上 下
120 / 512
3章 いざ王都へ

幕間 王太子の憂鬱 ~ユーリウスside3~

しおりを挟む

サーシャに似た人物に会うことができないまま、その日は城へ帰った。

翌日、例の客人が来るということで少しでも会えないか、顔だけでも確認できないかと思い、いけないことだとわかりつつも二人が案内された貴賓室にアルバート共に向かう。
案内した者から、父上の客人が黒いローブの男性と白いローブの女性と聞き、昨日会えなかった二人ではないかと予想した。

中を覗くことができないか、アルバートがドアに張り付いているときに、彼が急にドアを開け放ち突入してしまった。いったい何をやってるんだっ!!

「きっ、貴様ら!こんな、白昼堂々、くっ、く・・・口づけをし、し、し・・・昨日だってっ・・・」

口づけ・・・?アルバートが何を言いたいのかはわからないが、単語からこの部屋で二人は口づけをしようとしていたのかと推測する。
昨日のことと言い、この二人には節度というものはないのか?ここは王城だぞ?!

「俺達は王の貴賓として呼ばれてここで待っているだけだが、主らは誰だ?」
「アルバート、君が話すと場が混乱するだけだから少し黙っていてくれ。
 申し訳ない、客人の方々。私はこの国の王太子、ユーリウス=ルド=ガルドニアです。」

声をかけてきた男性は、漆黒の長い黒髪をしたエルフだった。
黒髪は魔力が高く、不幸の象徴とも呼ばれており、対面したのは初めてだが見れば見るほど恐ろしい。
一緒にいた女性はこの男性に抱きかかえられており顔が見えない。

「この国の王太子が俺達に何の用だ?・・・昨日からうっとおしくて仕方なかったぞ」
「貴様っ」
「アル!!」
「っ、申し訳、ありません・・・」
「昨日から貴殿らへの非礼、申し訳ない」
「別にこちらは謝罪を要求していない。なぜ俺達に付きまとう」
「・・・それは、貴殿の連れの女性が・・・俺の知り合いに似ていて・・・」
「ほぅ、似ているだけで付きまとうのか。ずいぶんとご執心だな、そのとやらに」

昨日のドレスショップのオーナーと言い、弟であるという目の前の男性と言い、王族に対しての態度が不敬すぎではないか?アルが口を出すとややこしいので止めたが、いい加減裁いた方がいいような気がする。

「元婚約者で・・・大事な人、だったのです。今はもう会えませんが・・・」
「「?!」」

相手が驚いているのが見える。
そして、抱きかかえられている彼女とようやく目が合った。

「・・・ユーリ・・・殿下・・・」
「・・・サー、シャ?」

彼女の訳がないと思っていたのに、目の前の女性は、オレの愛称を呼んだ。サーシャと同じように・・・。

「っ!!!!」
「!!」
「サーヤ!!」

彼女がいきなり頭を抱えて苦しみ始めた。
黒髪の男性が何度呼び掛けても応える様子がない。どうした?何があった?
彼女は本当にサーシャなのか??

どれくらいそうしていたのか、彼女が何かを呟き始めた。

「・・・ゃ、いやっ・・・あ、あぁ、や、助、けて・・・」
「っ、サーヤ?!」
「・・・大丈夫か?」

再び彼女と目が合い、心配になってそばに近づいた。
だが・・・-

「や、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!来ないでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「サーヤ!!!」
「・・・サー、シャ?」

彼女はより錯乱状態となってしまった。どうして?オレと目が合ったから?
オレが以前彼女に取り返しのつかない酷い事をしてしまったから・・・?

「ちっ、魔力暴走かっ・・・」
「やぁぁぁっ、ん、んん~~~~~~」

魔力暴走?そんな、こんな室内で魔力暴走なんて・・・
黒髪の男性が舌打ちをしながらいきなり彼女に口づけた。は?なぜ今そんなことを??!!

「んっ、んぁっ・・・エ、ふぁっ・・・んんんっ」

少々艶っぽい声にドキッとしながらも、彼女はだんだん落ち着いてきたようだ。
目の前で見せられた二人の長い口づけがようやく終わったころ、おれは恐る恐る声をかけた。

「・・・あ、の・・・」
「お前は“元婚約者”と言ったな。なぜ今になってこいつに会おうと接触してきた。」
「それは、ひどい事をしてしまったと・・・謝罪を・・・」
「こいつは、俺に会う前の記憶を失っている。
 それでも、お前からの謝罪を望んでいると思うのか?」
「!!」
「髪色を変えているが、こいつは確かにお前の元婚約者かもしれない。だが、こいつの反応はどうだ?
 お前の顔を見て喜んだか?むしろフラッシュバックにより魔力暴走を起こして死にかけるくらいお前を拒否したぞ。・・・をされたんだろうな」
「っ!!」

改めて、オレが彼女にしてしまったことの重大さを痛感する。
記憶を失っている・・・?それだけショックなことがあったということだ。しかも、魔力暴走を起こしてまで拒否・・・。
オレが彼女の謝罪をしたいという気持ちは間違っているんだろうか・・・。

オレがショックで呆然としている間、突如空間が歪んでナニカがここに来たようだった。
アルバートが反応してオレを護るようにしているが、正直今の俺にはそれどころではなかった。

「ままっ!サーヤまま!!だいじょうぶ??!!」

は?まま??

「サーヤ、まま?・・・え?」
「エルぱぱ、サーヤまま、だいじょうぶ?」
「サーヤは今魔力暴走を起こして疲労と魔力不足でこの状態だ。ミナト、癒しを与えてやれ」
「あいっ!」

急にあらわれた水色の髪の美少女とエメラルドグリーンの長い髪をした中世的な男性。
見た目と言い魔力と言いどこか人間離れしている気がする。

美少女がサーシャに何かを飲ませてからこちらに向かってきた。

「サーヤままに、ひどいことしたの、お前?」
「キミは、サーシャの・・・」
「さっき、サーヤまま、すっごくくるしいって、こころ、しんじゃいそうだった」
「・・・っ」
「・・・サーヤまま、きずつけるの、ゆる、さない・・・」

心が、死んでしまいそうだった・・・?そんなに・・・

「おまえら、いらない・・・きえて。」
「「!!??」」

感傷に浸る間もなく、目の前の殺気とこの部屋・・・いや、へたすれば城まで吹っ飛ぶんじゃないかという攻撃魔法を、至近距離で自分よりも遥かに小さな子供から向けられる。
不気味さにも似た途方もない恐怖で声すらも出なかった。

「ダメだよっ!やめなさい、ミナトちゃん!!」
「いやっ!こいつら、サーヤままに、ひどいこと・・・」
「こらこらこら!”こいつら”だなんて、可愛い女の子が言う言葉じゃありませんっ!ダメです!!
 それに、そんなどうでもいい人達を殺して、ミナトちゃんが人殺しになる方があたしはもっとイヤだよ!!!」
「だって、まま、きずつけた・・・」
「あたしが傷ついたと思ったなら、さっきみたいにミナトちゃんに癒して欲しい。
 そんな人達放っておいて、いつもみたいにあたしにぎゅってして!
 あたしは今、ものすごーく傷ついてるから大好きなミナトちゃんにぎゅってして欲しいの!
 お願い、ミナトちゃん!!」
「!!・・・っまま、サーヤままぁぁぁ!!ぎゅ~~」

回復した彼女が少女を説得して難を逃れたものの、「どうでもいい人達」とか「そんな人達放っておいて」とか、所々ショックなことを言われてしまい、別の意味で言葉がでない。

「うゎ・・・強大な魔力を感じると思って来てみたら・・・なんだい、この状況。
いったい何があったんだい?」

強大な魔力を感じたからだろう。王である父上自らがこの部屋にきてしまった。

「父上」
「陛下」

呆然と立ちすくむ中、黒髪の男性が父上にとっての大事な客人であることがわかり、自分がその客人に対し大変失礼なことをしてしまったことも自覚する。
でも、父上の客人の連れの女性は間違いなくサーシャだ、それだけは確信した。

「さて、部外者は退席願おうか。ユーリ、アルバート」
「っ、部外者・・・ですか?オレっ、私は・・・」
「あぁ、部外者だよ。このお嬢さんがサーシャ嬢であったとしても、すでに婚約者でもなんでもないお前は部外者だ。これは公務ではなく、オレ個人の客人であって、お前にはまったく関係がない。
 わかったら早く出て行って、側近の再教育でもしていなさい。
 随分と迷惑をかけたようだからね・・・」
「は、はい。では失礼します」

サーシャであったとしても、なかったとしても・・・か。
確かに彼女はもうオレの婚約者ではないので関係ないと言われればそれまでだ。
サーシャに対しての過ちをあれだけ叱った父上が、ここまでオレを部外者と言い張るのは、「もう彼女と関わるな」とも言われているようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に見殺しにされた愚かな傀儡令嬢、時を逆行する

蓮恭
恋愛
 父親が自分を呼ぶ声が聞こえたその刹那、熱いものが全身を巡ったような、そんな感覚に陥った令嬢レティシアは、短く唸って冷たい石造りの床へと平伏した。  視界は徐々に赤く染まり、せっかく身を挺して庇った侯爵も、次の瞬間にはリュシアンによって屠られるのを見た。 「リュシ……アン……さ、ま」  せめて愛するリュシアンへと手を伸ばそうとするが、無情にも嘲笑を浮かべた女騎士イリナによって叩き落とされる。 「安心して死になさい。愚かな傀儡令嬢レティシア。これから殿下の事は私がお支えするから心配いらなくてよ」  お願い、最後に一目だけ、リュシアンの表情が見たいとレティシアは願った。  けれどそれは自分を見下ろすイリナによって阻まれる。しかし自分がこうなってもリュシアンが駆け寄ってくる気配すらない事から、本当に嫌われていたのだと実感し、痛みと悲しみで次々に涙を零した。    両親から「愚かであれ、傀儡として役立て」と育てられた侯爵令嬢レティシアは、徐々に最愛の婚約者、皇太子リュシアンの愛を失っていく。  民の信頼を失いつつある帝国の改革のため立ち上がった皇太子は、女騎士イリナと共に謀反を起こした。  その時レティシアはイリナによって刺殺される。  悲しみに包まれたレティシアは何らかの力によって時を越え、まだリュシアンと仲が良かった幼い頃に逆行し、やり直しの機会を与えられる。  二度目の人生では傀儡令嬢であったレティシアがどのように生きていくのか?  婚約者リュシアンとの仲は?  二度目の人生で出会う人物達との交流でレティシアが得たものとは……? ※逆行、回帰、婚約破棄、悪役令嬢、やり直し、愛人、暴力的な描写、死産、シリアス、の要素があります。  ヒーローについて……読者様からの感想を見ていただくと分かる通り、完璧なヒーローをお求めの方にはかなりヤキモキさせてしまうと思います。  どこか人間味があって、空回りしたり、過ちも犯す、そんなヒーローを支えていく不憫で健気なヒロインを応援していただければ、作者としては嬉しい限りです。  必ずヒロインにとってハッピーエンドになるよう書き切る予定ですので、宜しければどうか最後までお付き合いくださいませ。      

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

清廉潔白な神官長様は、昼も夜もけだもの。

束原ミヤコ
恋愛
ルナリア・クリーチェは、没落に片足突っ込んだ伯爵家の長女である。 伯爵家の弟妹たちのために最後のチャンスで参加した、皇帝陛下の花嫁選びに失敗するも、 皇帝陛下直々に、結婚相手を選んで貰えることになった。 ルナリアの結婚相手はレーヴェ・フィオレイス神官長。 レーヴェを一目見て恋に落ちたルナリアだけれど、フィオレイス家にはある秘密があった。 優しくて麗しくて非の打ち所のない美丈夫だけれど、レーヴェは性欲が強く、立場上押さえ込まなければいけなかったそれを、ルナリアに全てぶつける必要があるのだという。 それから、興奮すると、血に混じっている九つの尻尾のある獣の神の力があふれだして、耳と尻尾がはえるのだという。 耳と尻尾がはえてくる変態にひたすら色んな意味で可愛がられるルナリアの話です。

転生幼女の愛され公爵令嬢

meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に 前世を思い出したらしい…。 愛されチートと加護、神獣 逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に… (*ノω・*)テヘ なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです! 幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです… 一応R15指定にしました(;・∀・) 注意: これは作者の妄想により書かれた すべてフィクションのお話です! 物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m エール&いいね♡ありがとうございます!! とても嬉しく励みになります!! 投票ありがとうございました!!(*^^*)

気が付いたら乙女ゲームのヒロインとして監禁エンドを迎えていますが、推しキャラなので問題ないですね

秋月朔夕
恋愛
気が付いたら乙女ゲームのヒロインとして監禁エンドを迎えていた。 けれどその相手が前世で推していたユリウスであったことから、リーシャは心から歓喜する。その様子を目の当たりにした彼は何やら誤解しているようで……

悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)
恋愛
侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは7歳の誕生日が近づく頃、 前世の記憶を思い出し自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付く。 このまま進むと国外追放が待っている…! 焦るビアンカだが前世の自分は限界集落と称される離島で自給自足に近い生活をしていた事を思い出し、 「別に国外追放されても自給自足できるんじゃない?どうせなら自然豊かな南国に追放して貰おう!」 と目を輝かせる。 南国に追放されたい令嬢とそれを見守る溺愛執事のお話。 ※小説家になろう様でも公開中です。 ※ネタバレが苦手な方は最新話まで読んだのちに感想欄をご覧になる事をおススメしております。

ヒロインが迫ってくるのですが俺は悪役令嬢が好きなので迷惑です!

さらさ
恋愛
俺は妹が大好きだった小説の世界に転生したようだ。しかも、主人公の相手の王子とか・・・俺はそんな位置いらねー! 何故なら、俺は婚約破棄される悪役令嬢の子が本命だから! あ、でも、俺が婚約破棄するんじゃん! 俺は絶対にしないよ! だから、小説の中での主人公ちゃん、ごめんなさい。俺はあなたを好きになれません。 っていう王子様が主人公の甘々勘違い恋愛モノです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...