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距離を置くとは①
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「ルーカスぅ?」
猫のフェリシアから目を離したアリスが、悪戯っぽい笑みを浮かべて後ろにいるルーカスを見た。
ルーカスは頭を抱えてしまっている。
フェリシアといえば、全てを見透かすようなアリスの笑みにドキドキが止まらない。
「殿下。もうめっちゃ時間かかりそうだし、一回フェリシアとちゃんと話してみたらどう? あの子なら絶対に大丈夫だから」
「しかし……! フェリシアには、本当の私を知って嫌われたくない」
アーサーはその端正な顔を歪ませる。こんな表情をすることがあるのかと、フェリシアは初めて知った。
いつも涼やかに微笑む顔しか見たことがない。
《嫌われたくない》と、もうひとつのアーサーの声も聞こえた。切実な二つの声が、重なって聞こえる。
アリスはこれみよがしにため息をつく。
「はあ……。とりあえず、ちょっと殿下はそこの長椅子に座って。その子も一緒でいいから」
「なんのつもりだ?」
「いいからいいから~!」
有無を言わせないようなアリスの声に、アーサーは訝しげな顔をしている。だけれど、彼女もこのままでは引かないと思ったのか、渋々腰を下ろした。
そしてフェリシアはアーサーの膝の上にそっと置かれる。
「座ったぞ」
《アリスはいつも突拍子がないからな》
アーサーが腰を下ろしたのを確認したアリスは、それを見て満足そうな笑みを浮かべる。
――刹那。彼女が右手を振り上げ、短く何かを唱える。するとそこには光の球が生まれ、その光球は真っ直ぐにフェリシアへと振り上げられた。
「姉さん、何を……!」
「アリス……っ!」
ルーカスとアーサーの慌てた声がする。
フェリシアはその眩しさに目を開けていられず、ギュッとその双眸を閉じた。
「なんてことだ……」
《一体、何が起きている……?》
アーサーの声が聞こえる。
フェリシアはその声に導かれるように、ゆっくりと瞳を開けた。
痛くはない。こちらを心配そうに覗き込んでいるアーサーの顔も、アリスの不遜な顔も、ルーカスが額に手を当てて困惑している顔も全てが見える。
先程までと違うのは、視界の高さだろうか。
(あら、そういえばわたくし随分とアーサー殿下と顔が近いような……)
そう思って再度アーサーの方を見る。紫水晶のような瞳は目をまん丸にしながらも真っ直ぐにフェリシアを見ていた。とても近い。
あたりを見渡したフェリシアは、自身が猫から元の姿に戻っていることに気が付いた。
猫のフェリシアから目を離したアリスが、悪戯っぽい笑みを浮かべて後ろにいるルーカスを見た。
ルーカスは頭を抱えてしまっている。
フェリシアといえば、全てを見透かすようなアリスの笑みにドキドキが止まらない。
「殿下。もうめっちゃ時間かかりそうだし、一回フェリシアとちゃんと話してみたらどう? あの子なら絶対に大丈夫だから」
「しかし……! フェリシアには、本当の私を知って嫌われたくない」
アーサーはその端正な顔を歪ませる。こんな表情をすることがあるのかと、フェリシアは初めて知った。
いつも涼やかに微笑む顔しか見たことがない。
《嫌われたくない》と、もうひとつのアーサーの声も聞こえた。切実な二つの声が、重なって聞こえる。
アリスはこれみよがしにため息をつく。
「はあ……。とりあえず、ちょっと殿下はそこの長椅子に座って。その子も一緒でいいから」
「なんのつもりだ?」
「いいからいいから~!」
有無を言わせないようなアリスの声に、アーサーは訝しげな顔をしている。だけれど、彼女もこのままでは引かないと思ったのか、渋々腰を下ろした。
そしてフェリシアはアーサーの膝の上にそっと置かれる。
「座ったぞ」
《アリスはいつも突拍子がないからな》
アーサーが腰を下ろしたのを確認したアリスは、それを見て満足そうな笑みを浮かべる。
――刹那。彼女が右手を振り上げ、短く何かを唱える。するとそこには光の球が生まれ、その光球は真っ直ぐにフェリシアへと振り上げられた。
「姉さん、何を……!」
「アリス……っ!」
ルーカスとアーサーの慌てた声がする。
フェリシアはその眩しさに目を開けていられず、ギュッとその双眸を閉じた。
「なんてことだ……」
《一体、何が起きている……?》
アーサーの声が聞こえる。
フェリシアはその声に導かれるように、ゆっくりと瞳を開けた。
痛くはない。こちらを心配そうに覗き込んでいるアーサーの顔も、アリスの不遜な顔も、ルーカスが額に手を当てて困惑している顔も全てが見える。
先程までと違うのは、視界の高さだろうか。
(あら、そういえばわたくし随分とアーサー殿下と顔が近いような……)
そう思って再度アーサーの方を見る。紫水晶のような瞳は目をまん丸にしながらも真っ直ぐにフェリシアを見ていた。とても近い。
あたりを見渡したフェリシアは、自身が猫から元の姿に戻っていることに気が付いた。
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