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第三章 めざすは運動会!
閑話・アオ⑤
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「そうかあ。昨日の練習も来れなかったから心配していたけど、体調不良だったんだね」
千明が頷いている。
ダンス練習もがんばっていたし、最初に会った頃よりずっと明るい顔をするようになったと思っていた。俺も。
「千明く~ん!」
二人で話している後ろから、騒がしい声が聞こえて来た。
「ねえねえ千明くーん。今日の昼休みも練習しようよォ」
「ねーっ。あっ、蒼太くんも一緒にやろ!」
「千明くんと蒼太くんがいてくれたらもっと頑張れそう~」
いつも千明の周りをうろちょろしている女子たちだ。
キンキンした声が頭に響く。
「ごめんね、今日の昼休みは用事があって出来ないんだ」
千明が優しく諭すと、「えー!」と非難じみた声をあげている。
昼休みにダンスレッスンをすることになって大変そうだが、今日はやらないらしい。
というか、もう全員大体踊れているからもう不要のように思える。
「俺はもう練習いらないから大丈夫」
それだけ言うと、三人の視線がギンっと俺に向けられた。
「えーーー!」
「蒼太くんもやろうよぉ」
「いや、大丈夫。じゃあ俺ちょっと用事があるから」
女子たちを千明に押し付けて、俺は教室を出た。
ああいうタイプは苦手だ。
全女子に平等に対応出来る千明は本当にすごいと思う。
「……もう病院行った頃かな」
廊下に出たら、ちょっとだけ空気が綺麗だった。
窓の外を見ると、空には思い雲がかかっている。
予報では曇りだったが、今にも雨が降りそうだ。
「ねえ、蒼太くん」
また誰かが話しかけてきた。
その高い声にうんざりしながら振り向くと、同じグループの羽田がいた。
また同じような話か……?
「ひなちゃんのことって、何か知ってたりする……?」
「えっ」
一瞬、なにを言われたかわからなくて心から驚いた声を出してしまった。
羽田は五年になってから、度々 市山と一緒に帰るところを見かけた。
正反対のタイプにみえるが、案外相性がいいのか市山も楽しそうにしていた。
「えっ……と、なんで俺?」
「蒼太くんとひなちゃんって、お隣さんなんでしょう? 何か知ってるかなと思ってぇ」
「市山から聞いたの?」
「うん」
どういうことかと疑いながら聞いていたが、嘘をついているようには見えない。
心配している……のかもしれない……?
「風邪っぽいとは聞いた」
「……そっか、ありがとう~!」
俺がそれだけ答えると、羽田はホッとした顔をした。
それからパタパタと立ち去っていく。
……なんだったんだ、ほんとに。
教室を見てみれば、千明はまだあのメンバーに捕まっていた。
もうほっとこう。
市山の分のプリントを持って、俺は急いで帰った。
家に着くとちょうど市山の部屋から母さんが出てきた所だった。
「あら、おかえり蒼ちゃん。走ったの? すごい汗」
「市山は? 大丈夫だった?」
母さんの言葉よりはやく、俺は質問をする。
俺の汗の心配をしていた母さんはクスリと笑った。
「ひなちゃん、今は寝ているわ。病院でもただの風邪だろうとは言われた。でも、心労もあるかもしれないからしばらくゆっくりさせてください、だって」
「そっか。わかった」
「ほら蒼ちゃんも手を洗ってらっしゃい。外の菌をひなちゃんにあげちゃったら悪いわ。私はちょっとヨウちゃんに電話してくるね」
ひらひらと手を振る母さんを見送り、俺は部屋にランドセルを置いた。
それから洗面所で手を洗う。
……風邪か。
母さんの口ぶりだとそこまでひどくはないみたいだけど、『心労性』という言葉を使ったことに引っかかった。
なにか、悩みでもあるのか……?
でもそれを無理に聞き出すことはしたくないし。
「とりあえず、プリントを渡すか。あと、羽田から預かった手紙」
ランドセルからファイルを取りだし、数枚のプリントと返却されたテスト、それから羽田から預かったピンクの手紙を用意する。
放課後に羽田から『ひなちゃんに渡して!』と手渡されたときは驚いたが、昼休みに机に向かっていたのはそれだったのかと思った。
「今は寝てるって言ってたから、後で渡すか……」
夕ご飯の時には顔が見られるだろうか。
母さんに渡した方がいいか?
タブレットを開くと、ピコンと通知音が鳴った。
《蒼太~! ひなちゃんの具合どうだって?》
兄ちゃんからのメッセージだった。
「《風邪だったって》っと」
送るとすぐにピコンと反応がある。
《オッケ! プリン買って帰ります》
ちょうどマンションのそばにコンビニがある。
兄ちゃんも俺と同じようにきっと一日中そわそわとしていたのではないだろうか。
「にいちゃんも、市山のこと可愛がってたもんな」
昔から、ここに市山が遊びにくると「ひなちゃん」と自分の妹のように可愛がっていた。
俺が疎遠になったせいで兄ちゃんも市山と関わることがなくなったのに、同居したらあっという間に前の距離感に戻ったことを少し羨ましく思う。
「どうにかして、市山に元気になってもらう方法……」
毎日のおしゃべりで、市山は何が好きと言っていた?
えっと、そういえば前に早口でブラストの大ファンだと言っていた。
それに、【アオのゲーム配信】を楽しみにしてると。
「……」
ちょっとだけ考えた俺は、メッセージの送信画面からカネちの名前を探した。
トトトト……とキーボードを叩いてメッセージを送る。
「……よし、まずは耐性をつけるか」
パソコンを開いてヘッドホンをセットし、動画配信サイトをクリックする。
検索欄に【こわい話】と入力して、最初に出てきたものから片っ端に見ることにした。
千明が頷いている。
ダンス練習もがんばっていたし、最初に会った頃よりずっと明るい顔をするようになったと思っていた。俺も。
「千明く~ん!」
二人で話している後ろから、騒がしい声が聞こえて来た。
「ねえねえ千明くーん。今日の昼休みも練習しようよォ」
「ねーっ。あっ、蒼太くんも一緒にやろ!」
「千明くんと蒼太くんがいてくれたらもっと頑張れそう~」
いつも千明の周りをうろちょろしている女子たちだ。
キンキンした声が頭に響く。
「ごめんね、今日の昼休みは用事があって出来ないんだ」
千明が優しく諭すと、「えー!」と非難じみた声をあげている。
昼休みにダンスレッスンをすることになって大変そうだが、今日はやらないらしい。
というか、もう全員大体踊れているからもう不要のように思える。
「俺はもう練習いらないから大丈夫」
それだけ言うと、三人の視線がギンっと俺に向けられた。
「えーーー!」
「蒼太くんもやろうよぉ」
「いや、大丈夫。じゃあ俺ちょっと用事があるから」
女子たちを千明に押し付けて、俺は教室を出た。
ああいうタイプは苦手だ。
全女子に平等に対応出来る千明は本当にすごいと思う。
「……もう病院行った頃かな」
廊下に出たら、ちょっとだけ空気が綺麗だった。
窓の外を見ると、空には思い雲がかかっている。
予報では曇りだったが、今にも雨が降りそうだ。
「ねえ、蒼太くん」
また誰かが話しかけてきた。
その高い声にうんざりしながら振り向くと、同じグループの羽田がいた。
また同じような話か……?
「ひなちゃんのことって、何か知ってたりする……?」
「えっ」
一瞬、なにを言われたかわからなくて心から驚いた声を出してしまった。
羽田は五年になってから、度々 市山と一緒に帰るところを見かけた。
正反対のタイプにみえるが、案外相性がいいのか市山も楽しそうにしていた。
「えっ……と、なんで俺?」
「蒼太くんとひなちゃんって、お隣さんなんでしょう? 何か知ってるかなと思ってぇ」
「市山から聞いたの?」
「うん」
どういうことかと疑いながら聞いていたが、嘘をついているようには見えない。
心配している……のかもしれない……?
「風邪っぽいとは聞いた」
「……そっか、ありがとう~!」
俺がそれだけ答えると、羽田はホッとした顔をした。
それからパタパタと立ち去っていく。
……なんだったんだ、ほんとに。
教室を見てみれば、千明はまだあのメンバーに捕まっていた。
もうほっとこう。
市山の分のプリントを持って、俺は急いで帰った。
家に着くとちょうど市山の部屋から母さんが出てきた所だった。
「あら、おかえり蒼ちゃん。走ったの? すごい汗」
「市山は? 大丈夫だった?」
母さんの言葉よりはやく、俺は質問をする。
俺の汗の心配をしていた母さんはクスリと笑った。
「ひなちゃん、今は寝ているわ。病院でもただの風邪だろうとは言われた。でも、心労もあるかもしれないからしばらくゆっくりさせてください、だって」
「そっか。わかった」
「ほら蒼ちゃんも手を洗ってらっしゃい。外の菌をひなちゃんにあげちゃったら悪いわ。私はちょっとヨウちゃんに電話してくるね」
ひらひらと手を振る母さんを見送り、俺は部屋にランドセルを置いた。
それから洗面所で手を洗う。
……風邪か。
母さんの口ぶりだとそこまでひどくはないみたいだけど、『心労性』という言葉を使ったことに引っかかった。
なにか、悩みでもあるのか……?
でもそれを無理に聞き出すことはしたくないし。
「とりあえず、プリントを渡すか。あと、羽田から預かった手紙」
ランドセルからファイルを取りだし、数枚のプリントと返却されたテスト、それから羽田から預かったピンクの手紙を用意する。
放課後に羽田から『ひなちゃんに渡して!』と手渡されたときは驚いたが、昼休みに机に向かっていたのはそれだったのかと思った。
「今は寝てるって言ってたから、後で渡すか……」
夕ご飯の時には顔が見られるだろうか。
母さんに渡した方がいいか?
タブレットを開くと、ピコンと通知音が鳴った。
《蒼太~! ひなちゃんの具合どうだって?》
兄ちゃんからのメッセージだった。
「《風邪だったって》っと」
送るとすぐにピコンと反応がある。
《オッケ! プリン買って帰ります》
ちょうどマンションのそばにコンビニがある。
兄ちゃんも俺と同じようにきっと一日中そわそわとしていたのではないだろうか。
「にいちゃんも、市山のこと可愛がってたもんな」
昔から、ここに市山が遊びにくると「ひなちゃん」と自分の妹のように可愛がっていた。
俺が疎遠になったせいで兄ちゃんも市山と関わることがなくなったのに、同居したらあっという間に前の距離感に戻ったことを少し羨ましく思う。
「どうにかして、市山に元気になってもらう方法……」
毎日のおしゃべりで、市山は何が好きと言っていた?
えっと、そういえば前に早口でブラストの大ファンだと言っていた。
それに、【アオのゲーム配信】を楽しみにしてると。
「……」
ちょっとだけ考えた俺は、メッセージの送信画面からカネちの名前を探した。
トトトト……とキーボードを叩いてメッセージを送る。
「……よし、まずは耐性をつけるか」
パソコンを開いてヘッドホンをセットし、動画配信サイトをクリックする。
検索欄に【こわい話】と入力して、最初に出てきたものから片っ端に見ることにした。
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