最強令嬢は恋愛戦も制圧します!~婿探しをしたら宰相子息に溺愛されました~

ミズメ

文字の大きさ
上 下
33 / 35
二章 シェーンハイトに冬が来る

冬の準備①

しおりを挟む
「ニクス様、朝ですよ!!!!」

 クラウディアは早速、朝からニクスの部屋を訪れていた。

(まだ寝ていらっしゃるのかしら)

 今日は冬支度のためにみんなで薪割りをすることになっている。暖炉の薪は重要すぎるほどに重要だ。
 領民だけでなく、城の温かさを保つ為にはどうしても大量の薪が必要になる。

 先遣隊が霊峰の植林地で木を伐採し、運ばれてくるそれを広場でみんなで薪割りするのだ。

 炊き出しも行われて、さながらお祭りのようである。

 有言実行、ニクスをその薪割りに駆り出そうという作戦だ。この部屋をあたたかく保つためには仕方がない。


「……押し入りましょうか?」

 クラウディアの後ろで、スティーリアか訝しげに眉を顰める。なんとも物騒である。

 朝といってももうシェーンハイト軍の早朝の訓練も終わり、クラウディアたちは朝食を済ませた。

 だがこのニクスが姿を現さなかったため、クラウディア自ら呼びに来ることになったのである。
 ニクスと共に残った使者は、何食わぬ顔で軍の食堂に現れて食事を取っていたという。

(王子の従者にしては行動がバラバラな気がするわ。こうして朝の手伝いもしないようだし……?)

 正しい貴族のことはあまりよく分からないが、叔母アルストロメリアの家では毎朝数名の侍女たちが支度に現れた。
 クラウディアはその前に鍛錬をしていたので、毎回容赦なくお風呂に連れていかれたりしたのだけれど。

「ニクス様? 体調が悪かったりするのでしょうか」

 クラウディアがとんとんと扉を叩くも反応がない。もしかして、起き上がれないような事態が生じているのだろうか。

(仕方がありません。ここの扉は鍵が付いているとはいえ、問題はありません)

「ええと……では、押し入ってもよろしいでしょうか?」
「なんで!?」

 結局スティーリアの案を採用したクラウディアがそう告げると、扉の向こうから予想外に元気な声が返ってきた。ニクスのものだ。

「ニクス様、もう起きていらっしゃったのですね。ではスティーリアがお手伝いをしますので、扉を開けてくださいませ」

 元気そうな様子に安堵したクラウディアは要件を話す。ニクスは王族だ。随行のあの使者が従者でないのならば、他に侍女をつける必要がある。

 クラウディアにとって最も信頼できる侍女といえばスティーリアなので、こうして一緒に連れてきたのだ。

「自分で出来るから大丈夫だ!」
「えっ、でも……」
「ヴォーリアでも自分のことは自分でやっていたから、侍女は不要だ。ああでも、湯を用意してくれたら助かるよ」

 ニクスの頑なな声に、クラウディアとスティーリアは顔を見合わせる。
 ヴォーリアの王はかなり傲慢で独裁的、豊かとはいえない国で贅を尽くしていると聞いている。

(ヴォーリアでもそのようにしていたのかしら。ニクス様はもしかして……)

 クラウディアの頭にひとつの仮説が過ぎる。だが、その疑問をぶつけるにはまだ早い気がした。

「ではスティーリア。ニクス様に急ぎお湯を準備して差し上げて。わたしは先に広場に行きますとお伝えください」
「でも姫様。ニクス様は薪割りに参加されるでしょうか……?」

 ニクスの様子からなにか察するものがあるのか、侍女スティーリアは訝しげな顔をする。

「どうかしら。でもほら! 広場には美味しいものもたくさんあるし、もしかしたら香りに釣られて来てくださるかもしれないわ」
「確かにそうですね……薪割りといえば、周りで焚き火をして塊肉やチーズを焼きますから」
「ね! きっとニクス様もきてくださるわ」

 薪割りをする人々の傍らで、丸太で作ったトーチにフライパンを置いたり、焚き火にグリル網をセットしたりして、バーベキューも同時に行われる。

 大きなお肉をグリルで豪快に焼いたり、フライパンではチーズを温めてとかしたり。
 茹でた野菜、パンや芋に焼いたチーズをかけるところは視覚的にも美味しいし、火を囲んで食べるお肉は格別だ。

 薪割りで冬準備をしつつ、今しか出来ない外での食事を街のみんなで楽しむイベントである。

 ジルヴェスターも今日は参加すると言っていたから、クラウディアも朝から張り切っている。
 色々なシェーンハイトの文化を知ってもらうことが今のクラウディアにとっての喜びだ。

「ニクス様。広場でお待ちしていますね」

 返事のない部屋にクラウディアは最後にそう声をかけて、足取り軽く広場へと駆け出した。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!

山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」 夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。