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4章 打倒!悪役令嬢ヒロイン

攫われた悪役令嬢 ~エリュシオンside~

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サーヤが攫われた・・・


しかも、アネモネバカ女が帰城する前に、しかも俺の目の前で・・・

「くそっ!!!!」

ダンッと拳を壁に叩きつけるが、単なる八つ当たりで何かが変わるわけではない。

サーヤが連れ去られた直後、セイルがすぐにサーヤの気配を探ったが、攫った闇の精霊王の特殊な空間にいるのか、サーヤの意識がないのか、セイルがいくら呼び掛けてもサーヤからの反応はなく場所も特定できなかった。

そして、目の前で闇の精霊王なかまがサーヤを攫ったことで、ミナトは警戒していなかった自分を責め続け、今は泣きつかれて眠っている。
ミナトはその前にも、サーヤと一緒に眠った部屋の窓辺で、闇の精霊王であるベルナートと久方ぶりの再会をして、仲良く話したばかりだった。
まさか自分の仲間が自分の大切な人を攫うなど思ってもみなかったんだろう・・・当たり前だ。

精霊は人間と違って、仲間意識がとても強い。しかも精霊王となると、永い時を生きる以上どうしても話し相手は仲間内となる。
一緒に居合わせた地の精霊王ノルンは数百年ぶりと言っていたし、セイルも実体で会うのはノルンと同じくらいだと言っていた。

まだ幼いミナトが知っているのは、誕生した頃に黒い蝶々に擬態した闇の精霊王が会いに来たからだという。
ミナト自身、実体で会ったのは今朝が初めてのようだ。だから相当嬉しかったんだろう。
・・・それを裏切るような真似をしおって・・・許さん。

「エリュシオン、怒る気持ちはわからないでもないけど、ちょっと冷静になってよ。サーヤを少しでも早く見つけることが最優先でしょ?」
「・・・っ、そう、だな。今はとにかく情報が欲しい・・・」

アネモネバカ女への対応は指輪を渡したレヴィンと王太子ボンクラに任せてある。
マデリーヌが姿を消した状態でそばにいるから、何かあれば俺にも念話で話が入ってくるはずだ。

「・・・ボク、どうしても腑に落ちない点があるんだよね」
「腑に落ちない?」
「闇の精霊王であるベルナートは、とにかく眠るのが好きで、めんどくさがりでもあるんだ」
「?・・・だからどうした?」
「ベルナートは、どこかで眠っていたはずなんだよ、ここ数百年は。
 なのに、今回アネモネクソ女が帰城した日に姿を現した・・・。
 自分で起きたんじゃなくて、どっかの誰かに無理やり起こされたんじゃないかな」
「!!」
「サーヤ曰く、アネモネクソ女はリアやサーヤのようにこの世界の物語を知ってるわけでしょ?
 だとすると、ベルナートが登場人物なら知っていてもおかしくないと思うんだよね」
「確かにそうだな・・・それなら急にあらわれたことも納得できる。
 だが、なぜサーヤを攫う手助けをする?アネモネバカ女を好きになったとでもいうのか?」
「ん~・・・、それは考え難いかな。率直に言うとアネモネクソ女はベルナートの好みのタイプじゃない」
「では、ノルンが言っていたが、ベルナートがあらわれた時、サーヤが自分から近づいたとも言っていた。
 あのバカは何で知らないヤツに近づいた?帰ったら徹底的に教え込まねば・・・」
「あ~・・・それは許してあげてよ、エリュシオン。ベルナートってね、キミに似てるんだ」
「・・・は?」

俺に、似てる・・・だと?

「近くで見たら、瞳の色も顔も耳の形も違うことはわかるだろうけど、この世界で漆黒の髪は畏怖の対象だ。
 フード付きのローブを着ているベルナートはフードを目深にかぶっていたはずだよ。
 そして、冷静だったら遠目から見ても違和感を感じるかもしれないけど、あの時キミ達は・・・」
「・・・そうだな。サーヤを怒らせて、それから会ってなかったんだ。まだ怒って・・・」
「謝りたいって言って泣いてたよ。・・・早くエリュシオンに会いたいって。
 そんな状態のサーヤが黒髪をエリュシオンだと思い込むのは仕方ないんじゃないかな?」
「・・・っ」

謝りたい・・・?あいつは別に悪いことはしてないだろう?むしろ謝るべきは俺の方だ。

サーヤと一緒にいるととても心地が良い。
一緒にいたくて、そばにいたくて・・・そばにいると触れたくなって、触れた後の反応がもっと見たくて結果的に最後までシテしまうことが多かった。

イヤだと言いながらも、快楽に溺れるサーヤはとても愛おしく、他の奴らに見せたくないと思いながらも、見られるかもしれないと恥じらうサーヤがまた敏感で、たまらなくて・・・

「ねぇ、エリュシオン・・・キミが初恋拗らせまくりで、可愛がってるサーヤを構いたくて仕方がないのはわかるけど・・・」
「拗っ・・・っ初恋だと?!」
「ふふ♪やっぱり図星?とにかく、サーヤの気持ち、もうちょっとくんであげても良いんじゃない?
 ・・・キミ達は、まだまだこれから先一緒にいられるんだからさ」
「・・・すまない」
「なんでボクに謝ってるのさ☆謝るならサーヤにでしょ♪
 あ~あ、いっそのことサーヤがベルナートの加護を受け取ちゃわないかな~。それで万事解決する気がするよ♪」
「闇の精霊王の加護を?なぜだ?」
「さっき言ってた、ベルナートがアネモネクソ女を手助けする理由なんだけど、もう一つ可能性があってね。
 もしかしたら、アネモネクソ女はベルナートの真名を知ってるのかもしれない」
「真名・・・加護を与える者にしか教えることがないのではなかったか?」
「本来はそうなんだけど、リアもボクの真名、教える前から知ってたんだよね~」
「・・・ってことは」
「精霊王は真名を知っている者に手を下すことはできない。もしその呪縛から解き放たれたいときは、別の者が対象を殺すか・・・加護の対象が居ないなら別の者に加護を与えるしかないんだ」
「!!!」
「真名で呼ぶのを許されているのは本来加護の対象のみ。他人に知られてはいけないんだ。知られすぎると精霊王の存在そのものが危ぶまれる」

精霊王に「殺す」と脅すようなものか・・・
アネモネバカ女は本当に最低、最悪の人間のようだ。

アネモネクソ女がどこまで知ってるかわからないけど、ベルナートの性格を考えると真名を教えてるとはとても思えない。真名をバラすとかなんとか言って、脅されてると考えた方がボクは納得できるんだよ」
「・・・最悪のクソ女だな」
「ふふ、奇遇だね☆ボクも同意見だよ♪一応人間の間では次期王妃ってことで名が知れ渡ってるみたいだから、急に消しちゃうのはまずいかなと一応自重してるんだよ、ボク♪」
「・・・ふん、人間がどうなろうが俺には関係ない。サーヤさえ戻れば後は国が滅ぼうが俺は知らん」
「こらこら、エリュシオン☆昔の瞳に戻ってるよ!サーヤが返ってきたときに怖がられても知らないよ♪」
「・・・サーヤ・・・」


待っていろ、サーヤ・・・
何があっても必ず助け出す。


だから、どうか無事でいてくれ・・・
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