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そうだ、ルーカスは『危険を感じたら元に戻る』と言っていた。
そして恐らくアリスは、この猫の姿がフェリシアが化けたものだと気付いたのだ。だから、先程ああして攻撃の真似をした。
「あの猫は、フェリシアだったのか」
《フェリシアだ。本物のフェリシアだ。はあ、かわいいし柔らかい。最高だな。いや待て、フェリシアがここにいるということは、この心の声が全部筒抜けなのか……!?》
アーサーのふたつめの声が先ほどまでよりもずっと騒がしい。
「は、はい、申し訳ありません。殿下」
そんなことよりも、フェリシアは自分がしでかしたことが急に怖くなった。
猫になって殿下の執務室に忍び込むだなんて、とても無礼な行為だ。それに、国家に仇なす諜報行為だと断じられても仕方がない。
《久しぶりのフェリシアがかわいすぎて致死量だ。猫の姿もかわいいが、やはり本物のフェリシアのほうが良い香りがする》
「大丈夫だ、フェリシア。きっとルーカスに唆されたのだろう。わかっている」
ついに二つの声の大きさが逆転した。
先程のアーサーの言葉を借りれば、フェリシアの香りが云々……と聞こえる方はもしかしてアーサーの心の声だというのだろうか。
顔が熱い。フェリシアか沸騰しそうなくらい羞恥で赤くなる。本人的にはそんな気持ちだったのだけれど、もちろん顔には出ていない。
《フェリシアは照れると項が赤く色付くんだよな。そこがかわいいし食べてしまいたい。はっ、ダメだ、これはフェリシアに聞かれてしまう――》
後ろからそんなアーサーの声が聞こえたフェリシアは、慌ててうなじを押さえる。知らなかった、そんなこと……!
色々とキャパオーバーになったフェリシアは、そのままキュウと気を失ってしまった。
*
その後、フェリシアは王宮にて医師の診察を受けた。
アーサーの心の声に驚いたのもあるが、ルーカスの魔法により姿を変幻させていたことや、執務室でアーサーの重い魔法を身に受けたこと、連日の心労のせいだろうとのことだった。
目が覚めると、青ざめた顔のアーサーがフェリシアのベッドのそばで憔悴した顔をしていた。
「フェリシア! よかった、君が無事で……」
アーサーは急いでフェリシアの手を取ろうとして、ハッと気が付いた顔をして引っ込める。
(やはり、そういうことなのですね)
フェリシアも気が付いていた。きっとあの心の声は、アーサーと身体が触れた時に聞こえるものだ。
フェリシアが身体を起こそうとすると、躊躇していたアーサーの手のひらが背中に触れた。
フェリシアを支えながら、空いている手でクッションを背とベッドボードの間に差し入れてくれる。
《フェリシアの背中……っ、なんて華奢なんだ》という声も、しっかりフェリシアに届いた。
気を取り直したフェリシアは、一度こほりと咳払いをする。
「アーサー殿下。わたくしは大丈夫ですから」
「……フェリシア。私のせいで心労をかけてしまってすまない。君を困らせないように、早く解決したかったのだが」
アーサーは項垂れるように頭を下げた。
それを見たフェリシアは、ベッドの上でふるふると首を振る。
彼の本音は、猫の姿の時にたくさん聞いた。
あの貴族のような考え方をする派閥は他にもいるだろう。もしかしたら、アーサーはこれまでもフェリシアの身に降りかかる火の粉を払ってくれていたのではないだろうか。
「実は……アリスがいる魔塔と共同で自白魔法の研究をしていたら、あまりにも複雑な術式だったためか魔力が暴走してしまったんだ。それから、私は触れたものに心の声が筒抜けになってしまうようになった」
「まあ……それでルーカスはどこか訳知り顔でしたのね」
アーサーのその説明を聞いて、フェリシアはようやく合点がいった。
あのルーカスは、全てを知った上で、フェリシアに協力してくれていたのだ。
「でも、初めからそう教えていただければよろしかったのに……?」
フェリシアはおずおずとアーサーを見た。
そして恐らくアリスは、この猫の姿がフェリシアが化けたものだと気付いたのだ。だから、先程ああして攻撃の真似をした。
「あの猫は、フェリシアだったのか」
《フェリシアだ。本物のフェリシアだ。はあ、かわいいし柔らかい。最高だな。いや待て、フェリシアがここにいるということは、この心の声が全部筒抜けなのか……!?》
アーサーのふたつめの声が先ほどまでよりもずっと騒がしい。
「は、はい、申し訳ありません。殿下」
そんなことよりも、フェリシアは自分がしでかしたことが急に怖くなった。
猫になって殿下の執務室に忍び込むだなんて、とても無礼な行為だ。それに、国家に仇なす諜報行為だと断じられても仕方がない。
《久しぶりのフェリシアがかわいすぎて致死量だ。猫の姿もかわいいが、やはり本物のフェリシアのほうが良い香りがする》
「大丈夫だ、フェリシア。きっとルーカスに唆されたのだろう。わかっている」
ついに二つの声の大きさが逆転した。
先程のアーサーの言葉を借りれば、フェリシアの香りが云々……と聞こえる方はもしかしてアーサーの心の声だというのだろうか。
顔が熱い。フェリシアか沸騰しそうなくらい羞恥で赤くなる。本人的にはそんな気持ちだったのだけれど、もちろん顔には出ていない。
《フェリシアは照れると項が赤く色付くんだよな。そこがかわいいし食べてしまいたい。はっ、ダメだ、これはフェリシアに聞かれてしまう――》
後ろからそんなアーサーの声が聞こえたフェリシアは、慌ててうなじを押さえる。知らなかった、そんなこと……!
色々とキャパオーバーになったフェリシアは、そのままキュウと気を失ってしまった。
*
その後、フェリシアは王宮にて医師の診察を受けた。
アーサーの心の声に驚いたのもあるが、ルーカスの魔法により姿を変幻させていたことや、執務室でアーサーの重い魔法を身に受けたこと、連日の心労のせいだろうとのことだった。
目が覚めると、青ざめた顔のアーサーがフェリシアのベッドのそばで憔悴した顔をしていた。
「フェリシア! よかった、君が無事で……」
アーサーは急いでフェリシアの手を取ろうとして、ハッと気が付いた顔をして引っ込める。
(やはり、そういうことなのですね)
フェリシアも気が付いていた。きっとあの心の声は、アーサーと身体が触れた時に聞こえるものだ。
フェリシアが身体を起こそうとすると、躊躇していたアーサーの手のひらが背中に触れた。
フェリシアを支えながら、空いている手でクッションを背とベッドボードの間に差し入れてくれる。
《フェリシアの背中……っ、なんて華奢なんだ》という声も、しっかりフェリシアに届いた。
気を取り直したフェリシアは、一度こほりと咳払いをする。
「アーサー殿下。わたくしは大丈夫ですから」
「……フェリシア。私のせいで心労をかけてしまってすまない。君を困らせないように、早く解決したかったのだが」
アーサーは項垂れるように頭を下げた。
それを見たフェリシアは、ベッドの上でふるふると首を振る。
彼の本音は、猫の姿の時にたくさん聞いた。
あの貴族のような考え方をする派閥は他にもいるだろう。もしかしたら、アーサーはこれまでもフェリシアの身に降りかかる火の粉を払ってくれていたのではないだろうか。
「実は……アリスがいる魔塔と共同で自白魔法の研究をしていたら、あまりにも複雑な術式だったためか魔力が暴走してしまったんだ。それから、私は触れたものに心の声が筒抜けになってしまうようになった」
「まあ……それでルーカスはどこか訳知り顔でしたのね」
アーサーのその説明を聞いて、フェリシアはようやく合点がいった。
あのルーカスは、全てを知った上で、フェリシアに協力してくれていたのだ。
「でも、初めからそう教えていただければよろしかったのに……?」
フェリシアはおずおずとアーサーを見た。
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