悪役令嬢のおかあさま

ミズメ

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アンナ=セラーズ編

最終話 ふたりで

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「レティ様……お綺麗です……!」

 王家に次いで身分の高い公爵家の嫡男であるテオフィルと、侯爵家の長女であるヴァイオレットの結婚式は、盛大に執り行われた。

 大聖堂のステンドグラスからは、純白のドレスに身を包むレティ様を祝福するように眩い光が差し込む。鮮やかな青の花冠に、細やかなレース地のベールをたらし、凛としたその立ち姿は本当に、天使のようだ。

「姉上……ううっ、綺麗です」
「お姉様、お姫様みたいー」

 私の隣では、レティ様の弟妹であるグレン様とサイネリア様がそう感嘆の言葉を漏らす。
 その奥にいるのは奥様であるローズ様と、旦那様のブライアム様だ。

 もう侯爵家雇われの使用人ではないからお2人を旦那さまや奥さまと言うのはおかしいのだけれど、心の中ではいいだろう。

 ローズ様はにこにこと微笑んでいるが、旦那さまはいつも以上に険しい顔をしている。――あれはきっと、涙を堪えているのだわ。

『お父様、最近夜にこっそり泣いてるのよー。内緒よ?』

 そう教えてくれたのは、7歳になったばかりのサイネリア様だ。幼い頃から大切に育てて来たヴァイオレット様が嫁ぐのだもの、仕方がない。

 こうして侯爵家の面々と並ぶように参列を許されている私は本当に幸せものだ。
 あの方に仕えることが出来て、あの方に出会えることが出来て、私の人生は、レティ様に色付けられたようなもの。



「――はい、誓います」

 式は進み、誓いの言葉を述べた2人は、見つめあってはにかみ合う。その幸せに満ちた風景に、私も幸せのお裾分けをしてもらったような気になった。



 ◇


「アンナ。ここにいたのか」
「ジーク様」

 結婚式の後に催されている公爵家での夜会が始まる少し前になって、私はようやくその人に会うことが出来た。
 式の時に遠くにいたのは見えたが、色々とあって話すことが出来なかった。


「間に合ってよかった」

 ほっとした顔の彼が差し出したその手に、私はそっと手を乗せる。

「……レティ様、とっても綺麗でした」
「そうだな。だが、俺にとってはアンナが1番綺麗だ」
「1番、というのは、2番目以降がある人が言う言葉らしいですよ」
「なっ……! そんなことはない、断じてない」
「ふふっ冗談です。褒めていただきありがとうございます」

 焦りながら否定する彼を見ていると、おかしくなって思わずくすりと笑ってしまった。

 ――隣国のあの庭園で、一生そばにいることを誓ってから3年が経った。

 私は国に戻って薬師としての研究に没頭し、若輩者ながら研究室の室長となった。忙しい日々だけれど、とてもやりがいがある仕事だ。
 それと並行して、社交の勉強も積んできたつもりだ。ローズ様やフリージア様、それに王妃のソニア様までお話をしてくださって、とても充実した日々だった。

 ジーク様も、バートリッジ公爵として奮闘していると聞いている。領地を得て、領地経営に邁進しているのだと、度々交わす手紙や、たまの訪問で教えてくれた。

 バートリッジ領はこの国と海を挟んだ向こうの領地で、港町では交易がとても栄えているのだそう。
 次期王として既に名声高いアルベール殿下とも親交の深いジーク様ならではの手法だ。

「……次は、俺たちの番だな。アンナ、待たせて悪かった。準備は全て整っている」

 私たちは、ひと月後に結婚する。
 そうして私は隣国に嫁ぐのだ。今は引き継ぎでてんてこ舞いだけれど、半月もしたら落ち着くだろう。

「とても立派な薬室をご用意してくださったのですね。ありがとうございます。とても楽しみです」

 領地には、広大な薬園を備え付けた薬室が整備され、私は公爵夫人でありながら、隣国の薬師としても迎えられる。

 それが、彼の言っていた"準備"だったのだ。

「アルに嘆かれたよ。優秀な薬師が引き抜かれると。だが、アンナは俺のだからな、アルには渡さない」

 赤毛の彼は、そう言って悪戯っぽく笑う。
 そのどこか少年のような仕草が、昔に戻ったような気にさせる。

 この人が私の旦那さま。
 私と一緒に夢を叶える人。


「ジーク様も私だけのものです。一生お守りいたしますね。毒を盛られたら、お任せください」
「もう盛られたくはないんだが……まあ、そうだな。頼む」

 そうして私たちは、会場へと足を運ぶ。

 扉の先には煌びやかな光が満ちていて、それがまるで私たちの未来も祝福しているようだと、そう感じたのだった。





「アンナ=セラーズ編」完

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お読みいただきありがとうございました(*´꒳`*)
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