モブなのに巻き込まれています ~王子の胃袋を掴んだらしい~

ミズメ

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番外編置き場

寒い日には【コミックス2巻発売記念SS】

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前回感極まったあとがきでしめましたが、また番外編を追加します!

ミラレオの距離感は学園編開始前あたり、とても寒い冬の日です(今日さむいですね)


□□□□□□□□



「ミラ……これはなんだ?」

 ある冬の日。いつもどおりに食堂を訪ねてきたレオは、その物体を指さしながら不思議そうな顔をした。

 そんな彼の頬や鼻の頭もほのかに赤く色付いていて、外気の冷たさが伝わってくる。

 今日は朝からシンシンと冷え込んでいて、さらには風もとても強い。
 今夜は雪でも降るのではないかという話を、ちょうどリタさんともしていたところだ。

「あっ、それはねえ~、ふふ、後で持っていくからお楽しみに!」

 私はほくほくとした顔で彼らにそう答えた。
 レオの後ろにはセイさんがいて、彼もまた、怪訝な顔をしていたからだ。

 二人が通ってきた食堂の裏口には、大きな木箱がふたつ鎮座している。
 そしてその箱に刻まれているのは、「ダムマイアー商会」の文字と、見知らぬ異国の言語だ。

「この言語は……東国のもののような気がする。複雑な言語で、解読が……」
「うーん。さすがレオ様ですね。私は初めて目にします」

 見るからに怪しい箱に、レオとセイさんの視線は奪われている。

「ほら、セイ! さっさとレオ様を上に連れて行って。レオ様も、せっかくのお忍びが騒ぎになっちゃいますよ~? 特別な品、食べられなくてもいいんですかぁ~?」

 調理場から二人に間延びした声を飛ばすのはイザルさんだ。もうすっかり焼き場が板についていて、話しながらもひょいひょいとお好み焼きをひっくり返している。

「む。それもそうだな。ではミラ、先に行って待っている」
「うん! 頑張って作るから待ってて」
「っ、ああ」
「……レオ様は、いつまでもピュアですね。かわいらしいです」
「セイ、聞こえているぞ」
「おや。すいません、つい」

 なにやら不穏な空気になりながら話している主従コンビは、そのまま二階の部屋へと向かってゆく。

 あの仲良しな二人が、スピカが言うところの乙女ゲームのシナリオでは全く雰囲気が違うというのだから、未だに信じられない。

(よし、まずは……)

 私は例の木箱からガサガサととある物を取り出した。
 割れないように厳重に包まれた紙から出てきたのは、ふっくらとした温かみのある土造りの厚めの鍋。それに、揃いの蓋が付いている。

 まさしく土鍋である。それも、ひとり用の小さな小鍋。

 この前訪ねた公爵領の朝市で見つけたこの土鍋に一目惚れしてしまい、戻ってくるなりイザルさんやメラクくんに相談した。
 すると、商会長のオットーさんまで巻き込んでの商談がすぐに行われ、シュテンメル王国のずっと東にある国の特産品である土鍋がこうして手に入ったのだ。

(ふふ、この土鍋を初めて見た時から、何を作るかは決めてたんだよね)

 ――びっくりしてくれるかな?

 私はレオたちが喜ぶ姿を想像しながら、ほこほこと湯気が上がる土鍋に、そっと蓋をした。

◇◇◇

「お客様、お待たせしました~~!」

 レオとセイさんが待つ部屋に、陽気に飛び込んで行ったのはイザルさんだ。
 熱々の土鍋を運ぼうとしていたら、手伝いを申し出てくれた。土鍋は重いので、とても助かる。
「じゃー俺もセイの横! ほらほら詰めて詰めて~。ミラちゃんの分はここに置いておくね」
「ありがとうございます」

 流れるように鍋を置き終えたイザルさんは、自然な流れでセイさんの隣へと座る。
 私もいつものように、レオの横に腰かけた。

「これは……?」

 目の前に置かれた土鍋に、レオは目を瞬かせる。

「これがあの木箱に入っていたものなの。土鍋っていうんだけど」
「ドナベ……」
「今は熱々だから、素手で触ったら危ないから気を付けてね。えっと、この鍋つかみで――」

 私はレオの前にある土鍋の蓋に手をかける。
 そのまま持ち上げると、溜まっていた湯気がおいしい香りと一緒に溢れ出た。

「わ……、すごい湯気ですね」
「熱そーー! うまそーー!」

 驚いているセイさんとイザルさんの顔が湯気の向こう側だ。もし私が眼鏡をかけていたら、視界不良になっていたことだろう。

「ミラ……これは、うどん……?」
「そう。鍋焼きうどんっていうの。この土鍋を見た時から、どうしても作りたくて!」
「ナベヤキ。とても美味しそうだ」
「ええ、これはまた、魅力的な見た目です」

 レオとセイさんが鍋を覗き込むように観察して、ぱちぱちと瞬きを繰り返している。
 お出汁の香りと、ふくふくのうどん麺。天ぷらは半分はつゆを吸ってぷわぷわで、そこに香草の緑が映える。
 キノコや彩りの人参も載せて、仕上げに真ん中に落とした卵は、白く色づいてちょうど半熟の頃合いだ。

(うん、とっても美味しそう。よかった~)

 我ながら会心の出来栄えだ。昨日何度か試作した甲斐があったと嬉しくなる。

 ……となると、気になるのは味の感想だ。

 私は三人の反応をじっと待つ。

 中央の卵を割って黄身を蕩けさせたり、海老天から頬張ったり、先にスープを飲んだりとその食べ方は様々だ。

 固唾を飲んで見守る私を尻目に、三人は無言のまま二口三口と食べ進める。

 一様にうどんをちゅるりと啜ったあと、

「ミラ、とても美味しい!」
「ミラ様、すごく美味しいです」
「ミラちゃん天才じゃん!?」

 三人は揃えたように笑顔を見せた。

「良かったです。最近寒いので、温まるものをと思って」
 
 レオたちの笑顔に、私はほっと胸を撫で下ろす。
 そして、自分でも鍋焼きうどんを啜ってみて、美味しく出来ている事に安堵した。

 味見や試作をしていても、人に食べてもらうとなると、毎回ドキドキしてしまう。それでも、美味しいものを食べて綻んだ顔を見るのがたまらなく好きだ。

 それから、はふはふとみんなで仲良く鍋焼きうどんを食べ、最後には昨日仕込んでいた土鍋プリンもデザートに出したら瞬殺だった。






「ミラ、いつもありがとう。とても美味しかったし、温まった。まだぽかぽかしている」

「そう言ってもらえて嬉しいなあ。ふふ、相変わらずあの二人はレオにも手厳しいんだね」

 帰り際、レオからそう声をかけられて、わたしもつられて笑顔になる。

 三人で争うように土鍋プリンを食べていた姿を思い返して、私はまた笑ってしまう。レオは王子様だというのに、あの二人は全く遠慮がない。

(そういえば、食べ物が絡む点に関してはスピカも同じだなぁ。ふふ、みんな食いしん坊なんだから)

「ミラも春からは学園に通うのだろう?」
「うん、そのつもりだよ。そうしたら、一緒だね。楽しみだなぁ~」
「あ、ああ……! 楽しみだな」

 年が明けて春が来たら、私もスピカやレオたちと同じ学園に通う予定だ。

(まあ、私はみんなとは違って普通クラスなんだけど)

 私はほぼ貴族で構成されるクラスには行かず、通常のクラスを選択した。のんびりまったりしようと思ってのことだ。

 ――この時にその事をちゃんと説明しなかったことで、後々レオを大いにがっかりさせてしまうことになるだなんて、勿論私が知るはずもない。(スピカにも怒られる羽目になった)

「じゃあ……ミラ、また会おう」
「レオ、お仕事頑張りすぎて風邪ひかないようにね!」
「うん、ありがとう」


 寒風が吹き荒れる中でも、心と体はぽかぽかに満たされた私たちは、また会うことを約束して手を振ったのだった。



□□□□□□□□
お読みいただきありがとうございます。

学園編に入るすこーし手前のお話です!

本日『モブ巻き』コミックス2巻が発売されました!2巻も最高に美味しそうでかわいいのでぜひぜひ見てくださいね♥
いつも応援ありがとうございます。いただいた感想を定期的に読み返し、染みています…!!!

寒い日が続きますが、皆様お元気でお過ごしください。私は元気です!

あっ、来月上旬に書籍2巻が文庫化されます。
書き下ろし番外編もつきでお値段も半額、とってもお得ですのでぜひ(宣伝)

2022.12.23   ミズメ



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