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3章 いざ王都へ

幕間 王太子の憂鬱 ~ユーリウスside4~

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しばらくたってから父に呼ばれ執務室へ行くと、衝撃の事実を聞かされた。

やはり、彼女はサーシャであるということ。
衝撃だったのは、“帰らずの森”へ追放された際、別の馬車で一緒に移動していたアネモネが、どうせ森で恐怖におののきながら死ぬくらいなら・・・と、魔導士を使ってサーシャを殺そうとしたということだ。

・・・信じられなかった。そんなの酷すぎる。

サーシャは森へ逃げ出すも瀕死の重傷を負ってしまい、それを助けたのが森に住んでいる黒髪の男性だが、彼女が目覚めたとき、名前以外の記憶がなかったようだ。
それからは二人で森で暮らしており、今は婚約もしているということか・・・。

「彼女は自分の家に戻るより、エリュシオン・・・彼との森での生活を望んでいる。オレはそれが彼女の“幸せ”だと思っているよ。これから先、彼女がユーリの隣に立つことは決してないだろう」
「・・・っ」

二人の雰囲気を見ていても明らかだった。とても想い合っていて、オレの入る隙などない、と。

「ユーリ、お前ができるのはこれから先、彼女に一切関わらないことだ。・・・お前は彼女がそれを望むくらいのことをしたんだよ。肝に銘じておきなさい」
「・・・っ、は、い。わかりました・・・」

謝罪すらも、させてもらえない・・・ということか。確かにそれで許されるものではないよな。

「それよりも、だ。ユーリ、お前はまだアネモネ嬢を妃に迎えようという気持ちがあるかい?」
「!!」

それは、最近少しだけ疑問に思っていた事だった。
「これで本当にいいのか」「アネモネとこの国をよりよく治めていくことができるのか」・・・さっきの話を聞いて余計に自信がなくなってしまった。

「もう一つ大事なことを言うと、アネモネ嬢はお前に“魅了”の魔法を使っている可能性が高い」
「・・・え?」
「俺の客人は魔法にとても精通していてね、しかも今日は風の精霊王様もいた。
 彼らは、お前から効果が切れかかっているが“魅了”の魔法を感じると言っていた」

・・・意味が解らなかった。魅了の魔法?そんなもの、何のために・・・いや、気づいてしまったが、正直気づきたくなかった・・・。

「・・・オレは、アネモネの魅了魔法によって、サーシャを・・・大事な人を傷つけてしまった、ということですね・・・」
「・・・あぁ、そういうことだろう」

オレはどこまで過ちを繰り返してしまうんだろうか。いっそのこともう王太子を辞退した方が良いのではないかとすら思えてくる。

「王として問おう。ユーリウス、お前は今でもアネモネを王妃として迎えようという気持ちはあるか?」
「オレ・・・いえ、私はアネモネ=ウィンスレットの罪をすべて暴き、この国の法をもって裁くべきだと思います。私が次期国王であってもなくても関係なく、です。」
「・・・お前自身はどうする?」
「私は・・・次期国王を第二王子であるルーファスに譲り、いかなる処分も受ける所存です。」
「なるほどね・・・だが、ユーリ。国的にお前は罪を犯しているわけではない。寧ろお前は被害者だ。
 処分をすることはできない。」
「・・・それは、なぜでしょう」

オレは確固たる証拠もないまま、サーシャを断罪しあまつさえ森へ追放する処分まで下してしまった。
罪がないわけがなかった。

「すべてはアネモネ嬢の“魅了”が原因だ。お前は正常な判断ができたとは言い難い。もちろん全くの無罪とはならないが、情状酌量の余地は十分にある。お前の頑張り次第では、このまま王太子であり続けることも可能だ」
「しかし・・・」
「お前ができる彼女への罪滅ぼしは、彼女がこの国で暮らしやすくなるよう今後も繁栄させることだ。
 彼女は婚約者とこれからも森で、国内で暮らす事を望んでいるんだぞ」

・・・確かに、彼女が・・・国民が暮らしやすくなるよう統治することは、国王になる者しかできない。
それが罪滅ぼしになるのか・・・

「それにね、アネモネ嬢の罪を暴く件については、彼女を含め、今日出会った彼らも協力してくれると言っている。こんなに頼もしい味方はいないよ。
彼らの協力に報いるためにも罰を受けるのではなく、これから先もずっとこの国のためになることをし続ける、それが彼女への罪滅ぼしであり、お前への罰になるんじゃないかな」
「・・・っ」

やっと、自分の中で踏ん切りがついた気がした。
今後彼女に会えないことは辛いが、オレの隣でなくともこの国で幸せに暮らしてくれているのなら、それで良いのかもしれない・・・いや、それ以上を望んではいけない。

「わかりました。私、ユーリウス=ルド=ガルドニアは今後の終生この国のために尽くすことを誓います」
「うむ。その決意、しかと受け取った」

父・・・いや、王が出した拳に自分の拳を合わせる。
明日はさっそく作戦会議ということで、自分も参加することになった。

だが、その前に彼らを晩餐に招待したのでそこに参加するかと問われた。
今後はサーシャとしてではなく、戸籍を書き換えサーヤとして生きる彼女と初対面として挨拶するのなら、晩餐に参加しても良いと言われた。

少しでも彼女と話ができるなら・・・と参加してみたが、久々に見る輝くようなシルバーブロンドと吸い込まれそうな深紅の瞳、そして瞳と同じ深紅のドレスの彼女を、今までに見たどの令嬢よりも美しいと思った。
そして、自分の隣にいたかもしれないという未来が潰えたことを心から悔やんだ。

挨拶は丁寧だが、「慣れ合うつもりはない」と拒否しているのがわかり、少し寂しかったが、婚約者の男性や父上が精霊様と言っていた二人とはとても仲睦まじく、彼女がすでに幸せを手にしていることにホッとする気持ちと寂しい気持ちと両方あり複雑だった。

だが、父上にも宣誓したとおり、彼女の笑顔を護るためにオレはオレのできることを頑張らなければ、そう思うよう努めた。


せっかく和やかな感じで晩餐が終わったのに、城に泊まる際の部屋まで婚約者殿と一緒とは思わなくて、また余計なことを言ってしまった。
・・・今夜も婚約者殿はサーシャのあの肢体を・・・あの柔らかそうな胸を・・・

・・・はっ!!ダメだダメだ!考えちゃダメだ!!



オレは悶々とした気持ちを抱えながらも、明日の話し合いや対応策を考えるようと必死に頭を切り替えて眠りについた。
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