしくなりそうだからね。


「・・・―――じゃあ、次はそこのエルフ女をどうするのか話し合おっか☆」
「いや、さすがにこの状態のままって・・・」

先ほど一緒に宿へ連れてきた際、名前だけ聞くことができたエルフのクラリスさん。
あたしがそばにいても、あたしのそばにエルがいてもとにかく苦言が多いわ暴れるわで、見かねたセイルが風魔法で拘束している状態なのだ。口も塞いでるからこれじゃ話すこともできない。

「自分では大した魔法も使えぬ役立たずが・・・このまま放り出されたくなかったら大人しく素性を話すことだな。同郷ならば親父を通して迎えを依頼するくらいしてやる」
「(コクコクコク)」

ホントにエルの言葉には素直なんだよね、クラリスさん・・・
とりあえず、セイルが口元の拘束だけ解いた。

「ぷは~っ、まったく何なのよ、私に対してこんな仕打ち、お父様が知ったらただじゃ済まないわよ」
「知るか。そもそもお前の親父が誰かなど知らん。お前はこのまま奴隷として売られた方が良かったかもな」
「ホントだよ!なんでそんなの拾ってきちゃったのさ、エリュシオン」
「知らん、勝手についてきただけだろうが」
「ちょっとっ、2人ともさすがにそれは・・・」
「王子様の名前・・・エリュシオンって言うの?」
「あぁ、そうだが・・・それがなんだ?」
「え、でもエリュシオン様って黒髪のはずじゃ・・・」

え?クラリスさん、エルのことを知ってるの??

「あぁ、今はピアスで髪色を変えたままだったな・・・なぜ俺を知っている?」
「それはもちろん自分の婚約者の名前ですもの!知ってて当然ですわ!!」
「は?」
「え?」
「へぇ」


なに?どういうこと??!!エルの婚約者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???!!!





「エル、どういうこと??婚約者ってあたし以外にいたの??!!」
「知らんっ!まったくもって身に覚えがないし、こんな女も知らん」
「へぇ、じゃあ誰が婚約者って決めたんだろうね☆」
「「!!」」

思わずエルに掴みかかってしまったけど、確かに女の人の気配なんてなかったし、あたしと出逢ってからはほぼずっと一緒にいるから他の女の人と逢う時間なんてないはずだ。

「俺を疑ったのか?」
「いや、あの、疑ったというか、混乱したというか、条件反射というか・・・」
「ふっ、今夜はお仕置き確定だな。覚悟しておけ」
「!!」

エルが意地悪な笑みを浮かべながら耳元で悪魔のように囁き、何事もなかったかのように会話を進める。
最近“お仕置き”という言葉にドキドキしちゃうのって、あれですか?あたしマデリーヌさんと同じ扉を開けそうになってるってこと??いや、まさかね?違うよね?!

「・・・―――で、お前を俺の婚約者だとふざけたことを言ってるのはどこのどいつだ?」
「私の父、エルフの里長であるゴルドとエリュシオン様のお父様のルーシェント様です」
「なっ、親父が?!」
「“黒”であるエリュシオン様は、里や国を出たとしても外界と馴染めずに戻ってくる。その際永く寄り添い合える伴侶と共に里で暮らせば良い・・・と」
「・・・親父」

いやいやいや、確かにエルの過去の話を聞いて”黒”というのがとても差別されるというのはわかったけど、いくらエルのお父さんだからって、“黒”だから外界に馴染めないって決めつけるのはどうなの??
それに、勝手に婚約者を決めるとかありえないっ!いつの時代よっ!!
エルは今ちゃんと自分で自分の居場所を作って生活してるのにっ!!そこを確認しようとはしないの??!!

(バンッ)
「そんなの認めません!!」
「サーヤ・・・?」
「“黒”だから外の世界と馴染めずに戻ってくる?その上婚約者を勝手に決める?!今現在のエルは自分でちゃんと居場所も作って仲間と呼べる人達と幸せに生活してるし、あたしという婚約者だっています!!親の決めた婚約者だかなんだかしらないけど、エルはあたしのモノです!!誰にも渡しませんっ!!!」
「サーヤ・・・」
「なっ、たかだか人間風情が偉そうに・・・」
「人間風情、人間風情って言うけど、エルフはそんなに偉いんですか?人間よりも立派な生き物なんですか??里に籠って外の世界を何も知らずに見下してるだけの長生き種族のどこが偉いって言うんですか!!!」

なんなの?エルフって気位の高い種族とは思ってたけど、こんなに自分達第一主義の閉鎖的な種族なの?
それともクラリスさんだけ?いくら何でもエルのこと考えなさすぎでしょっ!!!!

あまりにも腹が立って興奮したあたしの頭を、エルがぽんぽんと撫でて落ち着かせてくれてるとき、セイルが盛大に噴き出した。

「ぷっ、はははっ・・・長生き種族って、サーヤ最高☆」
「なっ、なんなの?!そこの女も緑の男もっ!エルフは崇高な種族なのよっ、野蛮な外界と関わるわけないでしょ!!!」
「崇高ねぇ・・・ちなみに、ボク、これでも風の精霊王でその辺のエルフより何倍も生きてるんだけど、エルフは精霊王よりも崇高なのかなぁ」
「は?風の精霊王様ですって?なんでこんなところに・・・」
「だって、サーヤにボクの加護与えてるし☆」
「え?人間が精霊王様の加護を??!!」
「あとここにはいないけど、サーヤは他にも主従契約している火の上位精霊や、次期水の精霊王、闇の精霊王、無属性の精霊王、地の精霊王の加護も受けてる。あ、もうすぐ火の精霊王の加護も追加される予定だね☆」
「嘘っ、そんなわけない!なんで1人の・・・しかも人間ごときにそんな複数の精霊王様が加護を与えるの?!ありえないわ」
「精霊だろうが精霊王だろうが、サーヤのことを気に入ってるから加護を与えている、それだけだ。どうせあいつらは明日も来るから確認なりなんなりすれば良い」
「明日?確認って・・・」
「ごちゃごちゃうるさい。とりあえず今日の話はこれで終わりだ。親父には今夜のうちに連絡しておいてやるからもう出ていけ」

そう言ってエルは、いつの間にか呼んでいたカルステッドさんにクラリスさんを託した。
セイルも「じゃあボクも森へ帰るね☆啖呵切るサーヤカッコ良かったよ♪」と言って帰っていった。

残っているのはソファに座ったあたしとエルの2人だけだ。

「くくっ、“誰にも渡さない”ね・・・」
「うぅ・・・恥ずかしいから蒸し返さないで・・・」
「断る」
「んんっ」

エルがあたしを抱き寄せて甘いキスをする。
でもせっかく2人きりになったのに、まだあたしの心は未だにモヤモヤしたものが残っていたし、エルもなんだか疲れているというか不機嫌な状態だった。

「エル、お父さんが決めた婚約者がいたんだね」
「知らん。親父の奴、勝手に・・・」
「勝手に決めるのは確かにどうかと思うけど、お父さんなりにエルがいつ帰って来ても良いように・・・って思ってたのかもね」
「・・・余計なことを」
「ん、ふぁ・・・んんっ」

エルがさっきまでの苛立ちをあたしにぶつけるようにキスしてくるけど、あたしといちゃいちゃするだけじゃ解消するのは難しい気がするし、それ以外の気分転換方法もあった方が良いよね?何があるかな?

キスを甘受しながら、こんなとき昔ならよくパーッとお酒飲んでたなぁとふと思った。
そういえば、この世界に来てから飲んだことなかったけどどんなお酒があるんだろう。

「ん、はぁ・・・ねぇ、エル。この世界のお酒ってどんなのがあるの?」
「ん?どうした、急に」
「・・・ちょっと今夜は飲みたい気分です」
「ふっ、確かに飲んで忘れるのも良いかもな」

試しに聞いてみたら、この世界にも呼び方が若干異なるがビールやワイン、果実酒など色々お酒があるみたい。
この世界では初めて飲むお酒だし、あたしはそんなに強くなさそうな果実酒を飲むことにした。
エルはトロッケンという辛口のワインを飲むらしい。

「親父に伝達魔法で知らせてくるついでに買ってくる。準備して待っていろ」
「うん、わかった」






嫌なことはお酒を飲んで忘れるに限る。この世界でも同じみたいです。

--------------------------
※クラリスさんは今のところだいぶ痛い子ですが、後の話に書きますが育ってきた環境が原因です。
 素直故に身近なモノや人の言葉を信じて育ってきた子ですが、一応根は悪い子ではありません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる
恋愛
 気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。  主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。  もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。  ※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】悪役令嬢は元お兄様に溺愛され甘い檻に閉じこめられる

夕日(夕日凪)
恋愛
※連載中の『悪役令嬢は南国で自給自足したい』のお兄様IFルートになります。 侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは五歳の春。前世の記憶を思い出し、自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付いた。思い出したのは自分にべた甘な兄のお膝の上。ビアンカは躊躇なく兄に助けを求めた。そして月日は経ち。乙女ゲームは始まらず、兄に押し倒されているわけですが。実の兄じゃない?なんですかそれ!聞いてない!そんな義兄からの溺愛ストーリーです。 ※このお話単体で読めるようになっています。 ※ひたすら溺愛、基本的には甘口な内容です。

処理中です...