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特別編
【お知らせと特別SS】アルベールとリリー
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◇リリー視点です。
ーーーーーーーー
今日はとてもいい天気だ。
太陽はきらきらと光り輝き、空はどこまでも澄み渡っている。
この素晴らしき佳き日に、私は大好きなアルベール殿下と結婚する。
「リリー様、大変お綺麗でございます」
いつもは厳しいお小言が多い侍女のゾフィーも、今日ばかりは頬が緩んでいる。
幼い頃から私に仕えてくれているこの人には、ここまで随分と苦労をかけた。
隣国ーー私の祖国では王位継承を狙う貴族の内紛があり、陛下であるお父様も側近の宰相に長年騙されていた。
私が知っている乙女ゲームの世界では、私が女王になるというストーリーはなかったし、お兄様たち2人も存命だったから心配はしていなかったのだけど、蓋を開けてみるとなかなかギリギリだったようだ。
ヴァイオレットの侍女であるアンナとお兄さまと共に隣国に戻り、見慣れた離宮の侍女や護衛たちと会えた時は本当に嬉しかった。
「ありがとう。ゾフィー。アルベール様もそう言ってくださるかしら」
「ええ。間違いありません。花の妖精のように愛らしいのですから」
「ふふ、誉めすぎよ。でも、ありがとう」
アルベール様の立太子の式典と共に執り行われるこの婚礼は、両国にとってとても深い意味がある。
国同士の結びつきも強まり、文化的な交流も増えるだろう。
……とまあそんな建前は置いておいて、私は大好きな大好きな王子様と結婚出来るのが何より嬉しい。
元の乙女ゲームのストーリーから大きく外れてしまったこの世界で、何故だか私の婚約だけはしっかりと整ってしまった。
婚約式の日の夜、私は自室でガッツポーズしながら大泣きするというすごい姿だった。
だってアル様だよ⁉︎
あの優しく美しい王子様と、いくらこの世界では王女とはいえ、中身はこんな乙女ゲー大好き日本人な私が結婚だよ⁉︎
明日死んでもいいってくらい幸せすぎるっ!いや、勿体ないから絶対に生き延びてやるぅぅ!
アル様と幸せな家庭を築いてやるんだからぁぁ!!!
もうほんと、アル様だいすきっ!
「……リリー様、はしたのうございます」
「えっ、口に出てた?」
万感の想いを噛み締めていると、ゾフィーから苦言が飛んだ。
心の声はどうやら完全に漏れ出していたらしい。
私が尋ねると、ゾフィーは呆れたような顔でこくりと頷いた。
「アル様に聞かれてなくて良かったわ……」
ただでさえ、彼の前だとうまく話せないであっぷあっぷした結果、お淑やかな王女になりすましてしまう私だ。
そんな私がこんなやばい感情を抱えてしまっていることがアル様にバレてしまう事は避けたい。
好きになってもらうために努力しないといけないのだから。
ふうとひとつ息をついて気持ちを落ち着けた私は、なんとなしに扉の方を見て、ぴしりと固まってしまった。
「リリー様。恐れながら、アルベール様は先ほどこの部屋にいらっしゃいました」
扉の所には、既にアル様がいた。
「……ふっ、くくっ、なになに、リリー様、今のが君の素なの?」
淡々とした声で告げるゾフィーと、笑いを堪えているようなアル様。
白の婚礼用の正装に身を包んだ彼は、ますます神々しい輝きを放って、眩しすぎて目が死ぬ……素敵過ぎる。
痴態を見られた事も吹っ飛ぶ美麗さに、私は見惚れてしまう。
「嬉しいなあ、リリー様。いや、リリー。君がそこまで僕のことを想ってくれているなんて気付かなかったよ」
「はうっ、呼び捨て……! アル様天使過ぎ。ここは天国かしら……?」
「はは、現実だよ。ほらしゃんとして。これから僕たちの婚礼の儀だ。今日の君は一際美しいから、皆に見せにいかないと」
夢と現実の狭間を行き来する私に、アル様は優しく声をかける。
えっ美しいって私のこと?幻聴じゃないよね?
「……あ、ありがとうございます……!」
アル様に褒められた事が嬉しくて、それだけ答える。
彼のエメラルドの瞳を見つめていると、顔が熱くなるのを自分でも感じた。
「ふふ、真っ赤で可愛い。ようやくジークやレティと話している時のような気安い姿が見られて嬉しいよ」
「き、気付いてらしたんですか……?」
というか、かわ、可愛いって!
脳の伝達物質が私に小躍りしたくなるような歓喜を告げるが、ここはアル様の御前だ。平静に努めなければ。
そう思うのに、アル様はさっきよりも私に近付いて、手を伸ばしてやんわりと私の頬に触れた。
「うん。彼らとお茶会をしている時はすごく楽しそうだったのに、僕との会話はなかなか弾まないから……気になってたんだ。もしかしたら婚姻が憂鬱なのかなって」
「違います! 天に誓って!!」
寂しそうな表情で私を見据えるアル様に、私はすぐさま反論する。
私が緊張のあまり固まっていたことであらぬ誤解を生んでいたらしい。
「違うんです、アル様! 私、アル様が大好きで尊すぎて、いつも緊張してるんですっ! ……あ」
力説のあまり、こんなタイミングで告白してしまった事に今さら気付く。
それに『アル様』呼びは脳内だけに留めていたはずなのに、うっかり呼んでしまった。
『僕たちは婚約者なんだから、愛称で呼んでね』
そうアル様に言われても、緊張で口が動かず、これまでうまく呼べなかったのに、だ。
恥ずかしくて顔を背けようとしたが、叶わなかった。
アル様の手のひらによって、それを防がれてしまったからだ。
「顔を見せて、リリー。ふふ、真っ赤で可愛いね」
どっかーん。
妖艶に微笑むアル様に私の中の何かが噴火した。
頭から湯気が出ているような気さえする。
いやなんかもっとこうムードのある時に、淑やかに『ずっとお慕いしておりました……』ってやるつもりだったのに。
「君の気持ちが分かって嬉しいよ。君となら、確かに幸せな家庭を築いていけそうだ」
ひえ、と喉の奥から変な声が出た。
「ふたりでしっかり生き延びようね、リリー」
「は、はいぃ……」
アル様の綺麗な笑みに、私はますます骨抜きになる。
というかやっぱり、冒頭の私の心の声(仮)はしっかりとアル様に聞かれていたようだ。
「さあ、行こう」
「ええ。……アル様」
私の手元に差し出されたアル様の手を取る。
深呼吸を繰り返して少しだけ落ち着いてきた私は、顔を上げて彼を見た。
「アル様、これからよろしくお願いします」
「うん、こちらこそ。素のままの君をたくさん見せてね」
「……あんなもので良ければ、いつでもお見せしますわ」
「それは楽しみだ」
心底楽しそうにアル様は笑う。
それが嬉しくなって、私の頬も自然と緩む。
もう私の内心の大部分がバレてしまっているのだから、今更取り繕っても同じことだろう。
そう思うと、逆に心が軽くなった。
「アル様!」
私は彼の右手を両手で包み込む。
向かい合って見つめ合うと、アル様は目元を弛めて「どうしたの?」と尋ねてくれる。
「私、アル様に好きになってもらえるように頑張りますわ。そうして、おじいちゃんおばあちゃんになってもずっと一緒です。おじいちゃんになったアル様もきっと素敵でしょうね、ふふ、今から楽しみです」
王子と王女。
私たちに与えられている身分は、時には枷になる事もあるかもしれない。
だけど、そのおかげで私はこの人の隣に立つ事が許されたのだ。
やはり、感謝しかない。
アル様がヴァイオレットを大切に想っていることは私も知っている。
彼女は別の人の元へ嫁ぐ事になってはいるけれど、その気持ちはしばらく消えないだろう。
――アル様の気持ちが今は私になくても、いつかは絶対に振り向かせてみせる。
ふたりでデートもしたいし、隣国のうどんも披露したい。
ボート遊びとかやりたいなあ。ピクニックに行って、お弁当をあーんしちゃったりなんかして。その場合の料理は私が……いえ、料理には自信がないからそこはシェフにお任せね。あー楽しみ。
私は頭の中でプランを練り、ふむふむと頷く。
アル様はそんな私を見て一度呆気に取られた顔をしたあと、またくしゃりとした笑みを見せた。
「ふふ、君がやりたい事は全部やってみよう。ボートもピクニックも。僕も政務をこなして時間を作るね」
もしかしなくとも、また全部口に出ていたのかもしれない。
スッと視線をゾフィーに移すと、物知り顔をした彼女はゆっくりと頷いた。
「っ、アル様、はやく行きましょう!」
このまま話していたら、ますますボロが出そうだと思った私は慌てて部屋を飛び出した。
アル様の声が追いかけてくるけれど、恥ずかし過ぎて振り返ることができない。
いやちょっと私ポンコツ過ぎない?
いつもジーク兄さまにアレコレ言ってたけど、人のこと言えない。
「走ると危ないよ、リリー」
「はい……」
すぐに捕まった私は、観念して大人しくついていく。
聖堂の扉が開いたら、式典の始まりだ。
「君の気持ちが聞けて嬉しかったよ。僕も――ひとりの王子である前に、君のよき夫でいられるよう努力する」
扉の前で呼吸を整えている私に、アル様の優しい声が降ってくる。
白昼夢でも見ているのだろうか。
後でヴァイオレットやお兄様に頰をはたいてもらわないといけない。
そう思いながらアル様を見上げると、「それは痛そうだからやめてね」と返ってくる。
もう私の思考は全て筒抜けだ。どうしようもない。
これから頑張って、アル様に好きになってもらおう。
側室なんて絶対に許さないんだから。
聖堂のステンドグラスは、太陽の光のおかげで星が降るように美しい。
アル様の綺麗な横顔を盗み見ながら、私は改めてそう決意したのだった。
おわり
ーーーーーーーーーーーーーーーー
このお話をお読みいただいている皆さま、いつもありがとうございます。ミズメです。
この度、「悪役令嬢のおかあさま」について、アルファポリス様から打診があり、現在書籍化検討中となっております。
正式に決定した場合、書籍化該当部分(幼少期編~本編)が8月29日から非公開となる予定です。
突然非公開になる前に、お知らせをさせていただきました。
このような機会をいただけたのもみなさまの応援のおかげです。ありがとうございます(o^^o)
今後は近況ボードでのお知らせになるかと思います。
よろしくお願いします。
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今日はとてもいい天気だ。
太陽はきらきらと光り輝き、空はどこまでも澄み渡っている。
この素晴らしき佳き日に、私は大好きなアルベール殿下と結婚する。
「リリー様、大変お綺麗でございます」
いつもは厳しいお小言が多い侍女のゾフィーも、今日ばかりは頬が緩んでいる。
幼い頃から私に仕えてくれているこの人には、ここまで随分と苦労をかけた。
隣国ーー私の祖国では王位継承を狙う貴族の内紛があり、陛下であるお父様も側近の宰相に長年騙されていた。
私が知っている乙女ゲームの世界では、私が女王になるというストーリーはなかったし、お兄様たち2人も存命だったから心配はしていなかったのだけど、蓋を開けてみるとなかなかギリギリだったようだ。
ヴァイオレットの侍女であるアンナとお兄さまと共に隣国に戻り、見慣れた離宮の侍女や護衛たちと会えた時は本当に嬉しかった。
「ありがとう。ゾフィー。アルベール様もそう言ってくださるかしら」
「ええ。間違いありません。花の妖精のように愛らしいのですから」
「ふふ、誉めすぎよ。でも、ありがとう」
アルベール様の立太子の式典と共に執り行われるこの婚礼は、両国にとってとても深い意味がある。
国同士の結びつきも強まり、文化的な交流も増えるだろう。
……とまあそんな建前は置いておいて、私は大好きな大好きな王子様と結婚出来るのが何より嬉しい。
元の乙女ゲームのストーリーから大きく外れてしまったこの世界で、何故だか私の婚約だけはしっかりと整ってしまった。
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だってアル様だよ⁉︎
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アル様と幸せな家庭を築いてやるんだからぁぁ!!!
もうほんと、アル様だいすきっ!
「……リリー様、はしたのうございます」
「えっ、口に出てた?」
万感の想いを噛み締めていると、ゾフィーから苦言が飛んだ。
心の声はどうやら完全に漏れ出していたらしい。
私が尋ねると、ゾフィーは呆れたような顔でこくりと頷いた。
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ただでさえ、彼の前だとうまく話せないであっぷあっぷした結果、お淑やかな王女になりすましてしまう私だ。
そんな私がこんなやばい感情を抱えてしまっていることがアル様にバレてしまう事は避けたい。
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「リリー様。恐れながら、アルベール様は先ほどこの部屋にいらっしゃいました」
扉の所には、既にアル様がいた。
「……ふっ、くくっ、なになに、リリー様、今のが君の素なの?」
淡々とした声で告げるゾフィーと、笑いを堪えているようなアル様。
白の婚礼用の正装に身を包んだ彼は、ますます神々しい輝きを放って、眩しすぎて目が死ぬ……素敵過ぎる。
痴態を見られた事も吹っ飛ぶ美麗さに、私は見惚れてしまう。
「嬉しいなあ、リリー様。いや、リリー。君がそこまで僕のことを想ってくれているなんて気付かなかったよ」
「はうっ、呼び捨て……! アル様天使過ぎ。ここは天国かしら……?」
「はは、現実だよ。ほらしゃんとして。これから僕たちの婚礼の儀だ。今日の君は一際美しいから、皆に見せにいかないと」
夢と現実の狭間を行き来する私に、アル様は優しく声をかける。
えっ美しいって私のこと?幻聴じゃないよね?
「……あ、ありがとうございます……!」
アル様に褒められた事が嬉しくて、それだけ答える。
彼のエメラルドの瞳を見つめていると、顔が熱くなるのを自分でも感じた。
「ふふ、真っ赤で可愛い。ようやくジークやレティと話している時のような気安い姿が見られて嬉しいよ」
「き、気付いてらしたんですか……?」
というか、かわ、可愛いって!
脳の伝達物質が私に小躍りしたくなるような歓喜を告げるが、ここはアル様の御前だ。平静に努めなければ。
そう思うのに、アル様はさっきよりも私に近付いて、手を伸ばしてやんわりと私の頬に触れた。
「うん。彼らとお茶会をしている時はすごく楽しそうだったのに、僕との会話はなかなか弾まないから……気になってたんだ。もしかしたら婚姻が憂鬱なのかなって」
「違います! 天に誓って!!」
寂しそうな表情で私を見据えるアル様に、私はすぐさま反論する。
私が緊張のあまり固まっていたことであらぬ誤解を生んでいたらしい。
「違うんです、アル様! 私、アル様が大好きで尊すぎて、いつも緊張してるんですっ! ……あ」
力説のあまり、こんなタイミングで告白してしまった事に今さら気付く。
それに『アル様』呼びは脳内だけに留めていたはずなのに、うっかり呼んでしまった。
『僕たちは婚約者なんだから、愛称で呼んでね』
そうアル様に言われても、緊張で口が動かず、これまでうまく呼べなかったのに、だ。
恥ずかしくて顔を背けようとしたが、叶わなかった。
アル様の手のひらによって、それを防がれてしまったからだ。
「顔を見せて、リリー。ふふ、真っ赤で可愛いね」
どっかーん。
妖艶に微笑むアル様に私の中の何かが噴火した。
頭から湯気が出ているような気さえする。
いやなんかもっとこうムードのある時に、淑やかに『ずっとお慕いしておりました……』ってやるつもりだったのに。
「君の気持ちが分かって嬉しいよ。君となら、確かに幸せな家庭を築いていけそうだ」
ひえ、と喉の奥から変な声が出た。
「ふたりでしっかり生き延びようね、リリー」
「は、はいぃ……」
アル様の綺麗な笑みに、私はますます骨抜きになる。
というかやっぱり、冒頭の私の心の声(仮)はしっかりとアル様に聞かれていたようだ。
「さあ、行こう」
「ええ。……アル様」
私の手元に差し出されたアル様の手を取る。
深呼吸を繰り返して少しだけ落ち着いてきた私は、顔を上げて彼を見た。
「アル様、これからよろしくお願いします」
「うん、こちらこそ。素のままの君をたくさん見せてね」
「……あんなもので良ければ、いつでもお見せしますわ」
「それは楽しみだ」
心底楽しそうにアル様は笑う。
それが嬉しくなって、私の頬も自然と緩む。
もう私の内心の大部分がバレてしまっているのだから、今更取り繕っても同じことだろう。
そう思うと、逆に心が軽くなった。
「アル様!」
私は彼の右手を両手で包み込む。
向かい合って見つめ合うと、アル様は目元を弛めて「どうしたの?」と尋ねてくれる。
「私、アル様に好きになってもらえるように頑張りますわ。そうして、おじいちゃんおばあちゃんになってもずっと一緒です。おじいちゃんになったアル様もきっと素敵でしょうね、ふふ、今から楽しみです」
王子と王女。
私たちに与えられている身分は、時には枷になる事もあるかもしれない。
だけど、そのおかげで私はこの人の隣に立つ事が許されたのだ。
やはり、感謝しかない。
アル様がヴァイオレットを大切に想っていることは私も知っている。
彼女は別の人の元へ嫁ぐ事になってはいるけれど、その気持ちはしばらく消えないだろう。
――アル様の気持ちが今は私になくても、いつかは絶対に振り向かせてみせる。
ふたりでデートもしたいし、隣国のうどんも披露したい。
ボート遊びとかやりたいなあ。ピクニックに行って、お弁当をあーんしちゃったりなんかして。その場合の料理は私が……いえ、料理には自信がないからそこはシェフにお任せね。あー楽しみ。
私は頭の中でプランを練り、ふむふむと頷く。
アル様はそんな私を見て一度呆気に取られた顔をしたあと、またくしゃりとした笑みを見せた。
「ふふ、君がやりたい事は全部やってみよう。ボートもピクニックも。僕も政務をこなして時間を作るね」
もしかしなくとも、また全部口に出ていたのかもしれない。
スッと視線をゾフィーに移すと、物知り顔をした彼女はゆっくりと頷いた。
「っ、アル様、はやく行きましょう!」
このまま話していたら、ますますボロが出そうだと思った私は慌てて部屋を飛び出した。
アル様の声が追いかけてくるけれど、恥ずかし過ぎて振り返ることができない。
いやちょっと私ポンコツ過ぎない?
いつもジーク兄さまにアレコレ言ってたけど、人のこと言えない。
「走ると危ないよ、リリー」
「はい……」
すぐに捕まった私は、観念して大人しくついていく。
聖堂の扉が開いたら、式典の始まりだ。
「君の気持ちが聞けて嬉しかったよ。僕も――ひとりの王子である前に、君のよき夫でいられるよう努力する」
扉の前で呼吸を整えている私に、アル様の優しい声が降ってくる。
白昼夢でも見ているのだろうか。
後でヴァイオレットやお兄様に頰をはたいてもらわないといけない。
そう思いながらアル様を見上げると、「それは痛そうだからやめてね」と返ってくる。
もう私の思考は全て筒抜けだ。どうしようもない。
これから頑張って、アル様に好きになってもらおう。
側室なんて絶対に許さないんだから。
聖堂のステンドグラスは、太陽の光のおかげで星が降るように美しい。
アル様の綺麗な横顔を盗み見ながら、私は改めてそう決意したのだった。
おわり
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このお話をお読みいただいている皆さま、いつもありがとうございます。ミズメです。
この度、「悪役令嬢のおかあさま」について、アルファポリス様から打診があり、現在書籍化検討中となっております。
正式に決定した場合、書籍化該当部分(幼少期編~本編)が8月29日から非公開となる予定です。
突然非公開になる前に、お知らせをさせていただきました。
このような機会をいただけたのもみなさまの応援のおかげです。ありがとうございます(o^^o)
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