14 / 21
02 嫌われ聖女と魔法使い
決意する
しおりを挟む
先生に焦げたクッキーを食べさせてしまうというイベントを終えてから数日後。
「あ……!?」
寝起き早々、私はとてつもなく焦っていた。
あの羽根ペンが。
先生にもらった大切な大切な羽根ペンが。ケースに入れていたはずの尊さの塊のあの羽根ペンが(しつこい)、枕元で粉々になっていたのだ。しかもケースごと。
「なに……? 怪力なの、聖女って」
私は思わず自分の両手をじっと見つめる。
寝相が悪かった、で片付けるにはあまりにも豪腕が過ぎる。
全然そんな風に力を込めたつもりはなく、日課となった先生語りをしながら眠りについていただけだというのに。
末代まで未来永劫保存しようと思っていた矢先の出来事に、さすがの私もショックが隠しきれない。
(ランドストレームくん、私の羽根ペンをもう一回燃やしてくれないかな……ってダメダメ、先生のご厚意をそんな風に思うなんて)
ぶんぶんと頭を振った私は、とりあえず、本当に豆粒のように粉々になってしまっているケースと羽根ペンをかき集めて、泣きながら掃除をした。
せっかく頂いたペンをダメにしてしまったことを考えると、先生に会うのも気が重くなる。
(次の魔法学の授業は明日。先生はこれからしばらく実技って言ってたから、座学で羽根ペンを見咎められることはないかな……?)
そんなことを考えながら、私は先生と今後の展開について思いを馳せることにした。
ベッドの上に寝転がり、ゆっくりと瞳を閉じる。
思い浮かべたいのは、小説の最後。エンディングの部分だ。
『済世の聖女』で最後に明かされるのは先生が黒幕であったこと。それとは別に、なぜ先生がこの世を憎んで王家に復讐をしようとしたかが描かれている。
「えーっと、確か……先生の力がぐんと強くなるのはこれから……? 王家の血筋だから元々魔力量が多くて、だからこそ最強のラスボスなんだけど……」
なにかがあったはずなのだ。
◆◆◆
…………
……
『そんな……私がもっと早く知っていたら……』
ヴァンスを討ってから暫くして、明るみになった事実を知ってセシリアは衝撃を受けていた。
彼もまた、王家の転覆を企む貴族によって利用されていたのだ。
嘆くセシリアの元に、ゆっくりと王子バレリオが近づいてくる。
彼もまた元婚約者だった令嬢を亡くしたばかりで、沈痛の面持ちのままセシリアの肩を優しく掴んだ。
『……君は悪くない。対話をしようとしなかったのは、先生の方だ』
『バレリオ様、でも、でも……っ』
『泣かないで、セシリア。君は涙までも美しいけれど、僕は君が悲しむ所を見たくない』
『あっ……』
バレリオはセシリアの身体を優しく抱き締めた。その抱擁はとても温かで、失意にくれるセシリアをそっと包み込む。
『セシリア……僕だけの聖女……』
『バレリオ様……』
陽光が差し込む王子の執務室の一角で、二人はゆっくりと見つめあう。
それからどちらともなく顔が近づいて――
◆◆◆
「うわああああっ! やめやめ、ストップ!」
最後の挿絵のシーンまでしっかりと思い出してしまった私は、慌てて目を見開いた。
(そうそう、最後は王子様とのキスシーンだった! 回想やめ!)
大切なのはそこではない。
"明るみになった事実"の方だ。
先ほどのキスシーンは記憶から抹消する。
「先生が王家に協力していたのは……お母さんの病が原因だったんだよね」
教員を演じるヴァンスの元に来た王家からの命令は、聖女セシリアを監視すること。
王家を嫌う先生がその命に従ったのは、母親の病を治す鍵が聖女にあると言われていたからだ。
通常の医療では手の施しようのないほど悪化した病は、聖女のみが治せると言葉巧みに王家は先生を駒のように使う。
そしてもちろんその約束は守られず、母親は儚くなってしまい――自暴自棄になってしまった先生に、貴族派が囁くのだ。
『共に復讐を果たそう』と。
「……それで結局、先生は闇の力に手を出して、ラスボスに……って、ちょっと待って」
私はとあることに気が付いた。
先生はもうすでに、王家からの命令を受けて動いているはずだ。
母親の死はもう少し先。
そうであれば、私の力で何とかすることが出来るのではないだろうか。
小説のセシリアは、最後までずっと知らなかった。でも、私はこれから起きることを知っている。
「まずは、先生のお母さまを助けなくちゃ!」
固く拳を握り締めて、私はそう決意する。
先生を幸せにするため、頑張らなくては。
「あ……!?」
寝起き早々、私はとてつもなく焦っていた。
あの羽根ペンが。
先生にもらった大切な大切な羽根ペンが。ケースに入れていたはずの尊さの塊のあの羽根ペンが(しつこい)、枕元で粉々になっていたのだ。しかもケースごと。
「なに……? 怪力なの、聖女って」
私は思わず自分の両手をじっと見つめる。
寝相が悪かった、で片付けるにはあまりにも豪腕が過ぎる。
全然そんな風に力を込めたつもりはなく、日課となった先生語りをしながら眠りについていただけだというのに。
末代まで未来永劫保存しようと思っていた矢先の出来事に、さすがの私もショックが隠しきれない。
(ランドストレームくん、私の羽根ペンをもう一回燃やしてくれないかな……ってダメダメ、先生のご厚意をそんな風に思うなんて)
ぶんぶんと頭を振った私は、とりあえず、本当に豆粒のように粉々になってしまっているケースと羽根ペンをかき集めて、泣きながら掃除をした。
せっかく頂いたペンをダメにしてしまったことを考えると、先生に会うのも気が重くなる。
(次の魔法学の授業は明日。先生はこれからしばらく実技って言ってたから、座学で羽根ペンを見咎められることはないかな……?)
そんなことを考えながら、私は先生と今後の展開について思いを馳せることにした。
ベッドの上に寝転がり、ゆっくりと瞳を閉じる。
思い浮かべたいのは、小説の最後。エンディングの部分だ。
『済世の聖女』で最後に明かされるのは先生が黒幕であったこと。それとは別に、なぜ先生がこの世を憎んで王家に復讐をしようとしたかが描かれている。
「えーっと、確か……先生の力がぐんと強くなるのはこれから……? 王家の血筋だから元々魔力量が多くて、だからこそ最強のラスボスなんだけど……」
なにかがあったはずなのだ。
◆◆◆
…………
……
『そんな……私がもっと早く知っていたら……』
ヴァンスを討ってから暫くして、明るみになった事実を知ってセシリアは衝撃を受けていた。
彼もまた、王家の転覆を企む貴族によって利用されていたのだ。
嘆くセシリアの元に、ゆっくりと王子バレリオが近づいてくる。
彼もまた元婚約者だった令嬢を亡くしたばかりで、沈痛の面持ちのままセシリアの肩を優しく掴んだ。
『……君は悪くない。対話をしようとしなかったのは、先生の方だ』
『バレリオ様、でも、でも……っ』
『泣かないで、セシリア。君は涙までも美しいけれど、僕は君が悲しむ所を見たくない』
『あっ……』
バレリオはセシリアの身体を優しく抱き締めた。その抱擁はとても温かで、失意にくれるセシリアをそっと包み込む。
『セシリア……僕だけの聖女……』
『バレリオ様……』
陽光が差し込む王子の執務室の一角で、二人はゆっくりと見つめあう。
それからどちらともなく顔が近づいて――
◆◆◆
「うわああああっ! やめやめ、ストップ!」
最後の挿絵のシーンまでしっかりと思い出してしまった私は、慌てて目を見開いた。
(そうそう、最後は王子様とのキスシーンだった! 回想やめ!)
大切なのはそこではない。
"明るみになった事実"の方だ。
先ほどのキスシーンは記憶から抹消する。
「先生が王家に協力していたのは……お母さんの病が原因だったんだよね」
教員を演じるヴァンスの元に来た王家からの命令は、聖女セシリアを監視すること。
王家を嫌う先生がその命に従ったのは、母親の病を治す鍵が聖女にあると言われていたからだ。
通常の医療では手の施しようのないほど悪化した病は、聖女のみが治せると言葉巧みに王家は先生を駒のように使う。
そしてもちろんその約束は守られず、母親は儚くなってしまい――自暴自棄になってしまった先生に、貴族派が囁くのだ。
『共に復讐を果たそう』と。
「……それで結局、先生は闇の力に手を出して、ラスボスに……って、ちょっと待って」
私はとあることに気が付いた。
先生はもうすでに、王家からの命令を受けて動いているはずだ。
母親の死はもう少し先。
そうであれば、私の力で何とかすることが出来るのではないだろうか。
小説のセシリアは、最後までずっと知らなかった。でも、私はこれから起きることを知っている。
「まずは、先生のお母さまを助けなくちゃ!」
固く拳を握り締めて、私はそう決意する。
先生を幸せにするため、頑張らなくては。
13
お気に入りに追加
1,129
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。
完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
カクヨム、なろうにも投稿しています。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる