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1巻

1-2

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 辺境伯当主であるウルズスは軍人だけあってかなりたくましく、巨木のような男だ。その息女でかつ熊を倒したというくらいだから、熊のように大きくいかつい女だと誰もが思っていた。
 しかし、クラウディアの見た目はただの令嬢である。
 上背がかなりあるわけでもなく、肉付きがふくよかなわけでもない。
 というか、普通にかわいい。

「……ふっ」

 熊との攻防戦について王女に熱弁するクラウディアの後方から、柔らかな吐息が聞こえた。

「何を笑っているの、ジルヴェスター!」

 アデーレ王女は顔を赤くして、クラウディアの後方に立つジルヴェスターをきつく睨みつける。
 それもそうだ。先ほどからクラウディアと話がひとつも噛み合わない。苛立っているのだろう。

「いえ、私もアデーレ王女殿下のご英断に初めて感謝しました」
「なんですって……!」

 やわらかな笑みをたたえたジルヴェスターは、そう言って腰を折る。

「突然のことではありましたが、その王命はたしかに承りました。不肖ジルヴェスター、国防の要シェーンハイトにてしっかりその役目を果たしたいと思います」

 きっぱりとそう言ったその若草色の瞳は、熊バッジを自慢し続ける令嬢の姿を映している。
 振り返ってその視線に気がついたクラウディアは、ジルヴェスターの隣へ瞬間移動した。少なくとも、周囲の人間にはそのくらい素早く見えた。

「アデーレ王女殿下。シェーンハイトの名にかけて、この御方はわたしが幸せにいたしますのでご安心くださいませ!」
「……っ、わたくしのお下がりでよければ、そんなものお前に差し上げるわ!」

 アデーレ王女はクラウディアにそう捨て台詞を吐くと、きびすを返してパーティー会場をあとにした。
 褐色の肌の青年が苦虫を噛み潰したような顔でこちらをちらりと見て、それから慌てて彼女を追いかける。
 周囲のどよめきは大きくなる。王女がここで退席するなど想定されていなかったのだろう。

「あら、もう少し王女殿下とお話をしていたかったですわ。お腹でも痛くなったのかしら」
「ふ、ふふ……そうかもしれませんね」

 クラウディアが心から心配すると、ジルヴェスターも同調してくれる。
 中央に残るのはクラウディアとジルヴェスターのみだ。先程までこの場を囲んでいた貴族の集団も、そそくさとそれぞれの歓談へ戻っていく。
 チリリと強い視線を感じたクラウディアは、会場の右奥のほうを見る。すると、叔母のアルストロメリアがこちらを見てウインクし、親指まで立てていた。狩り成功ね、と唇が動いている。

(さすがは叔母様ですわ。すべて見ていらしたのね)

 叔母はこの狩場にクラウディアを投入したあと、颯爽とその場を離れて貴婦人たちとの社交を行なっていたはずだ。
 彼女は彼女で、周囲の人々に溶け込みながらもクラウディアの行動含め、会場全体の動静をしっかりと窺っていたらしい。
 クラウディアは叔母に微笑みを返す。それから、ジルヴェスターのほうに視線を戻した。
 美しい若草色の瞳もクラウディアのことをまっすぐに見ている。

「はじめまして。マルツ侯爵家のジルヴェスターと申します。シェーンハイト嬢……いえ、クラウディア嬢と呼ぶことをお許しいただけますか?」

 やわらかな笑みをたたえるジルヴェスターの申し出に、クラウディアも笑顔で応える。
 その申し出は、クラウディアにとってもあまりにも好機すぎる。逃す手はない。チャンスは前のめりになってでも掴み取れ、という領地の教えもある。

「もちろんですわ。わたしも……あの……ジ、ジルヴェスター様とお呼びしてもよろしいでしょうか……?」
「ええ。もちろんです」

 今度は自分の番だ。そう思ったクラウディアが内心ドキドキしながら尋ねると、ジルヴェスターは快諾してくれた。

「わあ……っ! うれしいです……とっても」
「こちらこそ。これからよろしくお願い申し上げます、クラウディア嬢」
「ジルヴェスター様、わたし、あなたに出会えてとってもとっても幸せです! 我が領地でも絶対に苦労させませんわ!」

 殺伐としていたはずの会場の真ん中で、顔を赤らめるクラウディアとジルヴェスターの周りには明らかに花が飛んでいる。
 自己紹介からはじまり、すっかりふたりの世界である。

(シェーンハイトの熊女とは……?)
(あの可憐な少女が熊を)
(かわいい)
(熊……)

 さまざまな思惑が渦巻く夜会で、クラウディアの婿探しは思いがけず大成功で幕を閉じた。



   第二章 はじまりの話


 夜会が終わり、それぞれが帰路に就く。

「……メリア叔母様、とっても素敵な夜会でしたわ」

 クラウディアは恍惚こうこつとした表情で、ポツリとこぼした。
 クラウディアはジルヴェスターと別れの挨拶を交わしたあと、こうして叔母のアルストロメリアと共に家へ戻る馬車の中にいる。
 現在クラウディアは、王都の貴族街にあるクロウリー伯爵家のタウンハウスに身を寄せていた。

「まあ、よかったわ。私もあそこまでの事態になるとは思わなかったけれど、流石さすがは我がめいだわ。とてもいい勝負だったわね」
「ええ。でも叔母様、わたしにとってはいいことばかりだったけれど、こんなことってあっていいのかしら。浮かれてばかりだと、足をすくわれそうです」

 まだドキドキしている。お婿さんを探しに夜会に参加して、そこで出会ったたったひとりの殿方に心奪われるような事態が起こるなんて、あまりにも事がうまく運びすぎている。
 クラウディアは胸に手を当てながら高揚する気持ちをなんとか落ち着けようと、アルストロメリアに確認を取る。

「そうね、勝利のあとこそ気を引き締めることは大切だわ。東国圏では『勝ってかぶとの緒をしめよ』という逸話もあるくらいですもの」
「まあ、そんな逸話が? 浮かれるのはほどほどにいたしますわ」
「いい心がけです、クラウディア」

 アルストロメリアの助言にクラウディアも真剣な眼差しでうなずく。
 逸話の内容は知らないが、実際の勝負事でも、勝ったと思って油断した時が一番気が緩んでいる。そこを敵に狙われてはひとたまりもない。
 叔母とそんな会話を交わし、クラウディアが気合を入れ直した頃に馬車はタウンハウスへ到着した。
 バタバタとした足音が聞こえたかと思えば、クラウディアが開けるよりも早く邸宅の扉が開く。

「おかえり、クラウディア!」
「ただいま戻りました。アルフ従兄にい様」

 クラウディアよりも頭ひとつ大きい男が人懐っこい笑顔で出迎える。
 従兄いとこのアルフレッドだ。黒髪に金色の瞳、がたいがよく流石さすがはシェーンハイトの血筋だと思う筋肉がある。

「なんです、アルフレッド。ここに母もいるのが見えませんか」
「あっ、母上もおかえりなさいませ~」
「まったく……」

 へにゃりと笑顔を見せる息子に、アルストロメリアは呆れたように息を吐いた。

「春でも夜は冷えるから、さあ早く入って入って」
「冷えて……いますか?」

 アルフレッドの言葉に、クラウディアは不思議そうに首をかしげる。

「えっ、寒くない? そんなドレス姿だと余計に……」
「アルフレッド。クラウディアは普段もっと雪深い場所で暮らしているのですよ。この程度の寒さはあちらでは温かいくらいです」
「そ、そうだよね~! ははっ」

 すぐさま指摘する母に、アルフレッドは彼女たちが王都育ちではないことを思い出した。
 クラウディアもアルストロメリアも北の領地シェーンハイトの生まれだ。雪が深く厳しい冬期を知っているからこその発言である。

「アルフ従兄にい様、お気遣いありがとうございます。お出迎えうれしいです」
「そっ、そう? はは……」
「……」

 アルストロメリアは、クラウディアに礼を言われて完全に鼻の下を伸ばしている息子をじっと見つめた。
 この家の次男であるアルフレッドは現在二十二歳。王国の騎士団に所属し、若くして近衛隊の副隊長の座についた。
 兄である長男のオーランドよりもシェーンハイトの血が色濃く流れており、毎日鍛錬に励んでいて筋骨隆々きんこつりゅうりゅうである。武才のある男だ。

「……クラウディア。私たちはまず着替えましょうか」
「はいっ!」

 いろいろと思うところはありつつも、アルストロメリアはクラウディアにそう声をかけた。
 すでに他貴族の令嬢と結婚して、この家の跡取りとして歩み始めたオーランドと違い、アルフレッドには婚約者すらいない。浮いた話もなく、日々鍛錬をしている。
 それがどういうことか、わからないアルストロメリアではない。息子が不憫な気がするが、まあそれはそれ、これはこれだ。

「クラウディア、春の社交シーズン中はしばらく王都にいるんだろう? だったら明日はどこか観光にでもいかないか?」

 アルフレッドの問いに、クラウディアはこてりと首をかしげた。

(そういえば、初手からお婿さんが決まった場合を想定していませんでしたわ)

 社交シーズン中は王都で夜会に参加しながら過ごすつもりだったが、今日早速、王命で婚約者が定まってしまった。そうすると、これから先夜会に出る意味はない。
 つまり、王都に滞在する理由はなくなってしまった。

「……ク、クラウディア?」

 動きの止まったクラウディアに、アルフレッドは慌てたように手を振る。何かまずいことでも言ってしまったのかと不安になる。

「クラウディア。近いうちにマルツ家からお話があるでしょうから、それまではここにいなさい。今夜にはたかを飛ばすから、兄さんも三日後には来るでしょう」

 これからのことを考え込み黙ってしまったクラウディアの状況を察し、アルストロメリアが助け舟を出す。
 夜会でふたりの婚約がなかば強制的に決められたとはいえ、正式な手続きはこれからだ。
 相手は宰相の家門である。時間はないにしろ、手続きはしっかりと行うに違いない。
 そのためには両家の当主の了解がいる。兄であるウルズスを呼び出す必要があったアルストロメリアは、愛鷹クェルルスを飛ばそうと考えていた。
 クェルルスは観賞用としても美しく気高い猛禽もうきん類の鳥であるが、主にこうして伝達の役目を果たすとても賢いたかなのだ。

「わかりました」

 叔母の言葉に、クラウディアはしっかりとうなずく。

「兄さん……ってウルズス伯父さん!? 伯父さんがくるの!? それにマルツってあの侯爵家の!? えっ、いやどういうこと!?」

 状況が掴めないのはアルフレッドだ。初めての夜会を楽しんだクラウディアがその夜に、どうしてそういう話になるのかまるでわからない。
 マルツ侯爵家といえば現宰相の家門。
 伯父のウルズスは言わずもがなシェーンハイト辺境伯である。
 それらが一度に押し寄せてくるとは一体どういうことなのだろう。

「さ、はやく楽な格好になりましょ、クラウディア」
「はい」
「あっ、母上……!」

 アルストロメリアは詳しい説明はせずに、クラウディアを連れてさっさと二階の居室へ去っていってしまった。
 詳しく聞きたい気持ちはあるが、女性が着替えると言っているのに追いかけるわけにはいかない。

「……えっ、いや――どういうこと!?」

 エントランスには、改めて混乱するアルフレッドの叫び声が響き渡ったのだった。


 それから三日後、本当に王都にシェーンハイト辺境伯であるウルズスが現れた。

「ラスティン殿、メリア! 邪魔をする!!」

 早朝のクロウリー伯爵家のエントランスに、似つかわしくない大声が響き渡る。
 灰色がかった短い黒髪、漆黒の軍服の上に毛皮をまとった男が朝日を背にして登場した姿は、逆光により本当に熊が現れたかのような錯覚を覚えるほどだ。

「お義兄さん、ようこそ~」

 アルストロメリアの夫であり、このクロウリー伯爵家のあるじであるラスティンは、そんな熊男をいつもと変わらぬ穏やかな笑顔で迎え入れた。

「おお、ラスティン殿! 息災か!? いつもお主は朗らかでいいなあ!」
「ははは、ありがとうございます~」

 ラスティンはサラサラの銀の髪に、特徴的な丸眼鏡をかけている。人畜無害じんちくむがいを前面に出しているかのような聖人のごとき人物である。
 その人柄から、この国の貴族派閥がいくら対立し荒れようとも、このクロウリー伯爵家だけはどこからも敵視されることなく中立を貫いている。
 もちろんそれは簡単なことではない。見た目には凡庸であるラスティンが実は優れた人物であることを、口には出さずとも皆認めているのだ。
 だからこそ、ああして派閥の偏った夜会にだって参加することができた。
 クロウリー伯爵家のアルストロメリア夫人を招待することは、貴婦人たちの間では当然のこととなっている。
 若き日のクロウリー伯爵とアルストロメリアは一見すると正反対のタイプであった。
 アルストロメリアがこの朗らかなラスティンに一目ぼれし、果敢なアタックをしたことは社交界では有名な話だ。

『あれは……狩りだった』

 当時のことを目を細めてそう語る人物もいるが、なんだかんだで仲睦まじいクロウリー伯爵夫妻である。

「兄さん、お久しぶりです。朝からお元気ですね。長旅の疲れはありませんか?」

 元気すぎる兄の様子をアルストロメリアは階段の上から見下ろしている。
 辺境伯領から王都までの道のりを最速で駆け抜けてきたにしては、その疲れを微塵も感じさせない兄に感心するやら驚きを通り越して呆れるやら。

「おお! 賢妹メリアに我が愛娘クラウディアではないか!! このとおり、すぐにでもとんぼ返りできる体力はまだ残っておるぞ。ガッハッハッ」
「お父様っ」

 アルストロメリアの隣に立つクラウディアは、父の姿を見つけて嬉々とした声を上げた。そして、地を蹴り軽やかに跳躍して一階に着地する。
 それを初めて見た年若い使用人は目を丸くするが、ほかには誰も驚かない。もはやこのクロウリー伯爵家もクラウディアの行動に慣れつつある。

「クラウディア、はしたないですよ。夜会のような狩場以外で、淑女がそのように跳躍するものではありません」
「メリアはよくそれを言うけど、夜会は言うほど狩場じゃないと思うんだけどねぇ~」

 アルストロメリアの叱責に、ラスティンがのんびりと合わせる。
 とっても爽やかな朝である。

「さて、メリアよ。クェルルスを使うくらいだから、よほど緊急事態なのであろうな」

 ひととおり挨拶を済ませたあと、ウルズスの鋭い眼光がまっすぐアルストロメリアに向けられた。
 アルストロメリアが飛ばしたたかのクェルルスは、出発の翌日には王都に戻り、自分の部屋で羽を休めていた。
 王都とシェーンハイトの往復はたかにとっては大したことはないようだ。

「ええ、兄さん」

 落ち着いた様子の叔母が、ちらりとクラウディアを見る。

「詳細はあとで説明するけど、三日前に開催されたユーザイン伯爵家での夜会でなんやかんやあって、クラウディアがマルツ宰相子息を仕留めたわ」
「なんと!」

 先日の夜会で起きた一連の出来事を、叔母がものすごく端折って説明した。
 そんなことは気にも留めず、ウルズスは大きく目を見開いてクラウディアを見る。
 その視線を受け、クラウディアは小さくうなずきながらにっこりと幸せそうに微笑みを返した。
『仕留めた』という単語に物言いをする者は誰もいない。シェーンハイト流に慣れきっている。

「それから、マルツ家から封書が届いていて、一度話をしたいということなので、このクロウリー家で一席設けています。明日の予定よ」

 そうなのだ、マルツ家からは叔母の予言どおりに夜会の翌日に手紙が二通届いた。
 一通はクロウリー家に宛てたもの、もう一通は言わずもがなジルヴェスターからクラウディアへ向けた私信である。
 手紙には『早くお会いしたいです』とジルヴェスターの文字でそう記されていた。
 手紙の作法として美辞麗句や社交辞令を並べるものだと習ったが、なにしろクラウディアが育ったのはあのシェーンハイト辺境伯領であり、これまで社交のたぐいをしたことはない。
 手紙を書くくらいなら拳で語れ、という環境の中で育ったクラウディアに、これまで手紙の交換をするという経験はなかった。

(あのお手紙は、永遠にとっておきますわ)

 そんな決意のもと、初めての手紙は大切に大切にしまってある。
 返信には『わたしもお会いしたいです』と書くことでいっぱいいっぱいだったけれど、それは社交辞令でもなんでもないクラウディアの素直な気持ちだ。
 朝からその手紙を受け取ったクラウディアは、それはもう大層喜び、何度も読み返した。
 そんな興奮冷めやらぬクラウディアを王都の街へと連れ出したのは、アルストロメリアだ。
 かわいいめいが王都にいる期間は短いことを察し、買い物へと繰り出した。
 きっと、近いうちに領地に戻ることになるだろう。その間に、ドレスの採寸やら持たせるお土産みやげやらの用事をさっさと済ませておく必要があると思ったからだ。

『母上ぇ……まだ買うの?』
『まあ、アルフレッド。その程度で弱音を吐くようではいけませんよ!』

 クラウディアとのお出かけだと思ってウキウキしていた例のアルフレッドは、『騎士の仕事がオフなら働け』という母からの指令で、まんまと荷物持ちとして駆り出されていた。
 アルストロメリアから簡潔な説明を受けたウルズスは、クラウディアに笑顔を向ける。

「おおクラウディア、でかしたぞ! 流石さすがは我が自慢の娘だっ!! 宰相殿は気概のある男であるからな、その教育を受けられたご子息も素晴らしい人物だろうて」
「ええ、とっても素敵な方でしたの! お父様、わたし思い切って王都に来てよかったです」
「お前の選ぶことに間違いはない。これからも我が道を進めよ、クラウディア!」
「はいっ」

 ウルズスの大きな手でわしわしと頭を撫でられながら、クラウディアは笑顔で返事をした。
 父と娘、それからシェーンハイト流武術の師範と弟子でもある。
 ふたりの胸元には熊バッジが輝き、その栄光と偉業をたたえている。

「まあまあ、本当はいろいろと込み入った内容ですし、立ち話もなんだから義兄さんもこっちでゆっくりしましょう~」

 親子のやり取りの最中、ラスティンがのびやかな声で割って入る。

「お茶を用意するわ。ほら、クラウディアもいらっしゃい」
「はいっ」
「世話になる!」

 ラスティンとアルストロメリアのふたりに促され、ウルズスとクラウディアもそのあとを追ってサロンへ入った。
 それから、にぎやかなティータイムが始まる。
 これからの王都の憂いなど知らないように、窓の外は雲ひとつない。爽やかな春の日に、愛らしい小鳥たちが心地よい鳴き声を奏でていた。


 翌朝。
 珍しく緊張した面持ちのクラウディアがそこにいた。

「お、叔母様。わたし、変ではありませんか?」

 今日は特段身だしなみが気になり、何度も何度も鏡で確認した。
 シェーンハイトの色である黒の服を身にまとうことが多いクラウディアにとって、桃色を基調とした可愛らしいデザインのドレスを着るというのは初めての経験だ。
 街に出かけた際にアルストロメリアの助言で選んだのだが、どこか落ち着かない。

「こんなにヒラヒラで、何かあった時にすぐ動けるものなのでしょうか? 足さばきが心配ですわ」

 当然ながらスカートの足回りにスリットは入っておらず、上品な生地がたっぷりと使われているため動きがどうしても鈍くなってしまう。
 普段と違って足がすばやく動かせなさそうなところが、余計にクラウディアの不安をあおっている。しかしそんな可愛らしいドレスにも、きちんと熊バッジをつけている。


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