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5章 帰郷!エルフの里へ ~記憶喪失編~

故郷へ行こう ~準備編~

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突然届いたエルのお父さんからの手紙には、こう書いてあった。




マゼンダから話は聞いた。
一度婚約者であるサーヤ殿を連れてエルフの里へ来るように




・・・え?これだけ?
帰って来いって言う理由はないの?

「・・・ったく、あの親父はホントに言葉が足りん」

うん、ごめんねエル。それはあなたにも言えることなんだよ。
間違いなく血のつながったお父さんだね。

「ねぇ、エル。この手紙って、来いってことは書いてあるけど、いつとかいつまでにってことは書いてないみたいだね」
「あぁ、エルフやハイエルフは長寿で時間の感覚がゆっくりだから、期限を決めることが少ない」
「え?じゃあ“連れて来い”ってあるけど、いつまでにってのは決まってないってこと?」
「そうだな」

えぇぇぇぇぇ??!!
じゃあ今すぐじゃなく、何年後とか、ヘタしたら何十年後とかでも良いってこと????!!!!

「あ、でも“婚約者である”って書いてあるから今すぐという意味だろうな」
「え?どうして?」
「マゼンダがお前のウェディングドレスを作っている。完成するのは半年~1年以内。結婚したらサーヤは“婚約者”ではなく俺の“妻”になる」
「俺の・・・妻・・・」

・・・なんか、ちょっと結婚に実感が湧いてきちゃって“俺の妻”というエルの言葉が妙にくすぐったい。
えへ、なんかにやけちゃいそう・・・

「・・・嬉しそうにしてるところ悪いが、エルフの里は遠いぞ。もし旅行を楽しみたいなら準備をしてすぐにでも出発した方が良いくらいだ」
「そうなの?」
「あぁ、エルフの里は海を越えた隣国にあるからな。さすがに転移魔法で海は越えられん」
「海の向こう??!!」

そうなんだ。あたし、この国のことすらも良く知らないから・・・
でも、エルと旅行できるならすごく嬉しいっ!

思わぬ旅行にうきうきしてると、そばにいた天使に服をくいっと掴まれた。

「サーヤまま、おでかけすゆの?」
「ミナトちゃん・・・」

あ、旅行で、しかも遠くだから・・・ミナトちゃんと一緒に行けないかな?

「精霊は海に関係なく加護を与えているサーヤの元に転移できるはずだ。セイルかベルナートに頼めば大丈夫だろう。・・・ただし、夜は奴らと共に森へ帰ると約束してくれるか?」
「たまに、サーヤままと、エルぱぱと、いっしょに、おねむしてもいい?」
「・・・たまに、ならな」
「うんっ!ぱぱ、だいしゅき♡」

・・・エルってば、夜はえっちするのを邪魔されないようにミナトちゃん経由で他の精霊王さん達を帰す約束をしようとしたんだね。でも、さすがに天使に一緒にいたいって言われたら断れないらしい。
ふふ、エルもしっかりミナトちゃんのぱぱが板についてきたなぁ。


あたしとの結婚を意識してくれた時、いつかは親に紹介することも考えてくれていたみたい。
ゆくゆくはあたしをエルフの里に連れていくつもりだったらしいけど、今回こうしてお父さんから手紙をもらったことで「じゃあ旅行も兼ねて行くか」という話になった。

そんな軽いノリでいいの?!
あたしにとっては一大イベントなんですけど??!!




そんなあたしの気持ちはなんのその。
とりあえずエルの故郷であるエルフの里へ行くことが決まったのでした。





すぐにでも出発したい気持ちはあったけど、ダンジョンに行ったというフランさんが戻ってきて、加護を与えてもらってからにしようということで、ゆっくりと準備をすることにした。

エルは王都にいるマゼンダさんに連絡を取り、お父さんに何を話したのか聞いたそうだが、エルが婚約者を連れてお店に来たことと、結婚式を挙げる際のドレスを作る話を手紙に書いたくらいだという。
マゼンダさん曰く、エルのお父さんは漆黒の髪ということで辛い想いをしてきたエルをとても気にかけているようで、婚約者であるあたしを自分の目で見て安心したいんじゃないかとのこと。

・・・アレですね、普通なら逆だけど「息子さんをあたしにください」的なことをあたしがするってことだよね?

「エルのお父さんに認めてもらえるように頑張らないとっ」
「・・・別に関係ないだろう。万が一認めなかったとしても、俺はお前を嫁にする」

エルの言葉に胸がきゅんとした。
なんか、“俺の嫁”とか“俺の妻”とかそういう言葉がより結婚をリアルに感じさせてくれて、最近嬉しくてニヤニヤが止まらないのだ。

「・・・なに腑抜けた顔をしている」
「ふにゅっ・・・へへ、エルに“嫁”とか“妻”って言われると、結婚するんだなぁって改めて実感して嬉しくなっちゃうの~」
「そんな言葉だけで嬉しいのか?・・・ふっ、おかしな奴だな」
「むっ、おかしくなんて・・・んんっ」

最近のあたしって、幸せ過ぎじゃないだろうか?
幸せ過ぎてちょっと怖いんだけどっ!!

「ん、エル・・・あたし幸せ過ぎて怖いかも・・・」
「・・・幸せなのに怖いのか?」
「だからだよ。・・・この幸せがずっと続くかなって・・・続いて欲しいなって・・・」

エルはあたしの言葉に少し考えるようなそぶりを見せた後、甘く優しいキスをしながらこう言った。

「お前はもう十分辛い思いをしてきたんだ。幸せになったってバチは当たらないさ。それに、これから先何があっても、俺がお前の幸せを護ってやる」
「んんっ、ぁむ・・・エル、はふっ・・・」
「んっ・・・だから安心して俺の側にいろ・・・サーヤ」
「んぁ、エル、大好き♡・・・ずっと、一緒だよ、ぁふ・・・んむっ」
「あぁ、そうだな」




少しだけ感じた不安も、エルの言葉や態度で一気に吹き飛んでしまった。
エルはいつでもあたしを誰よりも理解してくれる。この幸せを護りたい気持ちはあたしも一緒だ。

より幸せになるために、まずはエルの家族にも認めてもらわないとね!!



結婚を認めてもらうため、決意新たにエルフの里へ向かおうと切り替えたあたしは、その先であんなことが起こるなんて想像もしていなかった・・・――――――
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