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二章 シェーンハイトに冬が来る
冬の準備①
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「ニクス様、朝ですよ!!!!」
クラウディアは早速、朝からニクスの部屋を訪れていた。
(まだ寝ていらっしゃるのかしら)
今日は冬支度のためにみんなで薪割りをすることになっている。暖炉の薪は重要すぎるほどに重要だ。
領民だけでなく、城の温かさを保つ為にはどうしても大量の薪が必要になる。
先遣隊が霊峰の植林地で木を伐採し、運ばれてくるそれを広場でみんなで薪割りするのだ。
炊き出しも行われて、さながらお祭りのようである。
有言実行、ニクスをその薪割りに駆り出そうという作戦だ。この部屋をあたたかく保つためには仕方がない。
「……押し入りましょうか?」
クラウディアの後ろで、スティーリアか訝しげに眉を顰める。なんとも物騒である。
朝といってももうシェーンハイト軍の早朝の訓練も終わり、クラウディアたちは朝食を済ませた。
だがこのニクスが姿を現さなかったため、クラウディア自ら呼びに来ることになったのである。
ニクスと共に残った使者は、何食わぬ顔で軍の食堂に現れて食事を取っていたという。
(王子の従者にしては行動がバラバラな気がするわ。こうして朝の手伝いもしないようだし……?)
正しい貴族のことはあまりよく分からないが、叔母アルストロメリアの家では毎朝数名の侍女たちが支度に現れた。
クラウディアはその前に鍛錬をしていたので、毎回容赦なくお風呂に連れていかれたりしたのだけれど。
「ニクス様? 体調が悪かったりするのでしょうか」
クラウディアがとんとんと扉を叩くも反応がない。もしかして、起き上がれないような事態が生じているのだろうか。
(仕方がありません。ここの扉は鍵が付いているとはいえ、問題はありません)
「ええと……では、押し入ってもよろしいでしょうか?」
「なんで!?」
結局スティーリアの案を採用したクラウディアがそう告げると、扉の向こうから予想外に元気な声が返ってきた。ニクスのものだ。
「ニクス様、もう起きていらっしゃったのですね。ではスティーリアがお手伝いをしますので、扉を開けてくださいませ」
元気そうな様子に安堵したクラウディアは要件を話す。ニクスは王族だ。随行のあの使者が従者でないのならば、他に侍女をつける必要がある。
クラウディアにとって最も信頼できる侍女といえばスティーリアなので、こうして一緒に連れてきたのだ。
「自分で出来るから大丈夫だ!」
「えっ、でも……」
「ヴォーリアでも自分のことは自分でやっていたから、侍女は不要だ。ああでも、湯を用意してくれたら助かるよ」
ニクスの頑なな声に、クラウディアとスティーリアは顔を見合わせる。
ヴォーリアの王はかなり傲慢で独裁的、豊かとはいえない国で贅を尽くしていると聞いている。
(ヴォーリアでもそのようにしていたのかしら。ニクス様はもしかして……)
クラウディアの頭にひとつの仮説が過ぎる。だが、その疑問をぶつけるにはまだ早い気がした。
「ではスティーリア。ニクス様に急ぎお湯を準備して差し上げて。わたしは先に広場に行きますとお伝えください」
「でも姫様。ニクス様は薪割りに参加されるでしょうか……?」
ニクスの様子からなにか察するものがあるのか、侍女スティーリアは訝しげな顔をする。
「どうかしら。でもほら! 広場には美味しいものもたくさんあるし、もしかしたら香りに釣られて来てくださるかもしれないわ」
「確かにそうですね……薪割りといえば、周りで焚き火をして塊肉やチーズを焼きますから」
「ね! きっとニクス様もきてくださるわ」
薪割りをする人々の傍らで、丸太で作ったトーチにフライパンを置いたり、焚き火にグリル網をセットしたりして、バーベキューも同時に行われる。
大きなお肉をグリルで豪快に焼いたり、フライパンではチーズを温めてとかしたり。
茹でた野菜、パンや芋に焼いたチーズをかけるところは視覚的にも美味しいし、火を囲んで食べるお肉は格別だ。
薪割りで冬準備をしつつ、今しか出来ない外での食事を街のみんなで楽しむイベントである。
ジルヴェスターも今日は参加すると言っていたから、クラウディアも朝から張り切っている。
色々なシェーンハイトの文化を知ってもらうことが今のクラウディアにとっての喜びだ。
「ニクス様。広場でお待ちしていますね」
返事のない部屋にクラウディアは最後にそう声をかけて、足取り軽く広場へと駆け出した。
クラウディアは早速、朝からニクスの部屋を訪れていた。
(まだ寝ていらっしゃるのかしら)
今日は冬支度のためにみんなで薪割りをすることになっている。暖炉の薪は重要すぎるほどに重要だ。
領民だけでなく、城の温かさを保つ為にはどうしても大量の薪が必要になる。
先遣隊が霊峰の植林地で木を伐採し、運ばれてくるそれを広場でみんなで薪割りするのだ。
炊き出しも行われて、さながらお祭りのようである。
有言実行、ニクスをその薪割りに駆り出そうという作戦だ。この部屋をあたたかく保つためには仕方がない。
「……押し入りましょうか?」
クラウディアの後ろで、スティーリアか訝しげに眉を顰める。なんとも物騒である。
朝といってももうシェーンハイト軍の早朝の訓練も終わり、クラウディアたちは朝食を済ませた。
だがこのニクスが姿を現さなかったため、クラウディア自ら呼びに来ることになったのである。
ニクスと共に残った使者は、何食わぬ顔で軍の食堂に現れて食事を取っていたという。
(王子の従者にしては行動がバラバラな気がするわ。こうして朝の手伝いもしないようだし……?)
正しい貴族のことはあまりよく分からないが、叔母アルストロメリアの家では毎朝数名の侍女たちが支度に現れた。
クラウディアはその前に鍛錬をしていたので、毎回容赦なくお風呂に連れていかれたりしたのだけれど。
「ニクス様? 体調が悪かったりするのでしょうか」
クラウディアがとんとんと扉を叩くも反応がない。もしかして、起き上がれないような事態が生じているのだろうか。
(仕方がありません。ここの扉は鍵が付いているとはいえ、問題はありません)
「ええと……では、押し入ってもよろしいでしょうか?」
「なんで!?」
結局スティーリアの案を採用したクラウディアがそう告げると、扉の向こうから予想外に元気な声が返ってきた。ニクスのものだ。
「ニクス様、もう起きていらっしゃったのですね。ではスティーリアがお手伝いをしますので、扉を開けてくださいませ」
元気そうな様子に安堵したクラウディアは要件を話す。ニクスは王族だ。随行のあの使者が従者でないのならば、他に侍女をつける必要がある。
クラウディアにとって最も信頼できる侍女といえばスティーリアなので、こうして一緒に連れてきたのだ。
「自分で出来るから大丈夫だ!」
「えっ、でも……」
「ヴォーリアでも自分のことは自分でやっていたから、侍女は不要だ。ああでも、湯を用意してくれたら助かるよ」
ニクスの頑なな声に、クラウディアとスティーリアは顔を見合わせる。
ヴォーリアの王はかなり傲慢で独裁的、豊かとはいえない国で贅を尽くしていると聞いている。
(ヴォーリアでもそのようにしていたのかしら。ニクス様はもしかして……)
クラウディアの頭にひとつの仮説が過ぎる。だが、その疑問をぶつけるにはまだ早い気がした。
「ではスティーリア。ニクス様に急ぎお湯を準備して差し上げて。わたしは先に広場に行きますとお伝えください」
「でも姫様。ニクス様は薪割りに参加されるでしょうか……?」
ニクスの様子からなにか察するものがあるのか、侍女スティーリアは訝しげな顔をする。
「どうかしら。でもほら! 広場には美味しいものもたくさんあるし、もしかしたら香りに釣られて来てくださるかもしれないわ」
「確かにそうですね……薪割りといえば、周りで焚き火をして塊肉やチーズを焼きますから」
「ね! きっとニクス様もきてくださるわ」
薪割りをする人々の傍らで、丸太で作ったトーチにフライパンを置いたり、焚き火にグリル網をセットしたりして、バーベキューも同時に行われる。
大きなお肉をグリルで豪快に焼いたり、フライパンではチーズを温めてとかしたり。
茹でた野菜、パンや芋に焼いたチーズをかけるところは視覚的にも美味しいし、火を囲んで食べるお肉は格別だ。
薪割りで冬準備をしつつ、今しか出来ない外での食事を街のみんなで楽しむイベントである。
ジルヴェスターも今日は参加すると言っていたから、クラウディアも朝から張り切っている。
色々なシェーンハイトの文化を知ってもらうことが今のクラウディアにとっての喜びだ。
「ニクス様。広場でお待ちしていますね」
返事のない部屋にクラウディアは最後にそう声をかけて、足取り軽く広場へと駆け出した。
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