突然、お隣さんと暮らすことになりました~実は推しの配信者だったなんて!?~

ミズメ

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第四章 おおきな一歩

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 不安だらけの学校が終わり、何事もなく帰路につく。
 結愛ちゃんも一緒だ。
「じゃあひなちゃん金曜日に! 習い事とかもないから! 絶対きなこを見に来てよね!」
「うん、楽しみにしてるね」
 結愛ちゃんとは今度きなこちゃんを見に行く約束をしてから別れる。
朝よりもずっと足が軽い。
 そして今日は、千明くんのおうちスタジオでのダンス練習も再開することにした。
蒼太くんも一緒だ。
 そして……
「ひなさん、ここまで言われたら、もう完璧なダンスをしよう!!」
 そこには気合い十分の千明くんがいた。
「は、はい……!」
 わたしは背筋をぴしりと伸ばす。
 蒼太くんの方を見ると、ちょっと遠い目をしていた。
 えっと、多分、あの手紙のことを知っていて励ましてくれてる……?
 千明くんは「誰よりも優雅で最高に目立つようにしよう!」と息巻いている。
「頑張りましょうね、ひなさん」
「はい、よろしくお願いします……!」
「今日は蒼太も一緒にビシビシやるよ! ねっ、蒼太」
「蒼太くんも一緒に? うれしいなあ」
 この前は見学だけだった蒼太くんが参加してくれるなら、わたしも嬉しい。
 そう伝えると、今まさにゲームを取り出そうとしていた蒼太くんはそれをそそくさとリュックにしまった。
「……わかったよ」
「イエーイ! 蒼太もひなさんも頑張ろうね。えいえいおー!」
「お、おー!」
「……」
 微妙に息はあっていないけど、なんにせよ、みんながこうして協力してくれるのが嬉しい。
「ひなさん、ここでターン!」
「視線は前だよ! 顔あげて!」
「手はピンと伸ばして! そうそうかっこいいよ!」
 ──な、なんだか今日の千明くん厳しいな……!
 わたしはいつもよりスパルタな千明くんの的確な指導を受けて、終わる頃にはもうヘロヘロになっていた。
「……そろそろ終わりにするか」
 蒼太くんがそう言ってくれたところで、スタジオの扉がバンと開く。
「なんか楽しそうなことやってるじゃない」
 現れたのは、千明くんに雰囲気がよく似た、長身の女性だった。
 毛先にいくにつれてグラデーションがかった桃色の髪がとてもかわいい。
 それに、スラリとしたスタイルも抜群だ。
「お姉ちゃん、来てくれたんだ」
「ふふっ。千明の頼みならなんでも聞くんだから。ええと、あなたがひなちゃん?」
 スーパー美人さんに視線を向けられ、わたしはピシッと背筋を伸ばす。
 え、ええと。
 千明くんことmomoくんのお姉さんといえば、人気美容系インフルエンサーの……!?
 つかつかとわたしのそばに来たお姉さんは、わたしを上から下までじっくりと見る。
 な、なんだろう。
「あらあら、かわいいひよこちゃんね~! 本当に雛みたい! 可愛いっ」
 そう言って、お姉さんはわたしをぎゅうっと抱きしめた。
 とっても良い香りがしてクラクラする。
 ひよこちゃん……!
「お姉ちゃん。ひなさんが困ってるから」
「あらあら」
 千明くんが言うと、お姉さんはようやくわたしから離れてくれた。
 大人の女の人、すごい。
「そうねぇ、ひなちゃんはまず、背筋を伸ばしなさい。ほら、ピンと胸を張るの。それから顎は引いて……あとは前髪をちょこっと切りましょうね。はい、目を閉じて~」
「えっあっ、あの」
「動くと一直線になっちゃうから気をつけてね」
「……!」
 どこからかハサミを取り出したお姉さんにわたしは息を呑んで押し黙った。
 目を瞑っていると、ジョキジョキとハサミを動かす音とはらはらと前髪が落ちる感触を肌に感じる。
 本当に髪を切られてる……!
 まだ合図がないので黙っていると、ブラシのようなもので顔をこちょこちょとくすぐられた後に、唇にスッと何かが触れた。
「よしっ。ほらひなちゃん顔を上げて。大丈夫だよ、みんなと違うところがあるのはあなたの弱みじゃないから。むしろあなただけの大切な個性なんだから!」
 目を開けてみると、目の前の手鏡にはわたしが映っている。
 目にかかっていた前髪がすっきりと整えられ、リップはほのかにピンク色になっている。
「はい、これはプレゼント。見た目は透明なのに、塗るとちょっぴりピンクになるおすすめのコスメだよ。じゃあ頑張ってね、若者たち!」
 手に乗せられたのは、ピンク色のリップだった。
 千明くんのお姉さんはあっという間にスタジオから出ていく。
「ひなさん、とってもかわいいよ。ね、蒼太」
「……うん」
「ありがとう……!」
 千明くんと蒼太くんに面と向かって褒められて、わたしは口元がうずうずとする。
 堂々と背筋を伸ばしているお姐さんはとてもかっこよかった。
  嵐のように去っていった千明くんのお姉さん。
 動画でしか見た事はなかったけど、実物はもっと綺麗ですらりとしていた。
――それに、自信に満ち溢れている。
 たしかにわたしはいつも自分に自信がなくて、それなのに目立ってしまう身長が嫌で。
 全部が身長のせいみたいに思っていたけど……。
「千明くん、蒼太くんありがとう。あの……最後にもう一回だけ通しでダンスをしてみてもいいかな?」
「もちろんだよ。最後はみんなでやろう」
「よし、やるか」
 三人で並んで、音楽をスタートさせる。
 それから精一杯、わたしなりに背筋を伸ばして踊った。
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