【R18】先輩、食べても良いですか?

暁月

文字の大きさ
上 下
7 / 35
【企画モノ・番外編】

【季節モノ番外編】受難のクリスマスと平和(?)な年の瀬2

しおりを挟む




「あの、お騒がせしてすみませんでした」
「良いの良いの!榎本、ここ最近ちょっと働き詰めだったから、このままゆっくりしちゃいなさい♪」
「え、いや、でも……」
「大丈夫!もう上にはしっかり話しつけてるし、労災も申請済み!入院費用も加害者あっち負担だから、何も心配する必要ないわ☆」
「美鈴さん……」




 クリスマスの夜、小野くんの家に行くためにタクシー乗り場へ向かったあたしは、信号無視して横断歩道に突っ込んできた車に轢かれた。

 幸いかすっただけで手足にちょっと怪我をした程度で済み、大事には至らなかった。
一応検査入院もかねて数日入院してたんだけど、そもそも入院が数日になったのは、連日の疲れと寝不足であたしが丸二日間目を覚まさなかったのが原因だ。


 起きたらクリスマスが終わってるなんて最悪すぎる。
 小野くんの料理も台無しにしちゃっただろうし、ものすごく心配させちゃったよね……


「あ、そうそう!仕事もあんたの彼氏がしっかりやってるから安心なさいな♪」
「……っぐ、げほっ、けほっ!!」


 今まさに考えていた小野くんのことを話に出され、飲みかけのお茶がのどに詰まる。


「顔にはめったに出さないけど、今日ばかりは鬼気迫る勢いで仕事してたわよ。ホントはすぐにでも病院ココに来たいだろうにねぇ……事故の時もすぐに私に連絡して来たし、ホントにしっかりしてるわ」
「そうなんですか?」
「そうそう。榎本が救急車で運ばれるところにちょうど駆けつけたみたいでね。病院に着いて治療を待ってる間に連絡がきたのよ」
「小野くん……」


 家から遠くないといっても、決して近い距離ではなかったはずだ。
 それなのに、すぐに駆け付けてそばにいてくれたんだ……


 そして美鈴さんが言うには、労災の手続きや運転手側への対応、この後の仕事のことなどすべてにおいて小野くんが美鈴さんに”こうして欲しい”とお願いしたらしい。

「ふふっ、『自分にはソレをする力がないから』って言ってたけど、こうして私を使う”知識”や”判断力”ってのも、立派な”力”だと思うわよ♪」
「……」

 小野くんは時々、”自分は年下で頼りない”とか”護る力がまだない”とか言うけど、決してそんな事はないと思う。
あたしは充分すぎるほど、小野くんに護られていると感じるのに……

「ま、そんな暗い顔しないの!大したことないとはいえ、利き手と片足捻挫してるんだから、今夜からゆっくりじっくり彼氏くんに看病されつつ、過ごせなかったクリスマスの分を補填しなさいな♪」
「へ?今夜……?」
「ふふっ、小野のことだから、そのまま年始まで過ごして”姫はじめ”もしっかりスルんでしょうね~」
「なっ……?!」
「あ、そうそう榎本。私があげたプレゼントもしっかり使ってよね!アレ、結構高くて……―――――」
「先輩をからかうのはそれくらいにしましょうね、羽柴さん」
「「!!!」」


 まだ夕方になる前の時間帯だというのに、病室の入り口に話の渦中にいた小野くんがいた。
ここまで走って来たのか、スーツの上着を脇に抱えYシャツのボタンも数個外してネクタイも少し緩めている。

 久しぶりなわけじゃない。
だけど、ちゃんと会うのはクリスマス当日の仕事の時以来で、本来ならあの後二人で素敵なクリスマスを過ごすはずだったのだ。

 小野くんを見た瞬間、クリスマスを一緒に過ごせなかった申し訳なさや今になって感じる恐怖感、会えたことによる安心感や嬉しさなど色んな気持ちがごちゃ混ぜになって、思わず涙が溢れてくる。


「え、ちょっ、先輩?!どこか痛むんですか??」


 慌てて駆け寄り、優しく抱きしめてくれる小野くん。
大好きで安心する匂いに少し汗っぽさも感じて、急いで駆け付けてくれた嬉しさでさらに涙が溢れる。


 きっと、いっぱい心配させてしまったに違いない……
 
 
 ごめんね、ごめんね、小野くん……――――――――――――


「……さぃ」
「……え?」
「ごめ…な、さ……ック、心配、させちゃっ……ッグズ」
「……先輩」


 優しく頭を撫でる手に、止めどなく涙が零れる。
結果的に大した怪我はなかったけど、運が悪ければもしかしたら……―――――という可能性だってあったのだ。


「榎本、私は退院の手続きをしてくるわね。……小野、10分よ」
「!!」
「はい、わかりました」


 空気を読んでくれたらしい美鈴さんが、意味深な言葉を残し病室を後にする。


 10分でいったいナニをしろと?! 
 ってか、そもそもここは個室とはいえ病室だ。そんな如何わしいことをするような場所じゃないっ!!

 ……ちょっとだけ、小野くんといちゃいちゃしたい気持ちは認めるけど…認めるけどもっ……


 美鈴さんの言葉で涙は止まったけど、代わりに変な冷や汗が出てきた。
あたしの実家が遠いのとこの年の瀬という時期的な事や怪我も大したことない事から、今回手続きはすべて美鈴さんがしてくれている。それはとてもありがたい。

 だけど、確かさっき聞いた話では、今日は迎えがきたら退院することになっているはずだ。
お迎えの人がいつ来るかもわからないというのに、このまま小野くんに甘えてて良いモノなのか?

 いや、でも、小野くんの温もりを少しだけでも感じていたいのは事実。
 いやいやいや、温もりって、ココでえっちなんてできるわけないんだけどさっ!!!
 だぁぁぁぁぁっ!もうもうっ、確かにイロイロ不完全燃焼で欲求不満だけどもさっ!!!



 もし小野くんといちゃいちゃしてる時にお迎えの方が来ちゃったらどうするのよ~~~~~~~っ!!!



 頭の中でぐるぐるといろんなことを考えてたら、なぜか小野くんがくすくすと笑い始めた。


「先輩、”お迎え”というのは僕のことなので、羽柴さん以外ココに来る人はいませんよ。安心してください」
「え?お迎えって小野くんだったの?でも、どうしてこんな早い時間に?まだ仕事の時間じゃ……」
「仕事は概ね終わらせてますよ。後、”母方の祖母が危篤”という理由で早退して、そのまま最期を看取るためにと有休ももらったので、年内はもう会社に行く必要はありません」
「ふふっ、ご家族をダシに使うなんて、悪いコ……んっ」


 小野くんのキスで会話が中断する。
優しく啄むように、そしてあたしの存在を確認するかのように口唇を重ね、少しずつ舌を絡め合う。
少し息苦しいけどそれ以上に嬉しくて、触れ合えば触れ合うほど離れがたくて、あたしは”もっと、もっと”とせがむように小野くんの首に腕を回す。

 時折目を合わせては無言でまた口付け、舌を絡め合う。
そんな事を何度も繰り返しているうちに、すっかりココが病室だという事を忘れたあたしの身体は、全身で小野くんのキスや愛撫を受け入れ歓喜に震えていた。
 
 病室の簡易ベッドがギシッと軋む音すらも、全く耳に入ってこない。



「……―――――痛っ」
「あ、すみませんっ」



 不意に、”痛み”という現実があたし達を我に返らせた。
どうやら小野くんの身体があたしの怪我した足に触れてしまったらしい。

 ふと胸元を見ると、いつのまにか病院で借りたガウンタイプの着衣が完全にはだけてるわ、下着も丸見えだわであられもない姿だった。慌てて直そうとするも、利き手がうまく使えずなかなか服の乱れを直せない。
これはしばらく不便な生活になりそうだ。


 そんなあたしに気付いた小野くんは、てきぱきと服の乱れを直しながら当然のようにこう告げる。


「先輩が怪我でこうして不自由な間は、僕が手足となってしっかり先輩を看病しますから安心してくださいね」
「え?不自由な間って……」
「さっきも言いましたが、休みはしっかりもぎ取って来たので、少なくとも年始まではずっと先輩と一緒にいられます♪」
「えぇぇ?!」
「クリスマスにおもてなしできなかった分、たっぷりとご奉仕させていただきます!……もちろん、夜もね♡」
「????!!!!」





 こんな感じで、受難だったクリスマスが終わって間もなく、念願だった小野くんとの甘く穏やか(?)な時間が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?

すず。
恋愛
体調を崩してしまった私 社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね) 診察室にいた医師は2つ年上の 幼馴染だった!? 診察室に居た医師(鈴音と幼馴染) 内科医 28歳 桐生慶太(けいた) ※お話に出てくるものは全て空想です 現実世界とは何も関係ないです ※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

処理中です...