最強令嬢は恋愛戦も制圧します!~婿探しをしたら宰相子息に溺愛されました~

ミズメ

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一章 番外編

軍部秘密会議

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 シェーンハイト城東棟奥、軍専用の食堂の一角にて。
 ガッチリムッチリした筋骨隆々の男たちがぎゅうぎゅうに肩を並べて険しい顔をしていた。もはや劇画である。


「……さあ、どうするんだあっ!!」

 一人が雄叫びのような声をあげ、木製のテーブルを力強く叩く。バァンという大きな音がしたが、すっごく頑丈だったのでテーブルは無事だ。

「もう、時間がないぞ」
「どうしてこんなに時間がかかってしまったのだァ!? お前たち、もっとシャキッとだな」
「軍曹こそ!! 毎日緊張してちゃんと聞き込みが出来ないからじゃないっスかぁ!? 初日の威勢はどうしたんですか!!」
「う、五月蝿いっ!!」

 一同はお互いに捲し立てあい、議論は喧喧囂囂となる。
 その一角で、とある人物は静かにその動静を見守っていた。なんだこれ、と思いながら。

「……そうだっ! ここは、アルフレッド殿に御高説を賜っては!?」

 壮年の軍人が閃いたような顔をしてそう言えば、皆の熱い視線は一心に隅で気配を消そうとしていたアルフレッドの元へと集中する。

(げ………気付かれた)

 アルフレッドは内心そんな事を思う。

『ぜひにご参加を! 大切な会議ですので!』と誘われてここに来た訳だが、いざ到着してみれば議題が議題なので、なんとなく黙っていた。

 暑苦しい視線がギラギラと眩しい。アルフレッドの意見に期待していることが窺えて、正直本当にどうしようかと思う。

 こほん、とひとつ咳払いをする。
 アルフレッドは覚悟を決めた。

「……確認なのですが」

 アルフレッドが話し始めると、軍人たちの瞳は輝きを増す。期待が込められている事がよく分かる。

「本日の議題は、この紙にあるとおり、『ようこそ婿殿☆歓迎パーティの開催について』のことで間違いないのですよね?」

 アルフレッドはまさにそのタイトルが書かれた紙を軍人たちに指し示す。
 重要会議と言っていただろ。なんだこれ。そうつっこみたい気持ちを必死におさえる。

「そのとおりである!」
「パーティーをしようと思ったが、婿殿の好物が分からず!! 聞き込みも出来ずじまい!!」
「き、緊張しちゃって……」
「……いい香りがするんだぁ。王都って、すごいなあ……」

 大きな体躯の男たちが揃いも揃ってモジモジとしている様は、滑稽をとおりすぎてちょっと怖い。

 シェーンハイトの男たちにとって、『ジルヴェスター・マルツ』という存在は、絵に書いた様な貴族子息で王都の人間だ。

 おそらく軍人からするとかけ離れた存在であるため、話しかけるのも躊躇してしまうということだろう。
 領主であるウルズスは貴族だけどあれであるため、確かにこれまでシェーンハイトには存在しない人材だ。

 揃いも揃って歓迎会を企てつつ、肝心なジルヴェスターの好きな食べ物などの調査が出来ていないということなのだ。

(全く……この人たちは……)

 アルフレッドは呆れた顔をしながら、どこか温かな気持ちになる。
 幼い頃からの顔見知りの人もいる。豪快で快活で憧れる軍人たちが、ジルヴェスターの好物のことで筋肉まで萎縮させているとは、なんとも微笑ましい事だ。

「アルフレッド殿ならば、王都から来ておるし、婿殿の好きな食べ物などについてもご存知ではないかと思って来ていただいたのだ」
「よっ! さすがです大佐!!」
「頼れる軍師!!」

 元気を取り戻してきた軍人たちを前に、アルフレッドは腕を組む。ジルヴェスターの好きな食べ物はなんだろう。

 お互いに王都の出であるが、あちらは生粋の貴族子息で政権の中心にいた。対してアルフレッドは騎士団に所属していて、その生活は異なる。

(食事について何か話していたか……? そういえば)

『忙しくて、あまり寝食について考えたことはなかったですね。夜会でも挨拶回りが多かったので……』

 ジルヴェスターがそんなことを話していた事を思い出す。あの人は忙しすぎて、誰かとゆっくり食事をとる事がほとんど無かったようだ。

 仕事人間であることは間違いない。声をかけなければ寝食を疎かにするタイプだ。
 いまは皆で食卓を囲む事にしているため、朝夕はきちんと食堂に行っているようだが。

「……シナモンロールは、とても美味しそうに食べていました。あとは、クラウディアと食べていたサーモンのサンドイッチ。それからベリーのパンケーキ」

 思いつくまま、アルフレッドはこれまでジルヴェスターが喜んで食べていたものを挙げてゆく。

 王都では関わりが無かったからほとんど知らないが、シェーンハイトで見る彼の表情はとても明るかったように思う。

「しかしそれは、シェーンハイトのものばかりだ」
「王都に負けないような、ご馳走を並べなくて良いのだろうか」

 軍人たちは困惑する。どれもシェーンハイトでは食べ慣れた、日常的な食事といえる。
 そんなものを歓迎会のメニューとして出していいのか。

「俺から見たジルヴェスター殿は、シェーンハイトを知りたいと深く思っておられる。難しいことは考えずに、シェーンハイトを紹介するつもりでもてなせば喜んでくださると思います」

 戸惑う筋肉たちに、アルフレッドはそう結論を告げた。
 きっと、そうであろう。あの人ならば。

「あとは、そうですね……」

 アルフレッドはじとりとした視線を諸先輩方に向ける。その鋭い視線に、軍人たちがたじろいでいる。

「そうして萎縮して彼の人を遠巻きにしてしまうのは良くないかと。軍から距離を取られているのではと気にしてましたよ」

 アルフレッドは、これまでのジルヴェスターの様子を思い返す。

 みなチラチラとジルヴェスターのことを気にしてはいるものの、老兵と一部の者以外はあまり話しかけて来ないことを気にしていたようだった。

「な、なにィぃぃぃぃ!?」
「そそれは!! 誠かっっ!!??」
「至急対処する! ご意見ありがたし!」
「では料理などをきめて早く取り掛かりましょう! 軍の歓迎の気持ちをお伝えしなければ」

 慌てた様子の軍人たちが、急いで歓迎会の計画の詳細をつめていく。その様子をアルフレッドも見守る。

 料理の詳細、日時、招待状の体裁……色々な事を決めながら、熱い夜が更けて行く。

 きっと楽しい歓迎パーティーになるだろう。

 計画の最終確認を求められたアルフレッドは、その書類を眺めながら口の端から笑みを逃がす。

(温かな人たちだな。やっぱり)

 シェーンハイトの軍に入れて良かった。アルフレッドは心からそう思いつつ――

「これは却下で。むしろ禁止です」

 計画書に書かれていた『ここで婿殿を胴上げ』の部分に大きくバツ印を付けたのだった。
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