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1章 そうだ、学園へ行こう!

学園に通いたい理由

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あたしとレオたんは、手をつないだままパパとママの元へ行き、しっかりと頭を下げてお願いした。


「お願いします!今以上に強くなって、絶対“敵”に負けたりしないから、俺達を学園に通わせて下さい!」
「お願いなの!鍛錬も勉強も今の倍頑張るし、向かってくる“敵”は絶対返り討ちにしてやるの!だから、パパ、ママ、学園に通わせて欲しいの!!」
「いや、あの二人共、“敵”って……」


皆があたしやレオたんより、パパの様子を気にしてるのがヒシヒシと伝わる。
この家で最終的な決定権を持っているのはパパだから、パパが“NO”と言えばあたし達の学園行きも諦めざるを得ないのだ。


「ふふっ☆サーヤ。あの子達レオンやサクラ、大分学園のこと誤解してるみたいだね♪」
「ホントだよ!もうもうっ、もしあの子達が学園に通い始めたら、絶対トラブルに巻き込まれるからって、必要な勉強はひと通りエルや皆にお願いして、学園のこと伏せてたのに……」
「ま、このままボク達だけと関わって森で生きていくなんて無理なんだから、イロイロ経験させるのも良いんじゃない?」
「うぅ、でも……」
「あ、エリュシオンが何か発言するみたいだよ☆」
「へ?」


ママとセイたんのそんなひそひそ話など一切耳に入らないくらい、あたしとレオたんは頭を下げたままパパからの返事をひたすらに待っていた。




「……ふむ。お前達の気持ちはよく分かった」
「「……っ、じゃぁ……―――――――」」
「だからこそ聞くが、お前達が学園に通いたい“本当の理由”とはなんだ?そこまで言うのだから、何か理由があるのだろう?」
「「!!!!」」



そう。
あたしやレオたんは、ただ勉強したいから学園に通いたいわけじゃない。



 
学園に通いたい”本当の理由”は……――――――――――




「学園を卒業したら“大人”の仲間入りなんだよね?」
「あたし達、早く皆と同じ“大人”になりたいの!!」
「「!!!!!!!」」


"学園に通いたい本当の理由"を告げると、さっきまであった多少のざわつきが一切なくなり、辺りが静まり返る。
皆が息を飲みながら、様子を伺っているようだ。
 
あたしとレオたんは、確かにまだまだ子供でわからないことやできないこともたくさんあって、いつも周りの大人達に助けら教えられている。

それに対し次期国王として様々な教育を受けているセレスは、根本的な部分は変わってないけど、会うたび少しずつ雰囲気や顔つき、考え方などが変わっているような気がした。
何より、将来国王としてこの国を背負う自覚を持って行動してるセレスと、今目の前にある事だけを考えて生きているあたしやレオたんは、決定的に何かが違った。

もちろん、“今”がダメだとは思わない。
パパやじいじから勉強を、剣や体術はフラたんやノンたんに、魔法はミナたんやセイたん、カイたん、時々リーたんも教えてくれて、着実に力や知識を身につけてきた自負はあるし、実際、難易度の高いダンジョンも攻略してきた。

だけど、どれだけ“力”を身に付け成長しても、両親や大切な仲間達から見ると、あたしやレオたんはまだまだ"子供"で、このまま変わらないような気がする。


「セレスが言ってたの。『人は様々な経験をして、それを乗り越えて”大人”になるんだ』って」
「今の生活が嫌なわけじゃない。だけど、俺達はもっといろんな世界を見て、いろんな経験したい」
「「そして、皆と同じように、頼り頼られる”大人の仲間”になりたい(の)」」
「……レオン、サクラ……」 


言いたいことはすべて言った。
後は、パパからのお許しが出るか否かだけだ。


皆が再び静まり返りパパの反応を気にする中、目の前にいるパパが足を組み替えながら深いため息をついている。


「はぁ……」


おずおずと顔を上げると、パパが額に手を当て眉間にしわを寄せていた。
困った時などによく見るポーズ……これだけでパパが学園への入学に賛成ではないとわかってしまい、少し泣きそうになってきた。


「……ねぇ、エル。あたしは、この子達の意思を尊重してあげたいな」
「…マ、マ……?」
「母さん……」
「ふふっ、二人共、勇気を出して打ち明けてくれてありがとう。あらら、サクラってば涙ぐんじゃって……可哀そうに」


ママがあたしやレオたんの頭を撫でながら、言葉を続ける。


「……確かにあたしは、エルが言っていたように、学園に通っていた頃、婚約者だったユーリに裏切られて酷い目に遭ったわ」
「え?!ママの元婚約者って、ユーリおじさんだったの??!!」
「おじさん……(ボソッ)今なら誰にも気づかれずに消せるかな……」

ママの発言でさっきまでの涙が一気に引っ込む。

学園で酷い目に遭った原因が、まさか国王であるユーリおじさんにあったなんて……

あ、レオンが本気でユーリおじさんを消す計画をブツブツ呟きながら練ってる。
コレは後で止めないと本気で決行しちゃうヤツだ。 

「いやいや、待って!余計なこと言った、今そこは重要じゃないの!!それに、あたしはあたしでも、以前この身体の持ち主だったサーシャさんあたしが……って、だぁぁぁぁっ!!この話は長くなるから今度ちゃんと話します!!とにかく、学園では辛いコトもあったけど、それだけじゃないの!セレスくんのお母さんで王妃でもあるモニカは、あたしが学園に通ってたときにできた大切な親友なの!!」

ママ曰く、王立魔術学園は同い年の人達が身分に関係なく知識や教養を身に付け、卒業後にやりたい事を見つける場所であり、そこで得る人間関係は良いモノもあれば悪いモノもあるだろうとのこと。
様々な人が通う学園で親元を離れて生活することで、自分がどうしたいのか目で見て判断し、いろんな経験を経て卒業を迎える年齢と共に“大人”の仲間入りを果たす……そういう場所らしい。

知らない世界は確かに怖いことも多いけど、それと同じくらいワクワクする世界だよねという言葉にレオたんもあたしも安心し、改めて学園に通いたい気持ちが強くなってきた。


「……ったく、サーヤ。お前はまた余計なことを……」
「むぅ、余計なんかじゃありません!あたしはただ、子供達の気持ちを大切にしたいだけです!!」


パパは少し悪い顔をしながらママの耳元で何かを囁き、狼狽えるママをよそにあたしやレオたんと同じ目線になるように屈んでこう言った。


「お前達の気持ちは充分わかった。だが、俺にも準備……いや、考える時間が欲しい。だから、明確な回答は明日だ。良いな?」
「「!!!」」



了承はもらえなかったけど、パパのこの態度は“OK”も同然だ。



あまりの嬉しさに、あたしとレオたんは「ありがとう」「パパ、大好き!」と言いながら勢いよくパパに飛びつく。
 
パパは「まだ了承したわけじゃない」と言ってたけど、否定もせずに大きな手であたし達の頭を撫でる。
頭を撫でる手がすごく優しくて、あたしは我慢しきれなった涙をこっそりとパパの服で拭った。
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