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02 嫌われ聖女と魔法使い
女子力を高めよ
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とても爽やかな目覚めだ。
私の枕元には、厳重に包まれた羽根ペンが置かれている。
「ふふふふふ、夢じゃない……!」
私は昨日の出来事を噛み締める。
先生にいただいた公式グッズはもちろん保存用だ。学校用の羽根ペンは安売りしていた予備のものを使わせてもらう。
もしこれを燃やされてしまったら、今度は絶対に許さない。ウル・ランドストレームくんめ!
「よし、行ってきます、ヴァンス先生」
朝の支度を済ませた私は、その羽根ペンにしっかりと挨拶をして部屋を出た。昨日はヴァンス先生の素晴らしさについて語って聞かせたりして、とても楽しかった。
……願わくば、人間の友人が欲しい今日この頃だけれど。
今のところ、学園で一番関わった生徒が例のランドストレームくん――長いのでランくんとする――くらいだという悲しさ。
そんなことを思いながら、私は校舎とは違う方向へと足を進めた。
「おはようございます!」
「お、来たか。早いなあセシリアちゃんは」
「お仕事に支障のない範囲で厨房を使わせていただくという約束でしたので」
「今なら全く問題ないから、入りな入りな」
私が訪ねたのは、食堂の厨房だ。まだかなり早い時間なので、もちろん生徒の姿はない。
ぺこりと頭を下げ、エプロンを身につけると手を洗うことにした。
「しかし、あのセシリアちゃんが"聖女"ねえ~」
「はは……私もビックリです」
厨房に務めるサブおじさんは、私と同じ下町の出身だ。小さい頃からよく料理を振舞ってくれていた。
今日はそのよしみで、こうして厨房で作業をすることの了承を得ることが出来ている。
「学園はどうだい? 身分のことでいじめられたりはしてないか? お貴族さまってやつは、色々とうるさいからなぁ」
「はは……」
サブおじさんの世間話に、私は今度こそ本当に乾いた笑いで答えるしかない。
私を心配している両親にも「上手くやっている」という手紙を送ったばかり。何も上手くは行かないが、だからといってそれを正直に書くことは出来なかった。
「ではあの、早速作ってもいいですか?」
「おう。必要な物があったら言ってくれ。オーブンはコツがいるから俺に頼ってくれよ?」
「はい! 頑張ります!」
その話題は避けたいこともあり、急ぎ支度に入る。今日は定番のアレを作ってみようと思うのだ。
「サブおじさん、あの、ちなみになんですけど」
「どうした?」
「クッキーってどうやって作るんです?」
(そう、返礼品として定番の、アレを作る!)
やる気に満ち溢れている私とは正反対に、サブおじさんは困ったように眉を下げた。
私の枕元には、厳重に包まれた羽根ペンが置かれている。
「ふふふふふ、夢じゃない……!」
私は昨日の出来事を噛み締める。
先生にいただいた公式グッズはもちろん保存用だ。学校用の羽根ペンは安売りしていた予備のものを使わせてもらう。
もしこれを燃やされてしまったら、今度は絶対に許さない。ウル・ランドストレームくんめ!
「よし、行ってきます、ヴァンス先生」
朝の支度を済ませた私は、その羽根ペンにしっかりと挨拶をして部屋を出た。昨日はヴァンス先生の素晴らしさについて語って聞かせたりして、とても楽しかった。
……願わくば、人間の友人が欲しい今日この頃だけれど。
今のところ、学園で一番関わった生徒が例のランドストレームくん――長いのでランくんとする――くらいだという悲しさ。
そんなことを思いながら、私は校舎とは違う方向へと足を進めた。
「おはようございます!」
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ぺこりと頭を下げ、エプロンを身につけると手を洗うことにした。
「しかし、あのセシリアちゃんが"聖女"ねえ~」
「はは……私もビックリです」
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今日はそのよしみで、こうして厨房で作業をすることの了承を得ることが出来ている。
「学園はどうだい? 身分のことでいじめられたりはしてないか? お貴族さまってやつは、色々とうるさいからなぁ」
「はは……」
サブおじさんの世間話に、私は今度こそ本当に乾いた笑いで答えるしかない。
私を心配している両親にも「上手くやっている」という手紙を送ったばかり。何も上手くは行かないが、だからといってそれを正直に書くことは出来なかった。
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「クッキーってどうやって作るんです?」
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やる気に満ち溢れている私とは正反対に、サブおじさんは困ったように眉を下げた。
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