その結末はお断りします! -嫌われ転生聖女が推しの悪役王弟殿下に溺愛されるまで-

ミズメ

文字の大きさ
上 下
12 / 21
02 嫌われ聖女と魔法使い

女子力を高めよ

しおりを挟む
 とても爽やかな目覚めだ。
 私の枕元には、厳重に包まれた羽根ペンが置かれている。

「ふふふふふ、夢じゃない……!」

 私は昨日の出来事を噛み締める。
 先生にいただいた公式グッズはもちろん保存用だ。学校用の羽根ペンは安売りしていた予備のものを使わせてもらう。

 もしこれを燃やされてしまったら、今度は絶対に許さない。ウル・ランドストレームくんめ!

「よし、行ってきます、ヴァンス先生」

 朝の支度を済ませた私は、その羽根ペンにしっかりと挨拶をして部屋を出た。昨日はヴァンス先生の素晴らしさについて語って聞かせたりして、とても楽しかった。

 ……願わくば、人間の友人が欲しい今日この頃だけれど。

 今のところ、学園で一番関わった生徒が例のランドストレームくん――長いのでランくんとする――くらいだという悲しさ。

 そんなことを思いながら、私は校舎とは違う方向へと足を進めた。

「おはようございます!」
「お、来たか。早いなあセシリアちゃんは」
「お仕事に支障のない範囲で厨房を使わせていただくという約束でしたので」
「今なら全く問題ないから、入りな入りな」

 私が訪ねたのは、食堂の厨房だ。まだかなり早い時間なので、もちろん生徒の姿はない。

 ぺこりと頭を下げ、エプロンを身につけると手を洗うことにした。

「しかし、あのセシリアちゃんが"聖女"ねえ~」
「はは……私もビックリです」

 厨房に務めるサブおじさんは、私と同じ下町の出身だ。小さい頃からよく料理を振舞ってくれていた。

 今日はそのよしみで、こうして厨房で作業をすることの了承を得ることが出来ている。

「学園はどうだい? 身分のことでいじめられたりはしてないか? お貴族さまってやつは、色々とうるさいからなぁ」
「はは……」

 サブおじさんの世間話に、私は今度こそ本当に乾いた笑いで答えるしかない。

 私を心配している両親にも「上手くやっている」という手紙を送ったばかり。何も上手くは行かないが、だからといってそれを正直に書くことは出来なかった。

「ではあの、早速作ってもいいですか?」
「おう。必要な物があったら言ってくれ。オーブンはコツがいるから俺に頼ってくれよ?」
「はい! 頑張ります!」

 その話題は避けたいこともあり、急ぎ支度に入る。今日は定番のアレを作ってみようと思うのだ。

「サブおじさん、あの、ちなみになんですけど」
「どうした?」
「クッキーってどうやって作るんです?」

(そう、返礼品として定番の、アレを作る!)

 やる気に満ち溢れている私とは正反対に、サブおじさんは困ったように眉を下げた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】

皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」 お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。 初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。 好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。 ****** ・感想欄は完結してから開きます。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

邪魔者は消えようと思たのですが……どういう訳か離してくれません

りまり
恋愛
 私には婚約者がいるのですが、彼は私が嫌いのようでやたらと他の令嬢と一緒にいるところを目撃しています。  そんな時、あまりの婚約者殿の態度に両家の両親がそんなに嫌なら婚約解消しようと話が持ち上がってきた時、あれだけ私を無視していたのが嘘のような態度ですり寄ってくるんです。  本当に何を考えているのやら?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

処理中です...