3 / 21
01 ヒロインで聖女なのに嫌われ中
廊下での光景
しおりを挟む
全然歓迎されていない生徒会室を出た私は、ふらふらと教室に戻った。荷物を全て置き忘れていたからだ。
教室にはもう誰もおらず、一番後ろの窓際の席にはぽつんと鞄がひとつ残されていた。
「ん~~~、なんだかなあ……」
席に座って、机にだらりと寝そべってみる。
憧れの学園生活。まずは隣の席の子にどぎまぎと声をかけて、そこからじわりじわりと仲良くなって……と。
私はそんなささやかなことを夢見ていた。
だが実際には、隣の子はツーンとしていて、話しかける隙が無かった。
そうこうしているうちに、呼び出しののち、あの有様だ。
「空はキレイデスネ……」
この席からは外の景色がよく見える。
夕方になり少し黄みを帯びてきた空に、白い鳥が一羽で飛んでいる。
稀有な光魔法使い、聖女――
それが私の立ち位置らしい。
……そのまましばらくぼんやりと空を眺めていたが、そろそろ寮に戻らなければならない時間だ。
学園には併設された寮があり、そこにほとんどの生徒が入っているらしい。
そこで私ははたと気が付いた。
つまり、寮でもお友達チャンスがある……!?
同室の子とお喋りして夜更かししたり、一緒に食事をしたり……そうだ、そんなまたとない機会がある。
「よしっ、またがんばるぞ!」
急にやる気に満ちた私は、『人生満喫大作戦』の命題を達成するため、急いで教室を出ることにした。
□□□□
意気込んで教室を出た私だったが、渡り廊下の傍らで壁に張り付く忍びと化していた。
「……が……で」
「……!」
「……だよ~」
何を言っているのかまるで分からないが、目の前の中庭と思しき場所にいたのは、私の事を嫌っていると思われる人たちだ。
入学式の時の銀髪の人――式典でこの国の王子である事が判明。名前は忘れた――に、生徒会室のボスのような眼鏡の人、紫髪の少年に、赤い筋肉の人……その人たちが、一堂に会している。
そしてそこに、藍色の髪の女の子が加わっている。
何事もなく素通りしてしまえば良かったのに、何故だか足がこの場に縫い付けられたように固まってしまった。
「……やはり、セシリアは現れたのですね」
少女の声は、とても落ち込んだものだった。
「大丈夫だ、リディ。このとおり、私はあんなものには惑わされていないよ。本当にあの場所に現れたことには驚いたけれど」
私に向けたものとはまるで違う、甘やかな声が銀髪王子から発せられる。
まさかとは思うけど、「あんなもの」って私の事なのではなかろうか。
私が衝撃を受けていると、生徒会長がその少女に歩み寄り、そっと彼女の頭に触れた。
「……確かにあの光魔法は貴重で、国として保護する必要はある。だが、それだけだ。リディアーヌが懸念するような事態には絶対にならないし、しない」
冷酷眼鏡の人は、そうきっぱりと言いきった。
「そうだよ~! あの子がリディに意地悪したら、僕の魔法でえいやって火だるまにしちゃうから安心して」
紫髪の少年の右手からは爛々とした炎が吹き出す。物騒すぎる。
「……我が剣も、君を守るために」
今まで押し黙っていた赤髪の騎士らしき人物も、令嬢に忠誠を違うかのようにその場に跪いた。
ただ、今は剣を持っていないらしく、エア剣だ。ちょっと癒される。
「みんな……ありがとう……!」
さしずめ、眉目秀麗な美男子たちに取り囲まれている彼女は、小説ならばヒロインだろう。
私はやけに敵視されているけれど。
「彼女が癒しの力をもっていようと、私にとっての聖女は君しかいないよ、リディ」
「バレリオ……」
見つめ合う男女は、完全にふたりの世界である。
――あれ……?
ふわり、と春風が彼らの元へ届く。
桃色の花びらが風に舞い、彼らの髪を揺らす。
男性陣は少女を中心に笑顔を浮かべていて、少女もそんな彼らを見上げて頬を染める。
その様子を見て私は首を傾げた。
――なんだか、この光景を見た事がある。
あれは何だっただろう。挿絵……?
銀髪の王子、紺色髪の眼鏡男子、紫髪のショタ、赤髪の筋肉、それから黒髪の――
「ふっわっっっっっっ!!!」
思わず大声を出してしまいそうになった私は、自分で自分の口を押さえた。
そして彼らに気取られないうちに、急いでその場を立ち去る。
よく知らないが、ここを通らなくても寮にはたどり着けるだろう。
そんなことよりも、重大なことに気がついてしまったのだ。脳天には雷に打たれたかのような衝撃が走る。
「……うそ……ほんとに!?」
廊下を駆けながら、私の心臓は痛いくらいに鼓動していた。
――この世界は、ただの異世界ではない。
そのことに気がついたからだ。
ここは、私が生前楽しんでいた『済世の聖女』というファンタジー小説の世界なのかもしれない。
そしてその小説の"ヒロイン"はセシリア・ジェニング。
タイトル通りの光魔法の使い手であり、国を救い、登場人物皆に愛される聖女。
――私のことのはずだけど、嫌われてますよね!?
教室にはもう誰もおらず、一番後ろの窓際の席にはぽつんと鞄がひとつ残されていた。
「ん~~~、なんだかなあ……」
席に座って、机にだらりと寝そべってみる。
憧れの学園生活。まずは隣の席の子にどぎまぎと声をかけて、そこからじわりじわりと仲良くなって……と。
私はそんなささやかなことを夢見ていた。
だが実際には、隣の子はツーンとしていて、話しかける隙が無かった。
そうこうしているうちに、呼び出しののち、あの有様だ。
「空はキレイデスネ……」
この席からは外の景色がよく見える。
夕方になり少し黄みを帯びてきた空に、白い鳥が一羽で飛んでいる。
稀有な光魔法使い、聖女――
それが私の立ち位置らしい。
……そのまましばらくぼんやりと空を眺めていたが、そろそろ寮に戻らなければならない時間だ。
学園には併設された寮があり、そこにほとんどの生徒が入っているらしい。
そこで私ははたと気が付いた。
つまり、寮でもお友達チャンスがある……!?
同室の子とお喋りして夜更かししたり、一緒に食事をしたり……そうだ、そんなまたとない機会がある。
「よしっ、またがんばるぞ!」
急にやる気に満ちた私は、『人生満喫大作戦』の命題を達成するため、急いで教室を出ることにした。
□□□□
意気込んで教室を出た私だったが、渡り廊下の傍らで壁に張り付く忍びと化していた。
「……が……で」
「……!」
「……だよ~」
何を言っているのかまるで分からないが、目の前の中庭と思しき場所にいたのは、私の事を嫌っていると思われる人たちだ。
入学式の時の銀髪の人――式典でこの国の王子である事が判明。名前は忘れた――に、生徒会室のボスのような眼鏡の人、紫髪の少年に、赤い筋肉の人……その人たちが、一堂に会している。
そしてそこに、藍色の髪の女の子が加わっている。
何事もなく素通りしてしまえば良かったのに、何故だか足がこの場に縫い付けられたように固まってしまった。
「……やはり、セシリアは現れたのですね」
少女の声は、とても落ち込んだものだった。
「大丈夫だ、リディ。このとおり、私はあんなものには惑わされていないよ。本当にあの場所に現れたことには驚いたけれど」
私に向けたものとはまるで違う、甘やかな声が銀髪王子から発せられる。
まさかとは思うけど、「あんなもの」って私の事なのではなかろうか。
私が衝撃を受けていると、生徒会長がその少女に歩み寄り、そっと彼女の頭に触れた。
「……確かにあの光魔法は貴重で、国として保護する必要はある。だが、それだけだ。リディアーヌが懸念するような事態には絶対にならないし、しない」
冷酷眼鏡の人は、そうきっぱりと言いきった。
「そうだよ~! あの子がリディに意地悪したら、僕の魔法でえいやって火だるまにしちゃうから安心して」
紫髪の少年の右手からは爛々とした炎が吹き出す。物騒すぎる。
「……我が剣も、君を守るために」
今まで押し黙っていた赤髪の騎士らしき人物も、令嬢に忠誠を違うかのようにその場に跪いた。
ただ、今は剣を持っていないらしく、エア剣だ。ちょっと癒される。
「みんな……ありがとう……!」
さしずめ、眉目秀麗な美男子たちに取り囲まれている彼女は、小説ならばヒロインだろう。
私はやけに敵視されているけれど。
「彼女が癒しの力をもっていようと、私にとっての聖女は君しかいないよ、リディ」
「バレリオ……」
見つめ合う男女は、完全にふたりの世界である。
――あれ……?
ふわり、と春風が彼らの元へ届く。
桃色の花びらが風に舞い、彼らの髪を揺らす。
男性陣は少女を中心に笑顔を浮かべていて、少女もそんな彼らを見上げて頬を染める。
その様子を見て私は首を傾げた。
――なんだか、この光景を見た事がある。
あれは何だっただろう。挿絵……?
銀髪の王子、紺色髪の眼鏡男子、紫髪のショタ、赤髪の筋肉、それから黒髪の――
「ふっわっっっっっっ!!!」
思わず大声を出してしまいそうになった私は、自分で自分の口を押さえた。
そして彼らに気取られないうちに、急いでその場を立ち去る。
よく知らないが、ここを通らなくても寮にはたどり着けるだろう。
そんなことよりも、重大なことに気がついてしまったのだ。脳天には雷に打たれたかのような衝撃が走る。
「……うそ……ほんとに!?」
廊下を駆けながら、私の心臓は痛いくらいに鼓動していた。
――この世界は、ただの異世界ではない。
そのことに気がついたからだ。
ここは、私が生前楽しんでいた『済世の聖女』というファンタジー小説の世界なのかもしれない。
そしてその小説の"ヒロイン"はセシリア・ジェニング。
タイトル通りの光魔法の使い手であり、国を救い、登場人物皆に愛される聖女。
――私のことのはずだけど、嫌われてますよね!?
11
お気に入りに追加
1,129
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。
完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
カクヨム、なろうにも投稿しています。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる