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特別編
【コミカライズ配信記念SS】幼き日の三人
しおりを挟む○ヴァイオレットが十歳のとき。テオやアルとお茶会を楽しんでいた頃(乙女ゲームの記憶が戻る前)のとある昼下がりのおはなし。
○書籍:「一 お茶会と出会い」あたり
レンタル:「1-2」あたり
――――――――――――――――
本日の天気は晴れ。爽やかな風が吹く、とても気持ちのいい午後だ。
今日はテオのお母さまであるリシャール公爵夫人のフリージア様と、わたしのお母様の定期的なお茶会の日。
つまり、わたしがテオとアルに会う日でもある。
本来は王子様であるアルがいるはずはないんだけれど、公爵家やうちでお茶会がある時には彼も参加するのが定番となっている。
リシャール公爵家に呼ばれたわたしとお母さまは、エントランスで早速フリージア様とテオに出迎えられた。
「ローズ、ヴァイオレットちゃん。いらっしゃい。今日も素敵ね」
「こんにちは、フリージア。テオフィルさまも」
「フリージアさま、お招きありがとうございます」
フリージア様にお母さまと二人で並んで挨拶をしたところで、わたしは視線を隣の男の子に移した。
「こんにちは、テオ!」
「……ああ。よく来たな、レティ」
にっこりと笑ってそう言うと、向こうも微かに口角を上げてそう応えてくれる。
少々ぶっきらぼうなところはあるが、わたしたちは仲良しだ。
「アルはまだ来てないのかな」
きょろきょろと辺りを見回すが、あのさらさらの金髪王子さまの姿はない。
「そうだな。いつもより遅れているみたいだ。あいつも忙しいから」
「ひええ。やっぱり王子さまは大変だねぇ~」
フリージア様がお母様を談笑しながら案内するその後ろで、わたしとテオはそんな世間話をしながら歩く。
正直、毎日のんびりと暮らしているわたしには王族の大変さが分かる筈もないのだけど、「公務が」「家庭教師が」という話はよく耳にするので、本当に忙しいと思う。
「テオも色々と頑張ってるんでしょう? お母さまから聞いたよ。公爵様のお手伝いを始めたって。すごいね」
「そ、それほどでもないけどな」
(あら……?)
連れ立って歩いていたわたしは、隣にいる幼馴染がぷいと顔を背けたのと同時に、彼の髪が一房、ぴょこりと触覚のように跳ねていたのを見つけた。
「あれ、テオったら、髪が跳ねてるよ」
まだあまり背丈に差がないため、手を伸ばすと簡単に届いた。
ミルクティー色のふわふわの髪を撫で付けると、そのひと房はまたぴょこりと顔を出してしまう。
むむ。なかなか手強い。
ぴょこ。ふわ。ぴょこ。ふわ。
「……レティ、いつまでそうやってるんだ」
テオのふわふわの茶髪に触れると心地よく、必要以上になでなでしてしまっていたらしい。
この感覚は、なんだろう。前世でもふもふのわんこに触れた時のような、そんな感覚。
「ごめんごめん、気持ちよくってつい。んんー、わたしが撫でたくらいじゃ直らないなあ。根元を濡らしてからじゃないと」
顔を赤らめて不機嫌そうにする彼の様子に、わたしは慌てて手を引いた。
「ふふっ、いいのよぉヴァイオレットちゃん。テオってば朝からバタバタと準備して……」
「っ、母様!」
「何よぉ~」
いつから聞いていたのか、フリージア様はいつの間にかこちらを振り返って微笑んでいた。
頰の赤らめたままのテオは、慌てた様子でフリージア様の言葉を遮る。
その様子すら可笑しいのか、フリージア様はずっと笑顔だ。その隣でお母さまも穏やかに微笑んでいる。
フリージア様に何やら言っている間も、彼の髪はぴょこぴょこと跳ねていて可愛らしい。
「――なんだか楽しそうだね」
「アル!」
テオの様子をぼんやり眺めていたら耳元で声がして、慌てて振り返る。
するとそこには、美しい金髪を揺らす麗しの王子さまがいた。
「良かった。間に合ったんだね」
「うん。もちろんだよ。このお茶会以上に楽しい予定なんてないしね」
どうやら、アルもお茶会には無事に参加できるらしい。また三人で、わいわいとお喋りが出来るかと思うと楽しみだ。
「アルの髪はいつもサラサラで綺麗だね。羨ましいなぁ」
今日も金糸のように美しい髪を見ていたら、自然とそんな声が出た。
自分の紫の髪をつまみながら笑って見せると、アルは一瞬目を丸くして、その後直ぐにいつもの柔和な笑顔を見せる。
「僕は好きだよ。レティの髪。夜になる前の、綺麗な色だ」
「……わ、へへ、ありがとう! アルは優しいね」
まだ十一歳だと言うのに、わたしのことも気遣ってくれるなんて、なんて紳士なのだろう。
彼の優しさがとてもありがたい。
「アル。来てたのか」
「うん。今日もお邪魔するね」
こちらの様子に気が付いたテオが戻ってきて、またいつもの三人になった。
少しだけ頬に赤みを残したままだ。髪もそのまま。ぴょこぴょこ跳ねている。
「ねえ、今日は何して過ごそうか」
わたしがそう言うと、青と翠の瞳がこちらを向いて、思案げにしている。
良いお天気だ。テオの自慢のお庭で過ごしたら、きっと気持ちが良いだろう。
「……庭園だな」
「……庭園かな」
少し考えたあと、テオとアルが二人が同時にそう言って、お互いに顔を見合わせる。
その様子がおかしくて、わたしは思わず吹き出してしまった。
「賛成! じゃあ早く行こう。ほらほら」
真っ先に庭に出ると、花の香りを乗せた風がふわりと吹いた。
今日もまた、楽しいお茶会のはじまりだ。
――――――――――
【お知らせ】
お読みいただきありがとうございます。
本日9/16からアルファポリスさまからコミカライズ配信が始まります。
ぜひお読みください!
毎月第三木曜日配信です。
今後ともよろしくお願いします!
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