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不可解な禁止事項①
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フードプロセッサーとやらを前に、ロックが意気揚々と説明してくれる。
この便利な器具があれば、深窓の令嬢の手を煩わせずに作業が出来ることに気がついて、先程よりずっと気が楽になったロックである。
「ここの部分に、必要な全ての材料を入れて、スイッチを押して適度に攪拌させれば生地ができます」
「まあ……とてもすごいのですね!」
フェリシアは感嘆の声を上げる。
なんて便利なのだろう。見た目には魔道具だと分からないこの品が、精巧な仕組みになっているだなんて、素晴らしいことだ。
早速また卵を手にとろうとする。
「アッ! 卵はもう十分ですので。フェリシア様はそちらの砂糖を入れてくれますか」
「そうだったわね、ごめんなさい」
フェリシアはまた卵に触れようとしたところでロックから再び進言されて、手を引っ込めた。
卵ばかり使うわけではないらしい。
それからフェリシアは、ロックの指示に従って粉まみれになりながら奮闘した。
小麦粉をこぼしてしまったのである。
「……まあ、すごいわ……!」
誰でも扱うことが出来る、と言われているその器具は、確かにとても便利なものだった。
卵と砂糖と柔らかなチーズ、それから濃厚な牛の乳。それらをロックの指示どおりに全て容器にいれ、おそるおそるスイッチを押すと、はじめは別々だった具材がひとつになってゆく。
(料理って、なんだか面白いのね……!)
はじめてのことに感動しきりのフェリシアは、その様子を目を輝かせて見つめる。
完成した生地は、ロックと共にひとまとめにする。あまりにもベタベタと手にくっつくものだから驚いてしまった。
それからヨレヨレになったウサギやクマのクッキーが竈門で焼かれてゆく。
「フェリシア様。焼き上がりましたよ」
「わあ……! まあ、なんだかわたくしの方は歪だわ。ロックは流石の手腕ね」
焼き上がったバタークッキーは、しゅわしゅわと音を立てている。形が不揃いなせいで焦げてしまっている部分もあるが、バターの甘い香りが鼻腔を通り抜けていって、とても心地がいい。
「き、気に入りませんでしたかね……」
フェリシアとしては、大変感動して喜んでいるのだけれど、どうやらロックには伝わらないようだ。
いつも通りの無表情がよくない仕事をしている。
「……いえ。とても楽しかったです」
その事に悲しくはなるけれど、ここでへこたれてはいけない。フェリシアはなんとかその嬉しい気持ちを伝えようと、ロックにずいと近づく。
これまでは、こうして伝える努力を怠っていたように思う。顔には出ないのだから、その分ちゃんと言葉にして伝えないといけない。
「あ、え、え、フェリシアお嬢様……?」
「ロックさん。お忙しい時間を割いていただき本当にありがとうございます。わたくし、いつもあなた方が提供してくださるお料理にもっともっと感謝いたします……!」
「そ、それはありがとうございます」
この便利な器具があれば、深窓の令嬢の手を煩わせずに作業が出来ることに気がついて、先程よりずっと気が楽になったロックである。
「ここの部分に、必要な全ての材料を入れて、スイッチを押して適度に攪拌させれば生地ができます」
「まあ……とてもすごいのですね!」
フェリシアは感嘆の声を上げる。
なんて便利なのだろう。見た目には魔道具だと分からないこの品が、精巧な仕組みになっているだなんて、素晴らしいことだ。
早速また卵を手にとろうとする。
「アッ! 卵はもう十分ですので。フェリシア様はそちらの砂糖を入れてくれますか」
「そうだったわね、ごめんなさい」
フェリシアはまた卵に触れようとしたところでロックから再び進言されて、手を引っ込めた。
卵ばかり使うわけではないらしい。
それからフェリシアは、ロックの指示に従って粉まみれになりながら奮闘した。
小麦粉をこぼしてしまったのである。
「……まあ、すごいわ……!」
誰でも扱うことが出来る、と言われているその器具は、確かにとても便利なものだった。
卵と砂糖と柔らかなチーズ、それから濃厚な牛の乳。それらをロックの指示どおりに全て容器にいれ、おそるおそるスイッチを押すと、はじめは別々だった具材がひとつになってゆく。
(料理って、なんだか面白いのね……!)
はじめてのことに感動しきりのフェリシアは、その様子を目を輝かせて見つめる。
完成した生地は、ロックと共にひとまとめにする。あまりにもベタベタと手にくっつくものだから驚いてしまった。
それからヨレヨレになったウサギやクマのクッキーが竈門で焼かれてゆく。
「フェリシア様。焼き上がりましたよ」
「わあ……! まあ、なんだかわたくしの方は歪だわ。ロックは流石の手腕ね」
焼き上がったバタークッキーは、しゅわしゅわと音を立てている。形が不揃いなせいで焦げてしまっている部分もあるが、バターの甘い香りが鼻腔を通り抜けていって、とても心地がいい。
「き、気に入りませんでしたかね……」
フェリシアとしては、大変感動して喜んでいるのだけれど、どうやらロックには伝わらないようだ。
いつも通りの無表情がよくない仕事をしている。
「……いえ。とても楽しかったです」
その事に悲しくはなるけれど、ここでへこたれてはいけない。フェリシアはなんとかその嬉しい気持ちを伝えようと、ロックにずいと近づく。
これまでは、こうして伝える努力を怠っていたように思う。顔には出ないのだから、その分ちゃんと言葉にして伝えないといけない。
「あ、え、え、フェリシアお嬢様……?」
「ロックさん。お忙しい時間を割いていただき本当にありがとうございます。わたくし、いつもあなた方が提供してくださるお料理にもっともっと感謝いたします……!」
「そ、それはありがとうございます」
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