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01 ヒロインで聖女なのに嫌われ中
入学式
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今日は魔法学園に入学する日だ。
憧れの学生生活。希望と期待を胸いっぱいに詰め込んで、私──セシリア・ジェニングは煉瓦造りの門をくぐった。
ところまでは良かった。ほぼ序盤だ。
これまで見た事のない大きなレンガ造りの校舎、人の多さに圧倒されてふらふらと歩いている内に私は早速迷子になってしまった。
方向音痴なのは前世からなので筋金入りである。
「……迷っているのか?」
涙目になっていた私に声をかけてくれたのは、それこそとても美麗な殿方だったのだけれど。
その人は救いの声に嬉々として振り返った私の顔を見るなり、あからさまに怪訝な顔をした。
「……本当に現れるのか……」
「はい?」
美しい顔に刻まれる眉間の皺。
それにそんなでっかいため息まで……?
「あの……私、講堂の方向が分からなくなってしまいまして。入学式に行きたいんです」
ひとまず、怪しい者ではないことを懸命に主張してみる。
だが、私の予想に反してその眉間の皺はマジックペンで書いたがごとくますます濃くなった。
「そうだろうな。君が特待生のセシリア・ジェニングで間違いはないか?」
その声は突き放すような冷たいものだった。
そして、この人は私の名前を知っているらしい。
一体何者なのだろう。とにかく高貴なオーラが出まくっている。銀髪なんて人生で初めて見た。
私が入学することになったこの学園のほとんどの生徒は貴族だ。きっとこの人もそうなのだろうと仮説を立ててみる。
「は、はい……そうですけど……?」
知らずに何か失礼なことをしてしまったのかもしれない。
私が戸惑いながら肯定すると、その人のエメラルドの瞳はすうっと細められた。
『光魔法は稀有な力である。国のために貢献せよ』
急に下町の小さな我が家に押しかけて来たのは、国からの使者だとかいう尊大な男たちだった。
光魔法は、その頃近所の子供が馬車に接触して大怪我をした時に急に私から発現した治癒の光だ。
怪我があっという間に治り、重体だった少年はすぐに走り出す。それはもう、大変な騒ぎになった。
『学園に入学せよ』
そう命令されて、私は親元を離れ、試験やら身分やらを一気に飛び越えた上で王都の学園に特別入学をすることになったのだ。
ぐるぐるとそんなことを思い出していると、眼前の人は私のことを睨みつけた。
「……無駄なことを。どうやったら迷うのかまるで分からないが、講堂はここから真っ直ぐ戻ったら見える一番大きな部屋だ。人の出入りが多いから間違えることは無いだろう」
銀髪の男性はやむなくといった様子でそれだけ言い残すと、先にさっさと行ってしまった。
やけに尖った態度が気にかかるが、教えてくれたことは間違いない。
「ありがとう……ございます」
慌ててお礼を言うが、もちろんその背中は振り向かなかった。
セシリア・ジェニング 十六歳。
入学初日、初っ端から知らない人に嫌われているんですけど……?
それは、やわらかな風に花びらが舞い落ちる、ある春の日のことだった。
憧れの学生生活。希望と期待を胸いっぱいに詰め込んで、私──セシリア・ジェニングは煉瓦造りの門をくぐった。
ところまでは良かった。ほぼ序盤だ。
これまで見た事のない大きなレンガ造りの校舎、人の多さに圧倒されてふらふらと歩いている内に私は早速迷子になってしまった。
方向音痴なのは前世からなので筋金入りである。
「……迷っているのか?」
涙目になっていた私に声をかけてくれたのは、それこそとても美麗な殿方だったのだけれど。
その人は救いの声に嬉々として振り返った私の顔を見るなり、あからさまに怪訝な顔をした。
「……本当に現れるのか……」
「はい?」
美しい顔に刻まれる眉間の皺。
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ひとまず、怪しい者ではないことを懸命に主張してみる。
だが、私の予想に反してその眉間の皺はマジックペンで書いたがごとくますます濃くなった。
「そうだろうな。君が特待生のセシリア・ジェニングで間違いはないか?」
その声は突き放すような冷たいものだった。
そして、この人は私の名前を知っているらしい。
一体何者なのだろう。とにかく高貴なオーラが出まくっている。銀髪なんて人生で初めて見た。
私が入学することになったこの学園のほとんどの生徒は貴族だ。きっとこの人もそうなのだろうと仮説を立ててみる。
「は、はい……そうですけど……?」
知らずに何か失礼なことをしてしまったのかもしれない。
私が戸惑いながら肯定すると、その人のエメラルドの瞳はすうっと細められた。
『光魔法は稀有な力である。国のために貢献せよ』
急に下町の小さな我が家に押しかけて来たのは、国からの使者だとかいう尊大な男たちだった。
光魔法は、その頃近所の子供が馬車に接触して大怪我をした時に急に私から発現した治癒の光だ。
怪我があっという間に治り、重体だった少年はすぐに走り出す。それはもう、大変な騒ぎになった。
『学園に入学せよ』
そう命令されて、私は親元を離れ、試験やら身分やらを一気に飛び越えた上で王都の学園に特別入学をすることになったのだ。
ぐるぐるとそんなことを思い出していると、眼前の人は私のことを睨みつけた。
「……無駄なことを。どうやったら迷うのかまるで分からないが、講堂はここから真っ直ぐ戻ったら見える一番大きな部屋だ。人の出入りが多いから間違えることは無いだろう」
銀髪の男性はやむなくといった様子でそれだけ言い残すと、先にさっさと行ってしまった。
やけに尖った態度が気にかかるが、教えてくれたことは間違いない。
「ありがとう……ございます」
慌ててお礼を言うが、もちろんその背中は振り向かなかった。
セシリア・ジェニング 十六歳。
入学初日、初っ端から知らない人に嫌われているんですけど……?
それは、やわらかな風に花びらが舞い落ちる、ある春の日のことだった。
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