最強令嬢は恋愛戦も制圧します!~婿探しをしたら宰相子息に溺愛されました~

ミズメ

文字の大きさ
上 下
18 / 35
どうなる王都編

第二王女から見た世界・その1

しおりを挟む
「……困ったことになったわ」

 狭い離宮の片隅で、第二王女ビアンカは途方に暮れていた。
 きらびやかとは言えない内装と調度品、数少ない地味なドレスがクローゼットもない部屋の壁に掛けてある。

 月夜の光に照らされる室内で、彼女の飾り気のない銀の髪がきらきらと揺れる。

 十六歳になったばかりのビアンカはとんでもない醜聞を耳にした。

""第一王女アデーレが情夫を連れて宰相子息に婚約破棄を命じた""
""王も認めたものであると言い放ち、冤罪の上職も奪った""
""シェーンハイト辺境伯を貶める発言をし、強引に婿入りを宣言した""

 どれも、ビアンカが寝ている間に起こったことだ。

 身分の低い側妃の娘であり、第二王女であるビアンカは明らかに第一王女のアデーレと差をつけられていた。
 王宮に住まうことはなく、離れに追いやられ、とても王族とは言えない暮らしを強いられている。

 反対に、王は第一王女に惜しみない愛を注ぎ、どんな我儘も叶えてきた。

(頭が痛いわ。お姉様がジルヴェスター様を手放すだなんて)

 ビアンカは、この国はこのままではゆるやかに退廃してゆくだろうと思っていた。
 中央の貴族たちは贅沢をして自分たちの私腹を肥やすことにしか興味がない。

 北のシェーンハイトや南のザウアーラントといった辺境の民たちが国防の要であるということを理解しようとしない。
 姉の暴言を聞くに耐えかねて反論した結果、ビアンカは全ての夜会への出席を禁じられてしまった。

――それでも、ジルヴェスター様が王配になられるのであれば。

 この暮らしや国の向きが変わると思った。それまでの我慢だと信じていたのに。

「……よりによって、婚約破棄。それも横領だなんて根も葉もない罪を着せて……どうせ捏造したことなんてすぐに露見してしまうわ」
 
 おまけにシェーンハイト家まで侮辱しただなんて。呆れてしまう。

「これからどーしよっか~?」

 こめかみを抑えるビアンカを前に、陽気な声がする。その声に顔を上げると、窓の外では褐色肌の人物が少年のような笑みを浮かべてにこやかに微笑んでいた。

 この人物こそ、寝ていたビアンカを起こし、先程の情報を教えてくれた人物だ。

 ビアンカの寝室は二階にある。ベッドのそばにある窓は、外からだと普通では見えない高さにあるのだが。

「アルバン、そうは言っても私に出来ることなんてほとんどないもの」

 幼い頃に知り合ったその人は、離宮にいるビアンカの元によく訪ねてきていた。そして外の話を教えてくれる。
 ほとんど軟禁されているような形のビアンカにとって、アルバンが教えてくれる情報はとても有益で楽しいものだった。

『ビアンカ、みてこれ。市で売ってた木の実』

『ビアンカ。今日は城下で祭りがあったらしいよ。ほらこれ、お土産』

『ビアンカ。この国の情勢はそんなに良くない。宰相が尽力しているけど、なかなか厳しいかもね』

 大人になるにつれ、その内容はどんどん難しくなってきた。

――きっとアルバンは、どこかの貴族の出なのだわ。

 王宮しか知らないビアンカでもそう感じるくらい、アルバンの知識量や知見は素晴らしいものだった。
 だからこそ、碌に家庭教師もつけてもらえないビアンカがかの人から本や新聞を与えられながら育った。

 歳の頃はあまり変わらないのに、アルバンは聡明だ。


「そんなことはない、君は第二王女だろう。これからこの国は荒れるぞ。宰相派とシェーンハイトを敵に回した」
「でも……私には本当に何も無いのよ」

 涙目になったビアンカは友人の瞳をじっと見つめた。吸い込まれそうな赤い瞳。

(あら……赤い瞳……?)

「ねえアルバン、あなた……」

 ビアンカがそう切り出した時、けたたましく離宮の扉を叩く音がする。

「な、なに……!?」
「ち。早速 保守派あいつらが囲い込みに来たか。ビアンカ、こっちに来い!」
「え、ええっ!?」

 来いと言われてもそこは二階の窓だ。木の上にいるアルバンが手を広げているけれど、ビアンカはいたって普通の女の子である。
 かの領地の令嬢とは訳が違う。

「はやく!」
「う、うわ~~ん」

 
 半ばやけくそになったビアンカは、呼ばれるままに窓の外に飛び出した。


しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。