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3章 うれしはずかし新生活

31 捕らわれた二人

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頭と身体がズキズキと痛む……


(あれ?あたし、怪我なんてしたっけ……?)


痛みが強くなると同時に意識を取り戻したようで、とりあえず周囲を確認しつつ何があったのかを思い出してみる。

昨日シュリーさんからもらったクランベのジャムを使いたいなと思って、今日はプレーンのシフォンケーキをミムルちゃんと作っていた。
焼きあがって少し冷ましているところでシュリーさんが遊びに来たので、三人で一緒にティータイムを過ごしていたんだ。
頬っぺたいっぱいにもきゅもきゅと食べてるミムルちゃんが、ハムスターみたいですごく可愛いかったのを覚えている。

だんだん頭がはっきりして来て、ズキンズキンと殴られたような痛みがなぜなのかを思い返しているうちに、その後の事も全部はっきりと思い出した。

(……――――――そうだ。あたしとミムルちゃんは攫われて……
 あ!ミムルちゃん!ミムルちゃんはどこ…?!)

動こうとしても手足を縛られている上に、声を出そうにも猿ぐつわのように口も布で縛られていて身動きも取れず、声を出す事もできないという状態だった。
そして、ミムルちゃんは手足だけ縛られた状態で、まだ意識を失っているようだった。
なんとか近づき様子を見るも、特に怪我はしていなさそう。

シュリーさんが帰った後、カインズさん目当てでやって来た“ジュリア”とかいう女がやってきた。
いつもならミムルちゃんが対応してたけど、今のあたしは人間の姿だから門前払いしてやろうと代わりに対応しようとした。

こっちは口論する気でドアを開けたのに、開けた瞬間数名の男達がいきなり入って来てあたしとミムルちゃんを拘束して連れ去ったのだ。

(知らない人じゃないけど、少なくとも好意を持っていない人に対してドアを開けた事をものすごく後悔した。ミムルちゃんにも怖い思いさせちゃったし最悪だっ!!)

小説とかドラマなどでは見た事があるこのシチュエーション。
まさか現実に自分が経験するとは思わなかったし、できれば経験なんてしたくもなかった。

幸い、あたしも服の乱れも何もないから、寝ている間にナニカあったという事はなさそうだ。

でも、それは今だけの話。
……もしあの女がさっきの男達とここに戻って来たら、間違いなくあたしとミムルちゃんは危険に晒される。

(今のうちになんとか逃げなきゃ……っく、何これ、きつく縛りすぎ!ビクともしないじゃない!!)

腕や足を動かしても縄が擦れるだけで痛いだけ、周りに縄を切れるような刃物も特にない。

(どうしよう、このままじゃあの女か男達が戻って来ちゃう……!!!
 縄を食いちぎろうにもあたしの歯じゃ全然だし、どうしたら……ん?食いちぎる…?)

最近は人間の姿のまま過ごしてたから忘れそうになったけど、リオン曰く、あたしだって自分の意思で子犬の姿や人間の姿に変身できるって言ってのを思い出す。



だったら……――――――――



(お願いっ!今すぐワンコの姿に戻りたいの!リオンの魔力を貸して!!!!)



あたしが強く願った時、パァァァァァァァっと辺り一面が一瞬眩しい光に包まれた。





(くいっ、くいっ)

何かに引っぱられる感覚があり目を開けてみると、目の前に心配そうな顔をしたミムルちゃんがいた。

さっきの光で意識を回復しのか、泣きそうな顔であたしを見ている。

「きゅっ、きゅきゅうぅ??(良かった!ミムルちゃん、大丈夫??)」
「……っ」

ミムルちゃんの身体が大きく感じる……という事は、あたしはワンコ状態に戻ったんだろう。
足元に視線を向けるとあたしの服や拘束していた縄がそのまま落ちていた。

(よし!後はあたしがミムルちゃんの縄を噛みちぎれば……)

「きゅっ、きゅきゅんっ!!(ミムルちゃん、今あたしが縄を噛みちぎってあげるね!!)」
「……(ウルウル)」
「きゅっ、きゅっ!!(あぁっ!ミムルちゃん泣かないで!きっと無事に家に帰れるからね!!)」

言葉が話せない状態で通じてるかわからないけど、必死に”大丈夫だから”とアピールし、あたしはミムルちゃんの手足の縄を食いちぎろうと噛みついた。

「ぎゅっ、ぎゅぅぅぅ~~~~~~~~~~っ」

噛みつきのスキルがあったはずなのに中々噛み千切れない。
ステータス自体が低すぎ縄まではちぎれないんだろうか?

脚で踏ん張っていた時に出ていた爪が地面をガリっと食い込むだけでビクともしない。
地面に食い込むくらいなら縄も切れるかな?と試しに切ってみると、先程までの苦労はなんだったのかというくらいシュルっとすぐに縄を切ることができ、同時に頭の中で“ピロリン♪”という場違いな音がした。

(え?またレベルが上がった?もしくは何かのスキルを覚えたのかな?)

今はステータスを見る余裕などないので、爪でシュパパンっと縄を切った後、“人間の姿に戻りたい!!”と強く願ってみた。
すると、またパァァァァァァァっと辺り一面が一瞬眩しい光に包まれたが、無事に人間の姿に戻ることができた。

「よし!何とかコツは掴めてきたかも。……でも、人間に戻るときは服がそばにないと危険ね……」
「……(ぎゅうっ)」
「うん、ミムルちゃん、怖かったよね。……とりあえず服を先に着させて欲しいから少し待ってて」

不安そうなミムルちゃんに声をかけつつ、素早く元々来ていた服を着る。
そして、服を着ながら驚いて固まっているミムルちゃんを励ましながら声をかける。

「ミムルちゃん、あの女達が戻ってくる前にここから逃げるよ!!あたし達の家に一緒に帰ろう!!」
「!!!……(コクリ)」


……逃げる、とは言っても木箱の中には使っていない縄があるのみで武器らしきものは何一つない。
少し高い場所に窓と通風孔らしきモノがある。
覗き込んでみたけど、とても身体が入る窓じゃないし何とか窓から抜けたとしても高さがあるため危険だ。


通風孔はとても小さく、入れるとしたらそうとう小柄な人か子供くらい……――――――――


「……ミムルちゃん。お願いがあるんだけど……」
「?」
「あの通風孔から脱出して、助けを呼んできてもらえないかな?」
「!!」
「どのみちここにいるのは危険だよ。通風孔も安全とは言えないけどここにいるよりは良いし、運が良ければ誰かに見つけてもらって助けてもらえる」
「(フルフルフル)」
「大丈夫。あたしはめちゃくちゃ運が良いんだから!」
「……」

そうだ。あたしにはLuck∞の恩恵がある。
だから大丈夫なはずだ。

「……だから、ミムルちゃん。カインズさんを呼んできて、お願い……」
「……」

最終的にコクリと頷いてくれたミムルちゃんを、木箱で階段を作って通風孔から脱出させる。
脱出する直前、あたしにぎゅうっと抱きついたミムルちゃんは“絶対助けを呼んでくるから!“と言ってくれている気がした。
本当にまだまだ小さいのに素晴らしく気配りのできる子である。


ミムルちゃんが脱出してから何か使えそうなモノがないか改めて探してみたけど、やはりめぼしいモノは見つからない。

そして、この場を切り抜ける手段が見つからないまま来て欲しくない瞬間が訪れてしまった。


(ガチャッ)


「あらぁ、お目覚めのようね。……この泥棒猫が」




相変わらず品のない露出度の高い服を着た女……――――――ジュリアが男達を引き連れてやってきたのだった。
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