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5章 帰郷!エルフの里へ ~記憶喪失編~

港町を満喫しよう ~呪いを解くための代償2~

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「“代償”は・・・おねーさんの、“大事なモノ”だよ」


部屋の空気が緊張感に包まれてピリピリとした雰囲気になる。
エルとセイルは予想していたのかしていないのか、少し難しい顔をして躊躇しているようだ。
たぶんあたしを気遣ってくれているんだろう。

エルの呪いを解くために必要な代償が、あたしの“大事なモノ”?
あたしにできることならなんでもするつもりだったので、あたしはカイトさんに尋ねた。

「呪いを解くために必要な代償・・・あたしの“大事なモノ”ってなんですか?」
「・・・おねーさんの魔力がたっぷり籠っているその綺麗な髪の毛だよ。もちろん1本とか少量じゃなくて一束は必要」
「なっ」
「それって、髪の毛全部じゃなくてこれくらいとかでも大丈夫なのかな?」
「うん、それだけあれば充分だよ」
「おいっ、サーヤ!」
「ちょっと、サーヤ?!」

あたしは立ち上がり、部屋の中にはさみがないかを探す。
すると書斎として使える部屋の机に文房具があり、その中に鋏もあった。
迷いなく手に取り、先ほどカイトさんに確認した長さまで一気に切ろうとした。

「やめろっ、サーヤ!!」
「きゃっ!エル、危ないから離して!!」
「お前が鋏から手を離せっ!髪は女にとって命の次に大事なモノのはずだ!!お前を助けた時に焼けていた部分だけ仕方なく切ったが、これ以上切らせたくはないっ!!」
「!!・・・エルっ、あたしを助けたときのこと・・・思い出したの?!」
「え?・・・あ、俺は・・・」
「少しずつ思い出してる部分が増えてきたけど、断片的過ぎて繋がらない感じなのかもね」
「セイル・・・」

セイルの言うとおりだろう。
あたし自身を覚えていない状態のエルが、頭の中に自分とあたしの映像だけ見えたって困惑するだけだ。
鋏を持ったあたしを止めようとエルに抱きしめられているが、現に記憶が混乱してしまったエルは手を緩め、頭を抱えてしまっている。

・・・これ以上、記憶喪失でエルを苦しませたくないし、あたしも早く記憶が戻って欲しい。

あたしは一度鋏を置いて、頭を抱えているエルの手に優しく触れて、自分の方へ引き寄せる。

「あたしにとって一番大事なのは、エル、あなたなの。髪の毛って言ったって、禿げるほど必要なわけじゃないし、切ったら伸びるんだから大丈夫!」
「なっ、禿げっ・・・?!」
「いいからいいから」
「んっ」

あたしは背伸びをして動揺しているエルにキスをして黙らせた。

「髪は確かに大事だけど、エルのためならいくらだってあたしは差し出すよ!」
「!!」

エルに笑顔でそう告げた後、あたしは再び鋏を手に取り・・・――――――


ザクッ、ザクッ、はらり、

ザクッ、ザクッ、ジャキンッ


髪の毛を切るあたしを呆然と見つめているセイルとカイトさん。
ミナトちゃんはお菓子を食べたあとそのまま眠ってしまったようだ。

肩より少しだけ短くなったあたしのシルバーブロンド。
大雑把に掴んで切ってしまったので、少し落ちてしまったし切ったあともいびつだが、後でエルに整えてもらおう。


「カイトさん、これでいい?」
「・・・あ、うん。・・・おねーさん、どうして迷わなかったの?」
「え?さっきも言ったけど、髪の毛って伸びるじゃない?」
「へ?」
「“代償”が命とか内臓を1つって言われたらさすがに迷ったけど、髪の毛だったら怪我も何もないし、全く問題ないかなって!」
「え?えぇ?!」
「っぷ、ははははっ、サーヤってばホント最高っ☆こっちがビックリするくらい時々男らしいことするよね♪」
「ちょっと、セイル!それどーゆー意味よっ!!」

あたしが迷いなく髪を切って差し出したことに、カイトさんはとても驚いていた。

この世界では、女性にとって髪の毛は命の次に大事と言われているらしい。昔の日本みたいだね。
でも、この世界で髪の毛を大事とされているのには、ちゃんと理由があった。
髪の毛は魔法を使う人にとっては魔力を貯めておいたり、髪に魔力を込めて使うこともあるため、切る=魔力を失うことにつながるらしく、大事に手入れすることはあってもお洒落とかで切るということがほとんどないんだとか。
犯罪を犯した際の刑罰にも断髪とあるくらい、特に魔法を使う人は髪を切ること嫌うそうだ。
魔法をあまり使えない平民や獣人さんはそこまで気にしないみたいだけどね。

あたしはもちろん前の世界でもボブヘアだったから、今と同じか少し短くなったなぁ位の感覚しかない。
魔法だって、周りにエルや精霊王さんというすごい人が多いので自分で使うことはほとんどないし、あるとすれば魔力をあげるくらいしかしていない気がする。
それに切ってから思ったけど”魔力の器”という能力のおかげなのか、髪を切っても魔力が減った気が一切しない。
なので、あたしにとってはまったくもって問題ないみたいである。


切った髪の毛をカイトさんに差し出して、改めてお願いする。


「カイトさん、これでエルの呪いを解いてください・・・お願いします」
「うん、おねーさん、僕に任せて」


カイトさんはエルにベッドで横になるよう指示をして、あたしの髪の毛を持ちながら呪文を詠唱し始めた。
あたしとセイルは寝室の入り口まで離れてその様子を見ている。


呪文を唱え始めたカイトさんの身体全体が白く発光し始めた。
そして、寝ているエルを中心に光による魔法陣が浮かび上がる。

カイトさんが呪文を詠唱し続ける間、時折エルが苦しそうにしていたけど、少しずつ苦しさが和らいできたのか表情が落ち着いてきた。
ぱんっとカイトさんが合掌したのを合図に、エルを包み込んでいた魔法陣が消え、カイトさんの身体も発光しなくなった。

魔法ってやっぱり綺麗だな・・・と思わず見とれてしまうくらい神秘的な儀式の様な光景だった。



「・・・終わった、のかな?」
「みたいだね」

カイトさんを見ると、ニコっと微笑んで終わったよと合図してくれたので、あたしはベッドで横になっているエルに駆け寄った。

「エル・・・、エル?」
「ん・・・」
「エルっ、エル!」
「ぁ・・・サーヤ・・・」

エルは優しく微笑んで、あたしの頬に手を添えた。

「ただいま、サーヤ・・・たくさん泣かせてしまってすまなかった・・・」

エルはそう言って、無意識に泣いていたあたしの涙を優しく拭ってくれた。

「もう大丈夫だ。おいで、サーヤ」
「・・・っく、エ、ル・・・エルぅ~~~~~~~~~」
「ったく、啼くのはベッドの上だけにしろと言って、痛っ」
「っぐず、ここも、ベッドの上だもん・・・エルのバカ・・・」
「ふっ、違いない」


呪いが解けて、無事にエルの記憶が戻った。
どこが違うのか聞かれたらうまく答えられないけど、過去のエルじゃなくて、ちゃんとあたしを愛してくれている大好きな記憶喪失前のエルだということが感覚でわかる。




帰ってきた・・・あたしのエルが帰って来てくれた・・・




嬉しすぎて泣きじゃくるあたしを、エルはゆっくり起きてから優しく抱きしめ、耳元で一言囁いてから触れるような優しいキスをした・・・―――
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