最強令嬢は恋愛戦も制圧します!~婿探しをしたら宰相子息に溺愛されました~

ミズメ

文字の大きさ
上 下
30 / 35
二章 シェーンハイトに冬が来る

シェーンハイトの異変③

しおりを挟む
 第七王子ニクスと一人の従者らしき人を残して、ヴォーリアからの使者団は帰って行った。

 言うなれば敵地。
 まだ一応、ヴォーリアとシェーンハイトの友好協定は破談になってはいないから、敵と呼んではいけないのかもしれないけれど。

 その地に残すにしては、あまりにも手薄だ。

(シェーンハイトを試しているのでしょうか。それとも彼ら二人が特別に強い……?)

 四方八方をシェーンハイトの軍人たちが警戒の視線を張り巡らせる。というのに、ニクス王子は楽しそうな雰囲気を崩さないまま、城を案内するクラウディアについてきている。


「クラウディア。僕の部屋にも遊びに来てね!」
「お断りしますわ」

 彼に伝えた場所は、食堂と彼の部屋となる客室、それから何かあった時の避難経路。

 食事はこの従者が厨房から直接運ぶと言っていたけれど、彼らを厨房に入れる訳にはいかない。

 変わらず軽口を言うニクスの申し出をピシャリと断りつつ、クラウディアは彼の目をじっと見つめた。


 美しいサファイアブルー。
 同じ部族でも、母の瞳は桃色だ。


「なんだい。僕に見惚れちゃった?」

 ニコニコとした笑顔の奥の感情が全く見えない。なんとも不思議な存在だ。


「ニクス様。シェーンハイトはこれから冬の準備に入ります。滞在期間はどのくらいですか?」
「うーんそうだねぇ。君が僕に惚れるまで?」

 なんとも減らない口である。

 クラウディアが頬に手をあてて思案していると、隣でぷるぷると血管を浮き上がらせる太い腕が目に入った。


「……クラウディア、本当にこんなやつを滞在させるのか……!?」


 小声のつもりだろうが、従兄の声は完全にニクスに聞こえてしまっているだろう。こめかみに青筋を立て、怒りをこらえるアルフレッドの表情にクラウディアもため息をついた。


「従兄さま。落ち着いてくださいませ」
「これが落ち着いていられるか! こいつらはあの事件の――!」
「ダメですわ、従兄さま」

 クラウディアはアルフレッドの口に自らの両手を重ねる。
 グッと押さえ込めば、アルフレッドの喉からギュッと蛙が潰れたようなくぐもった声がした。


 クラウディアの道案内にジルヴェスターも名乗りを上げたのだが、それを断ったのは他でもないクラウディアだった。

 だってこの因縁はきっと、母世代から続いている。

 ただでさえ王都との問題も抱えて忙しくしているジルヴェスターの負担を軽くしたい。そう思って、道案内くらいは手間をかけさせたくないと思ったのだ。

 何か言いたそうにしていたジルヴェスターだったけれど、色々あってこうして従兄のアルフレッドが共に来てくれることになった。

「へえ、君たちも仲がいいんだね。もしかしてタダならぬ仲だったりする?」

 ケラケラと楽しそうなニクス王子と、ひと言も言葉を発さない従者。

「なっ……!」

 またアルフレッドの頭に血が上る。
 明らかに、先程からシェーンハイトの者を見下して挑発している――。


「わかりましたわ!」

 一触即発かと思われた雰囲気の中で、クラウディアが明るい声を出す。
 皆の視線が一斉にクラウディアを捉えた。


(ニクス王子の滞在期間は、"わたしがこの方を好きになるまで"。ということは、明確な期間については決まっていないということですね)

 その答えにたどり着いて、クラウディアはニッコリと微笑んだ。


「そうと決まれば、ニクス王子にもお手伝いいただかないといけませんわ」
「へ?」
「わたしが心変わりすることはありませんので、ニクス王子の滞在は長期になります。シェーンハイトには『働かざる者食うべからず』という古い格言がございますので、明日から王子もしっかり働きましょう!」
「……は? え? 僕、王子だし客人……」
「これから冬が来ます。冬の準備は大変なんです! お客さまに構っている暇はありません」
「ええ~……」


 クラウディアは至って真面目だ。

 シェーンハイトで生まれ、何度も冬を越えてきた。冬ごもりの大切さも、各々が役目を果たす必要性も身をもって学んできた。

「……なんか思ったのと違う」
「何かおっしゃいましたか? 大丈夫です、ニクス王子。分からない事はわたしが色々とお教えしますからご安心を! では今日のところは初日ですから昼食までごゆっくりお過ごしくださいね」

 クラウディアに気圧されたのか、ニクス王子はもう軽口を叩かなかった。

 笑顔がどこかやつれたような気がするけれど、まあ大丈夫だろう。


「では従兄さま、参りましょう!」
「ふ……っ、ああ、行こう」
「どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」


 笑いを堪えるようなアルフレッドの言葉にもクラウディアは不思議そうに首を傾げつつ、ふたりはニクス王子の部屋を出た。


 クラウディアとアルフレッドは廊下を進む。

 華奢に見えるクラウディアの背中を見つめながら、母親のアルストロメリアのような有無を言わせない強引さを見た気がしたアルフレッドだった。


 
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。