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03 嫌われ聖女と騎士
母
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先生が派遣してくれた(誇張)護衛騎士共に、私はようやく救護院へとたどり着いた。
「ここまでで大丈夫です。ニーチラング様、ありがとうございました」
門の前で私は深々と頭を下げる。
道中、ほとんど会話らしいものは無かったが、私が疲れているのに気がついて歩くペースを落としてくれたりもして気遣いの人だった。
(さっきは最高の当て馬キャラだなんて思ってごめんなさい。いい人だからこの世界ではどうぞ幸せに……!)
「ひっ」
彼の幸せを祈りつつ顔を上げると、真顔で私を見下ろしていた。迫力があるのでやめて欲しい。
「帰りも送ろう」
「え!? いやいや、いいです大丈夫です。私の用事はいつ終わるか分かりませんし」
「気にしなくていい。用事までは邪魔しない。終わらせたら教えてくれればいい」
「ひええ……」
これから本当にマル秘なことをしようとしているので、すぐにでも立ち去ってもらいたい。
そう思って申し出を断ったけれど、大型犬が耳を垂れるかのように見るからにしょげてしまった。
責任感も強いのですね!?
(えーと、えーと、どうにかして騎士さまを帰したいな。ヴァンス先生の指示はどこまでなんだろう? うわーん救護院侵入計画が)
食い下がるニーチラングさんを前に、私は必死で言い訳を考える。そして何も浮かばない。
救護院に正面から入っても、きっと先生のお母さんの所には案内されないだろうからと思って、こっそりやろうと思っていたのだ。
あたふたする私をニーチラングさんは不思議そうに眺める。おおかた、誰かのお見舞いだと思っているのだろう。
(そうですよね、お見舞いならば真正面から行って帰ってくるだけですもんね……!)
「あら、どうかされましたか?」
救護院の前で騎士様と佇んでいたら、どこかからそんな声が降ってきた。
穏やかで優しい女の人の声だ。救護院の人かもしれない。
「騒いでしまって申し訳――」
振り返って謝罪をしようと思ったところで、私は言葉を失った。
救護院のものと思われる修道服に似た淡い水色の制服を身に纏い、その女性は穏やかに微笑む。
帽子からのぞく黒い髪とその整った顔立ちは、明らかにヴァンス先生と似ていた。瞳の色は澄み切った青色で、小首を傾げる姿は女神のようだ。
(あれ……ヴァンス先生のお母さん……? 設定から計算すると四十代なんだけど、全然そうは見えない……お姉さん……?)
どう見ても美しすぎるその人を前に、私はぴしりと固まってしまった。推しの母。推しをこの世に産み落としたもうた奇跡の人。
彼女がヴァンス先生を身ごもった経緯や、それからの道のりは小説を読破した私には身に染みるほど分かっている。
きっと当時の彼女はまだ少女だったはずだ。
欲のままに奪われて、とても怖い思いをしたはず。
(ごめんなさい……それでも)
「うっうっ、うえええん!」
「まあ、どうされました?」
「せ、ジェニング嬢、足でも痛めたのか!?」
慈愛に満ちた表情で私を迎えてくれたその人を見て、涙が込み上げてくる。
もっと幸せになれたはずの人。違う人生があったはずの人。
自己紹介をされた訳でもないのに、私はもうこの人がヴァンス先生の母だと確信していた。
病気だと思っていたから、てっきり寝込んでいると思っていたのに、こうして外に出ているのは何故なのか。
制服を着ているということは、患者ではなく救護士だということで、それも不思議だ。
急に泣き出した私のせいで、ヴァンス先生のお母さんと帰らないマンの騎士が戸惑っているのが分かる。
(――それでも、ヴァンス先生を産み育ててくれてありがとうございます……ごめんなさい、ありがとうございます、ごめんなさい……)
心の中で感謝と謝罪を繰り返しながら、私はふたりに見守られながら本日二度目の大号泣をした。
「ここまでで大丈夫です。ニーチラング様、ありがとうございました」
門の前で私は深々と頭を下げる。
道中、ほとんど会話らしいものは無かったが、私が疲れているのに気がついて歩くペースを落としてくれたりもして気遣いの人だった。
(さっきは最高の当て馬キャラだなんて思ってごめんなさい。いい人だからこの世界ではどうぞ幸せに……!)
「ひっ」
彼の幸せを祈りつつ顔を上げると、真顔で私を見下ろしていた。迫力があるのでやめて欲しい。
「帰りも送ろう」
「え!? いやいや、いいです大丈夫です。私の用事はいつ終わるか分かりませんし」
「気にしなくていい。用事までは邪魔しない。終わらせたら教えてくれればいい」
「ひええ……」
これから本当にマル秘なことをしようとしているので、すぐにでも立ち去ってもらいたい。
そう思って申し出を断ったけれど、大型犬が耳を垂れるかのように見るからにしょげてしまった。
責任感も強いのですね!?
(えーと、えーと、どうにかして騎士さまを帰したいな。ヴァンス先生の指示はどこまでなんだろう? うわーん救護院侵入計画が)
食い下がるニーチラングさんを前に、私は必死で言い訳を考える。そして何も浮かばない。
救護院に正面から入っても、きっと先生のお母さんの所には案内されないだろうからと思って、こっそりやろうと思っていたのだ。
あたふたする私をニーチラングさんは不思議そうに眺める。おおかた、誰かのお見舞いだと思っているのだろう。
(そうですよね、お見舞いならば真正面から行って帰ってくるだけですもんね……!)
「あら、どうかされましたか?」
救護院の前で騎士様と佇んでいたら、どこかからそんな声が降ってきた。
穏やかで優しい女の人の声だ。救護院の人かもしれない。
「騒いでしまって申し訳――」
振り返って謝罪をしようと思ったところで、私は言葉を失った。
救護院のものと思われる修道服に似た淡い水色の制服を身に纏い、その女性は穏やかに微笑む。
帽子からのぞく黒い髪とその整った顔立ちは、明らかにヴァンス先生と似ていた。瞳の色は澄み切った青色で、小首を傾げる姿は女神のようだ。
(あれ……ヴァンス先生のお母さん……? 設定から計算すると四十代なんだけど、全然そうは見えない……お姉さん……?)
どう見ても美しすぎるその人を前に、私はぴしりと固まってしまった。推しの母。推しをこの世に産み落としたもうた奇跡の人。
彼女がヴァンス先生を身ごもった経緯や、それからの道のりは小説を読破した私には身に染みるほど分かっている。
きっと当時の彼女はまだ少女だったはずだ。
欲のままに奪われて、とても怖い思いをしたはず。
(ごめんなさい……それでも)
「うっうっ、うえええん!」
「まあ、どうされました?」
「せ、ジェニング嬢、足でも痛めたのか!?」
慈愛に満ちた表情で私を迎えてくれたその人を見て、涙が込み上げてくる。
もっと幸せになれたはずの人。違う人生があったはずの人。
自己紹介をされた訳でもないのに、私はもうこの人がヴァンス先生の母だと確信していた。
病気だと思っていたから、てっきり寝込んでいると思っていたのに、こうして外に出ているのは何故なのか。
制服を着ているということは、患者ではなく救護士だということで、それも不思議だ。
急に泣き出した私のせいで、ヴァンス先生のお母さんと帰らないマンの騎士が戸惑っているのが分かる。
(――それでも、ヴァンス先生を産み育ててくれてありがとうございます……ごめんなさい、ありがとうございます、ごめんなさい……)
心の中で感謝と謝罪を繰り返しながら、私はふたりに見守られながら本日二度目の大号泣をした。
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