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3章 うれしはずかし新生活
18 些細な行動が生んだ大きな誤解
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◇
「はい、すみませんでした。全部俺が悪いデス……」
「……」
「だから、機嫌直して?ミムル」
「(プイッ)」
「ミムル~~~~~~~~っ」
お風呂場のドアが開いてミムルちゃんの姿を見たとき、あたしはいろんな意味で泣きたくて涙目だったと思う。
それをどうやらカインズさんにイジメられたと勘違いしたミムルちゃんは、装備していたフライパンでカインズさんを殴った。
それはもう素晴らしく軽やかなスウィングで、テニスラケットのようにフライパンを使いこなしていた。
もちろんその隙に脱衣所で服に着替えさせてもらい、今はカインズさんもちゃんと着替えて朝食の席にいるわけだが、冒頭のように超不機嫌なミムルちゃんにカインズさんが謝罪しているという状態だ。
(……この家のピラミッドの頂点に君臨してるのはミムルちゃんなんだろうか……)
しばらくは悠長にそんな二人を観察してたけど、買い物に行かないとあたしの生活必需品が買えないことを思い出し、カインズさんによる必死な謝罪とあたしの説得で、ようやく三人で買い物に出発したのはお昼ちょっと前だった。
「せっかくだから昼飯は外で食べよう。ミムルの大好きなハンスおじさんの店に連れて行ってやる!買い物だって、今日は好きなモノ何でも買ってやるぞ♪」
「!!」
さっきまでの不機嫌はなんのその。
カインズさんの提案と、三人で手を繋いでお出かけしようというあたしの提案で、すっかりミムルちゃんはお出かけを楽しむモードになったようだ。
(カインズさんの隣を歩くのが恥ずかしいから、ミムルちゃんに間に入って欲しくて提案したなんてとても言えない……)
お風呂でバッタリ遭遇した上にあんな蕩けるようなキスまでされて、平常心を保てるほどの精神はあたしにはない。
それに引き換え、カインズさんはさっきのことなんて気にせずすっかり普段の態度に戻ってることが少し腹立たしい。
(カインズさんにとって、あのキスも勢いというかたいした意味はないんだろうな……)
少しだけちくんと胸に痛みを感じながら、できる限りあたしも平静を装い三人で手を繋いでお出かけをした。
あたしとしては単なる照れ隠しで提案したこの行動だけど、三人で手を繋いで歩くというこの姿が周りからどう見えるかなんて、このときのあたしは考えもしなかった……――――――
◇
初めて歩く家の外は、何もかもがあたしの知らない世界で感動の連続だった。
まず今住んでいるのはルクルという町で、カインズさんの故郷のようだ。
すでに両親と死別しているというカインズさんは、町の中心から少し離れた実家でミムルちゃんと二人で暮らしているという。
ゆっくりと歩いていると、カインズさんは町にあるお店や実家を出てしばらくソロで冒険していたこと、たまにシュリー達と冒険していたことなどいろいろ話してくれた。
でも、いろんな場所での冒険譚や故郷であるこの町のことは聞かせてくれるのに、カインズさん自身のことはあまり話してくれなかった。
(話したくないなら無理に聞く気はないけど、ちょっと寂しいかも……)
時々カインズさんが知り合いから手を振られたり、なぜか拍手されたりと意味不明なことがたびたびありながらも、カインズさんが最初に連れてきてくれたのは、念願の下着屋さん……ではなく、一見普通の家に見える小さな食堂。
たまにミムルちゃんを連れて食べに来ている、ハンスさんという方が経営しているレストランだった。
(カランカラ~ン)
「へい、いらっしゃ――――……」
「よっ!……うわぁ、相変わらず客が少ないな。ついにこの店も潰れる一歩手前ってところか?」
「ちょっとカインズさん!なんて失礼なこと言ってるんですか!!」
「ミカヅキ、まだ敬語使うなんて……そんなにさっきの続きして欲しいのか?」
「なっ……そんなわけありま…っ、そんなわけないでしょっ、バカッ!!!」
「(くい、くい)」
「あ、ごめんね、ミムルちゃん。大丈夫、ケンカじゃないよ~」
「そうそう。ミムル、これは俺からミカヅキへの愛情表現なんだ」
「なっ!愛情表現だなんて、からかうのもいい加減にしてくださ……」
「あ、ほらまた敬語になってる」
「!!!」
馴染みのお店らしいけど、入って早々失礼なことをいうカインズさんに物申したら、思わぬしっぺ返しをされてしまった。
……うぅ、悔しい。
そして、一向に店員さんの声が聞こえないと思ってお店の中を見渡すと、目の前にはふくよかなエプロンを付けた髭のおじさまが口を押えて涙を流していた。
(……え?いったい何ごと??!!)
「……カインズ…お、お前……」
「よぅ、ハンス!今日はミムルも連れてきたぞ。そして、この子はミカヅキって言って……――――――」
(ガシッ)
「カインズ、やっとミムルの母親にもなれるパートナーを見つけたんだなぁ……」
「へ?」
「え?」
「!!」
(は?!えぇぇぇ??なんでそうなった?!あたし達はただ手を繋いでいただけ……
嘘っ!!もしかしてそれが親子みたいとかそう思われてたの???!!!)
そう考えると、お店に来る前に意味不明に拍手されたり生暖かい視線を感じたりした理由も納得できる。
何より目の前のハンスさんは完全に誤解している。
どうやら、あたしが人間の姿に戻って初めての外出は、開始早々周囲にとんでもない誤解をされたまま始まってしまったようです。
天国のお母さん。
あたし、”お嫁に行けない”じゃなくて、お嫁に行く前に周囲にお嫁さんだと勘違いされてしまいました。
こんな時っていったいどうしたら良いんでしょうか……
「はい、すみませんでした。全部俺が悪いデス……」
「……」
「だから、機嫌直して?ミムル」
「(プイッ)」
「ミムル~~~~~~~~っ」
お風呂場のドアが開いてミムルちゃんの姿を見たとき、あたしはいろんな意味で泣きたくて涙目だったと思う。
それをどうやらカインズさんにイジメられたと勘違いしたミムルちゃんは、装備していたフライパンでカインズさんを殴った。
それはもう素晴らしく軽やかなスウィングで、テニスラケットのようにフライパンを使いこなしていた。
もちろんその隙に脱衣所で服に着替えさせてもらい、今はカインズさんもちゃんと着替えて朝食の席にいるわけだが、冒頭のように超不機嫌なミムルちゃんにカインズさんが謝罪しているという状態だ。
(……この家のピラミッドの頂点に君臨してるのはミムルちゃんなんだろうか……)
しばらくは悠長にそんな二人を観察してたけど、買い物に行かないとあたしの生活必需品が買えないことを思い出し、カインズさんによる必死な謝罪とあたしの説得で、ようやく三人で買い物に出発したのはお昼ちょっと前だった。
「せっかくだから昼飯は外で食べよう。ミムルの大好きなハンスおじさんの店に連れて行ってやる!買い物だって、今日は好きなモノ何でも買ってやるぞ♪」
「!!」
さっきまでの不機嫌はなんのその。
カインズさんの提案と、三人で手を繋いでお出かけしようというあたしの提案で、すっかりミムルちゃんはお出かけを楽しむモードになったようだ。
(カインズさんの隣を歩くのが恥ずかしいから、ミムルちゃんに間に入って欲しくて提案したなんてとても言えない……)
お風呂でバッタリ遭遇した上にあんな蕩けるようなキスまでされて、平常心を保てるほどの精神はあたしにはない。
それに引き換え、カインズさんはさっきのことなんて気にせずすっかり普段の態度に戻ってることが少し腹立たしい。
(カインズさんにとって、あのキスも勢いというかたいした意味はないんだろうな……)
少しだけちくんと胸に痛みを感じながら、できる限りあたしも平静を装い三人で手を繋いでお出かけをした。
あたしとしては単なる照れ隠しで提案したこの行動だけど、三人で手を繋いで歩くというこの姿が周りからどう見えるかなんて、このときのあたしは考えもしなかった……――――――
◇
初めて歩く家の外は、何もかもがあたしの知らない世界で感動の連続だった。
まず今住んでいるのはルクルという町で、カインズさんの故郷のようだ。
すでに両親と死別しているというカインズさんは、町の中心から少し離れた実家でミムルちゃんと二人で暮らしているという。
ゆっくりと歩いていると、カインズさんは町にあるお店や実家を出てしばらくソロで冒険していたこと、たまにシュリー達と冒険していたことなどいろいろ話してくれた。
でも、いろんな場所での冒険譚や故郷であるこの町のことは聞かせてくれるのに、カインズさん自身のことはあまり話してくれなかった。
(話したくないなら無理に聞く気はないけど、ちょっと寂しいかも……)
時々カインズさんが知り合いから手を振られたり、なぜか拍手されたりと意味不明なことがたびたびありながらも、カインズさんが最初に連れてきてくれたのは、念願の下着屋さん……ではなく、一見普通の家に見える小さな食堂。
たまにミムルちゃんを連れて食べに来ている、ハンスさんという方が経営しているレストランだった。
(カランカラ~ン)
「へい、いらっしゃ――――……」
「よっ!……うわぁ、相変わらず客が少ないな。ついにこの店も潰れる一歩手前ってところか?」
「ちょっとカインズさん!なんて失礼なこと言ってるんですか!!」
「ミカヅキ、まだ敬語使うなんて……そんなにさっきの続きして欲しいのか?」
「なっ……そんなわけありま…っ、そんなわけないでしょっ、バカッ!!!」
「(くい、くい)」
「あ、ごめんね、ミムルちゃん。大丈夫、ケンカじゃないよ~」
「そうそう。ミムル、これは俺からミカヅキへの愛情表現なんだ」
「なっ!愛情表現だなんて、からかうのもいい加減にしてくださ……」
「あ、ほらまた敬語になってる」
「!!!」
馴染みのお店らしいけど、入って早々失礼なことをいうカインズさんに物申したら、思わぬしっぺ返しをされてしまった。
……うぅ、悔しい。
そして、一向に店員さんの声が聞こえないと思ってお店の中を見渡すと、目の前にはふくよかなエプロンを付けた髭のおじさまが口を押えて涙を流していた。
(……え?いったい何ごと??!!)
「……カインズ…お、お前……」
「よぅ、ハンス!今日はミムルも連れてきたぞ。そして、この子はミカヅキって言って……――――――」
(ガシッ)
「カインズ、やっとミムルの母親にもなれるパートナーを見つけたんだなぁ……」
「へ?」
「え?」
「!!」
(は?!えぇぇぇ??なんでそうなった?!あたし達はただ手を繋いでいただけ……
嘘っ!!もしかしてそれが親子みたいとかそう思われてたの???!!!)
そう考えると、お店に来る前に意味不明に拍手されたり生暖かい視線を感じたりした理由も納得できる。
何より目の前のハンスさんは完全に誤解している。
どうやら、あたしが人間の姿に戻って初めての外出は、開始早々周囲にとんでもない誤解をされたまま始まってしまったようです。
天国のお母さん。
あたし、”お嫁に行けない”じゃなくて、お嫁に行く前に周囲にお嫁さんだと勘違いされてしまいました。
こんな時っていったいどうしたら良いんでしょうか……
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