その結末はお断りします! -嫌われ転生聖女が推しの悪役王弟殿下に溺愛されるまで-

ミズメ

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01 ヒロインで聖女なのに嫌われ中

廊下での光景

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 全然歓迎されていない生徒会室を出た私は、ふらふらと教室に戻った。荷物を全て置き忘れていたからだ。

 教室にはもう誰もおらず、一番後ろの窓際の席にはぽつんと鞄がひとつ残されていた。

「ん~~~、なんだかなあ……」

 席に座って、机にだらりと寝そべってみる。

 憧れの学園生活。まずは隣の席の子にどぎまぎと声をかけて、そこからじわりじわりと仲良くなって……と。
 私はそんなささやかなことを夢見ていた。

 だが実際には、隣の子はツーンとしていて、話しかける隙が無かった。
 そうこうしているうちに、呼び出しののち、あの有様だ。

「空はキレイデスネ……」

 この席からは外の景色がよく見える。

 夕方になり少し黄みを帯びてきた空に、白い鳥が一羽で飛んでいる。

 稀有な光魔法使い、聖女――

 それが私の立ち位置らしい。

 ……そのまましばらくぼんやりと空を眺めていたが、そろそろ寮に戻らなければならない時間だ。
 学園には併設された寮があり、そこにほとんどの生徒が入っているらしい。

 そこで私ははたと気が付いた。

 つまり、寮でもお友達チャンスがある……!?

 同室の子とお喋りして夜更かししたり、一緒に食事をしたり……そうだ、そんなまたとない機会がある。

「よしっ、またがんばるぞ!」

 急にやる気に満ちた私は、『人生満喫大作戦』の命題を達成するため、急いで教室を出ることにした。


□□□□


 意気込んで教室を出た私だったが、渡り廊下の傍らで壁に張り付く忍びと化していた。

「……が……で」
「……!」
「……だよ~」

 何を言っているのかまるで分からないが、目の前の中庭と思しき場所にいたのは、私の事を嫌っていると思われる人たちだ。
 入学式の時の銀髪の人――式典でこの国の王子である事が判明。名前は忘れた――に、生徒会室のボスのような眼鏡の人、紫髪の少年に、赤い筋肉の人……その人たちが、一堂に会している。

 そしてそこに、藍色の髪の女の子が加わっている。

 何事もなく素通りしてしまえば良かったのに、何故だか足がこの場に縫い付けられたように固まってしまった。

「……やはり、セシリアは現れたのですね」

 少女の声は、とても落ち込んだものだった。

「大丈夫だ、リディ。このとおり、私はあんなものには惑わされていないよ。本当にあの場所に現れたことには驚いたけれど」

 私に向けたものとはまるで違う、甘やかな声が銀髪王子から発せられる。

 まさかとは思うけど、「あんなもの」って私の事なのではなかろうか。

 私が衝撃を受けていると、生徒会長がその少女に歩み寄り、そっと彼女の頭に触れた。

「……確かにあの光魔法は貴重で、国として保護する必要はある。だが、それだけだ。リディアーヌが懸念するような事態には絶対にならないし、しない」

 冷酷眼鏡の人は、そうきっぱりと言いきった。

「そうだよ~! あの子がリディに意地悪したら、僕の魔法でえいやって火だるまにしちゃうから安心して」

 紫髪の少年の右手からは爛々とした炎が吹き出す。物騒すぎる。

「……我が剣も、君を守るために」

 今まで押し黙っていた赤髪の騎士らしき人物も、令嬢に忠誠を違うかのようにその場に跪いた。
 ただ、今は剣を持っていないらしく、エア剣だ。ちょっと癒される。

「みんな……ありがとう……!」

 さしずめ、眉目秀麗な美男子たちに取り囲まれている彼女は、小説ならばヒロインだろう。
 私はやけに敵視されているけれど。

「彼女が癒しの力をもっていようと、私にとっての聖女は君しかいないよ、リディ」
「バレリオ……」

 見つめ合う男女は、完全にふたりの世界である。

――あれ……?

 ふわり、と春風が彼らの元へ届く。

 桃色の花びらが風に舞い、彼らの髪を揺らす。
 男性陣は少女を中心に笑顔を浮かべていて、少女もそんな彼らを見上げて頬を染める。

 
 その様子を見て私は首を傾げた。

――なんだか、この光景を見た事がある。

 あれは何だっただろう。挿絵……?

 銀髪の王子、紺色髪の眼鏡男子、紫髪のショタ、赤髪の筋肉、それから黒髪の――

「ふっわっっっっっっ!!!」

 思わず大声を出してしまいそうになった私は、自分で自分の口を押さえた。

 そして彼らに気取られないうちに、急いでその場を立ち去る。
 よく知らないが、ここを通らなくても寮にはたどり着けるだろう。

 そんなことよりも、重大なことに気がついてしまったのだ。脳天には雷に打たれたかのような衝撃が走る。

「……うそ……ほんとに!?」

 廊下を駆けながら、私の心臓は痛いくらいに鼓動していた。


 ――この世界は、ただの異世界ではない。

 そのことに気がついたからだ。

 ここは、私が生前楽しんでいた『済世さいせいの聖女』というファンタジー小説の世界なのかもしれない。


 そしてその小説の"ヒロイン"はセシリア・ジェニング。

 タイトル通りの光魔法の使い手であり、国を救い、登場人物皆に愛される聖女。


――私のことのはずだけど、嫌われてますよね!?
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