突然、お隣さんと暮らすことになりました~実は推しの配信者だったなんて!?~

ミズメ

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第四章 おおきな一歩

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「あ、ちょっと待って、俺学校で使うもの買わなきゃだったからちょっと行ってきていい?  また連絡するね~」
「あ、おい!」
 ゲームコーナーの前についた時、紫音くんはそう言ってヒラヒラと手を振っていなくなってしまった。
 紫音くんが去った方向を蒼太くんと呆然と眺める。
 さっきまで全然そんな素振りなかったのに……!
 わたし一人で蒼太くんの役に立つんだろうか。
 ちらりと蒼太くんを盗み見ると、蒼太くんもこっちを見ていた。
「……じゃあ、見るか。パソコン向けゲームもいいんだけど、もっと一般向けのゲームカードもやってみようって話になってて」
「う、うん。わたしはパソコンではゲームしないから、ゲームカードの方がいいな」
「なるほど。じゃあこのコーナーで、ひなが気になるやつがあったら二つくらい教えて」
「わかった……!」
 それならわたしでもなんとかなりそう。
 わたしは気合いを入れて、ゲームが置いてある棚をじっくり眺める。
 とはいえ、めぼしいゲームは蒼太くんはほとんどやっているような気もするなぁ。
「あ、見て、蒼太くん。この前のゾンビのやつ、新しいのが夏に出るみたい!」
「うえ……ゾンビは本当に無理」
「ふふ、でもみんな楽しんでたよ。アオくんの応援いっぱいしてたもん」
 この前のアオくんのゾンビゲーム挑戦回は、未だに再生数も伸びている。
 他のゲームでは淡々と解説をしながら進めるアオくんの初めての苦手分野だと知って、逆に話題になっているらしい。
「蒼太くんって、こういう音ゲーはやったりするの?」
「太鼓はないかも。音ゲーだったら紫音がとんでもなく上手いからな」
「意外だね……?」
 ひとつひとつのゲームについて蒼太くんと話しながら選んでゆく。
 朝の緊張も少しほぐれて、わたしもスラスラと話せるようになってきた。
「――めぼしいのはこれくらいかな」
「うん、そうだね」
 ざっとお店を見て回って、今までやっていなくて楽しそうなものを二つくらい見繕うことが出来た。
 ほとんど蒼太くんの話を聞きながらだったので実際に役に立てたかはわからないけど……でも、楽しかった。
「……兄ちゃん遅いな。ひなは他に見たいところあったりする?」
「う、ううん、わたしは特に……」
「さっき来る時、あの店をじっと見てたよな? 兄ちゃんがいないからまだ買えないし、戻ってくるまで俺たちも自由にしよう。ほら行こう」
「えっ、あ、うん……!」
 入口からこのゲームコーナーに来るまでの間に、たしかにわたし好みの雑貨屋さんがあって、わたしはついつい目を奪われていた。
 ピンクとラベンダー色を基調とした、フワフワのぬいぐるみやアクセサリーがたくさんのファンシーなお店だ。
「……えっと」
 お店の前まで来たけど、明らかに蒼太くんの雰囲気ではない。それにわたしも。
 不安になってやっぱりやめようかと思ったけど、先にお店に入っていったのは蒼太くんだった。
「あれ、入んないの? ひなはこういうの、昔から好きじゃん」
 かわいいものに囲まれた蒼太くんが、何事もないようにそう言ってくれる。
 昔っていつのことだろう。
 保育園のころかな、一年生のころかな。
 当たり前のようにわたしの好きな物を知っていてくれて、否定をしないでくれる。
 そのことに胸がいっぱいになる。
「ほらこのクラゲみたいなやつ。ひなが昔カバンにぶら下げてたのに似てる」
「ほんとだ、かわいい……!」
 蒼太くんが手に取ったクラゲのキーホルダーは、確かにうんと小さい頃にお気に入りだった記憶がある。
 大切にしていたのに、どこかでチェーンがちぎれてしまって無くしたんだった。
 あの時は大泣きしたなあ。
 懐かしい思い出を、蒼太くんもちゃんと覚えていてくれる。
 それがたまらなく嬉しくなって、わたしはそのキーホルダーを大切に握りしめる。
「ひな、ちょっとそれ貸して」
「え? うん」
 言われるがままにクラゲのキーホルダーを手渡すと、蒼太くんはさっと店の奥の方へと消えていってしまった。
 そして。
「はい、これ」
 ピンク色の包み紙に包まれたものを蒼太くんに渡される。
 流石のわたしでも、これはさっきのキーホルダーだって分かる。
「えっ、蒼太くん、これ……」
「今日付き合ってくれたお礼。受け取ってくれないなら、明日から俺のランドセルにつけることになるけど」
「ふふ、なにそれ。見てみたいけど……えっと、ありがとう」
 わたしはその包み紙を両手でしっかりと持って、蒼太くんに笑顔を向けた。
 ちょっとぶっきらぼうだけど、優しい蒼太くん。
 わたしも蒼太くんも、変わったり変わらないところもあったりしながら、時を重ねていくんだなあ。
 他でもない蒼太くんだから、きっとこんな気持ちになるんだろうな。
 嬉しくて楽しくて、ドキドキするような大切な気持ちが、確かにわたしの中にある。
 そしてこの気持ちが、蒼太くんの中にもあったらと欲張りなことも思う。
「……あれ?」
 ふと遠くを見た時、そこに見覚えのある赤っぽい服が見えた気がした。
 ほんの一瞬だったけど、あのガタイの良さは、なかなか見間違えないような……
「どうかした?」
 蒼太くんが首を傾げて不思議そうにしている。
「ううん、さっきあっちにカネちさんがいた気がしたんだけど……そんなわけないよね、まさか」
 へへ、と笑いながらいうと、蒼太くんはその目を鋭く細めた。
「ちょっと待ってて。兄ちゃんの動きも変だし、見てくる。どっち」
「あっちの服屋さんのとこ」
「わかった」
 いうが早いか、蒼太くんはさっき怪しい人がいた付近にものすごい速度で走っていった。
 そして、それから数秒もしないうちに通路に現れたのは本当にカネちさんだ。
 蒼太くんに後ろから睨まれている。
「……どっかに千明たちもいるだろ」
「なんでわかるんだよお」
 しおしおと萎れているカネちさんはあっさりと暴露した。どうやらみんな来ているらしい。
「ったく、おかしいと思ったんだ。カネち、さっさと兄ちゃん呼んで」
 蒼太くんがそういえばカネちさんはポコポコとスマホをいじって、ほとんど間を開けずに紫音くんもひょっこり戻ってきた。
 ごめんごめん、と言いながら、全く悪びれた顔はしていない。
「千明たちはどこにいるの?」
「えーっと、なんか催事場で世界のカメ展をやってるらしくて、深緑くんと一緒にそこにいるみたい」
「はあ、本当にいるのか……」
 紫音くんの回答に蒼太くんはため息をつきながら肩を落とす。
 でもなんだか、いつもの集まりみたいで楽しい。
「せっかくだし、みんなでハンバーガーでも食って帰ろうぜ!」
「カネちの奢りならいいよ」
「まかせろ! なんたってリーダーだからな! コソコソしてたら腹へった!」
 勢いよくフードコートを目指すカネ治さんに、紫音くんも「やったー奢りだ」とついていく。
 きっと千明くんたちはカメ展から直接合流することになるだろう。
「結局こうなるのか……」
 蒼太くんはどこか遠い目をしている。
 わたしは勇気を出して、そんな蒼太くんの手を取った。
「蒼太くん、行こう! 奢りだって」
 急なことに驚いて、蒼太くんは目を丸くしている。
 わたしだって強引に繋いだ手が熱いし、顔からは火が出るようだ。
 緊張して声が震えてしまった気がする。
 でももう、わたしは一歩踏み出した。
──何かが変わる気がする、大きな一歩を。




おわり


*******

お読みいただきありがとうございました!
途中から改行もせず(力尽きた)読みにくかったかと思いますが、最後までありがとうございます!!

小学生って…かわいいですね…ჱ̒^o̴̶̷̤ ·̫ o̴̶̷̤^)

また異世界ファンタジーでもお会いできますように!
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