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01 ヒロインで聖女なのに嫌われ中
嫌われ聖女は発光する
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なんとか自室に戻った私は、小説『済世の聖女』の冒頭を思い出してベッドに突っ伏していた。
ちなみに、誰かと同室かもしれないとウキウキしていたが、聖女特権でひとり部屋が与えられていて変更もきかなかった。
寮でお友達大作戦も、失敗に終わる。
聖女だから、こうなのか。
クラスで遠巻きにされているのも、知らない人たちに邪険にされているのも、全部?
(私はただ、この世界でちゃんと生き直したいだけなのに。至って平凡に、普通の生活を)
枕に埋まりながら、私は色々なことを思い出そうと頭をフル稼働させていた。
バレリオ・プロテア。
この国の第一王子で、きらやかな銀髪が特徴。優しげな目元にはいつも笑みをたたえ、聖女セシリアに最も近かった人物――小説では。
実際には、迷子になった私を怪訝そうな顔で見ていた知らない人1号だ。風属性の魔法が得意だったように思う。
そして、生徒会室で睨みを聞かせていたあの眼鏡の人。
ルドルフォ・ガウリー、侯爵子息で生徒会長。確か、水属性の魔法が得意だったはず。
あとは、あの紫髪の少年がこの国の最年少最強魔道士のウル、そして赤髪の騎士がアクスルだったと思う。
(我ながら、よく覚えてるな……)
大好きなファンタジー小説だったから。
魔法もあり、恋愛模様もありで。そういえば、後で乙女ゲーム化して各ヒーローを選べるようになったのではなかっただろうか。
生憎、私は小説しか読んでいないけれど。
「うーーん。どうして最初から嫌われてるんだろう……」
ごろりと転がった私は、天井を見上げた。ランプの光が眩しくて右手で顔を覆う。
私の態度に驕りがあったのかもしれない。
あとは、簡単に受け入れてもらえると安易に考え過ぎていたのかもしれない。
身分差は大きなものだ。
いくら聖女とはいえ、私は平民出身で。この学園の大多数を占める貴族の子息たちにとっては、馴れ合いたくない存在なのかもしれない。
それでもどこか、違和感はある。
小説の中の聖女セシリアは、人から嫌われるような描写は一切なかった。むしろ、あらゆる方面から愛されて、だからこそ乙女ゲーム向きだったのだと思える。
みんなに愛されてチヤホヤされたいとまでは思わないけれど、嫌われたいとはもっと思わない。
(それなのにどうして――って、待って……!?)
気持ちが落ちかけたところで、私ははたと天命に気が付いた。
カッと目を見開くと、ランプの光が目に刺さるが、そんなものは私にはもう通用しない。
「そうだよ! どうして今までぼんやりしていたんだろう。そんなことよりも、大切な事があるよ……!?」
王子に疎まれようが、生徒会長に疑われようが、そんなことは些末な事だ。
大魔法使いも寡黙な騎士も、私のことは無視してくれていい。今この瞬間から。
特大に重要なことに気が付いた私は、がばりと身体も起こす。手が震え、心無しか身体が熱い。
「いや待って、本当に発光してるんだけど」
私の両手……どころか身体中が光を放ち、きらきらと輝いていた。
さすがは愛の聖女。私の深い愛に、聖女部分が反応してしまったのだろう。完全同意。
「この世界には、ヴァンス先生がいるじゃない……! わあーーっ、私ったら全然見てなかった。近くで話したのに!!」
そうだ。
担任のヴァンス先生こと、ヴァンス・ラーデラエリ。『済世の聖女』の登場人物であり、私の最強の推しであり――ラスボスだ。
普段は茶髪に青い瞳という変哲もない姿で過ごしているが、それは仮の姿。
本来の濡れ羽色の黒髪は色気がむんむんで、その前髪からのぞくルビーよりも鮮やかな赤い瞳は相手を捉えて離さない。
少し垂れ目がちで人好きのする雰囲気はあるのに、人との関わりは一定の線を保ってなかなか足を踏み入れることを許さない。
隠匿された王弟殿下である彼は、主人公たちを最後の最後まで苦しめる悪役でありながら、そのキャラクターに夢中になる人は多かった。
彼が死んでしまう最終回目前、ヴァンス先生が平和な世界で暮らすという二次創作が溢れていたのは私も知っているし読んでいる。
……あと、R18なやつもこっそり読んだのは誰にも内緒だ。
(普通にヴァンス×セシリアものもあれば、ヴァンス×バレリオなんてものも……あっ話が逸れてしまった)
その。私の最推しのヴァンス先生が。
同じ世界で同じ空気を吸っているのだ。これを尊いと言わずになんというのか。
「神さま、ありがとうございます……!」
この瞬間、私は初めて神さまに感謝した。
そして、決めたのだ。
「私のことを嫌いな人たちのことはほっといて、私は私で勝手にしよう……! 人生は有限だもの。好きなものに全力でいこう」
そうして、私こと聖女セシリアは、ヴァンス先生の幸せな世界線を実現するため(あと自分の私利私欲のため)に生きるという命題を手にした。
そのために、勉強も魔法も色んなことも、一層精一杯頑張る。推しは力なり。
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