36 / 57
第三章 めざすは運動会!
7
しおりを挟むまさかのミドリくんの正体を知ってからはやくも一週間が経とうとしている。
その間も、千明くんにこっそりダンスレッスンをしてもらったり、蒼太くんたちとゲームをしたり委員会活動をしたり。
わたしなりになんだかとっても充実した毎日を送っている。
夜の定期通話のとき、タブレットの画面越しのお母さんたちも《ひなが元気そうで良かった》と笑っていた。
お父さんの調子もよくて、運動会に来れることはほぼ確定だという。
『お父さん、わたし今、ダンスの練習を頑張ってるよ』
『おお、そうか! 楽しみだなあ』
『ひなちゃん偉いね。もうすぐ帰れるからね』
わたしが頑張っていることを報告すると、お父さんとお母さんも嬉しそうに笑っていた。
そうすると、わたしも心もポカポカとあたたかくなってくる。
よし、頑張るぞ……!
気合いもまたたくさん入って、ウキウキした気持ちで朝を迎えた。
今日はまた千明くんのお家での特別レッスンの日だ。
自主練の成果もあってコツもつかめて来たように思う。
非逃避等の動きが出来るようになったら、なんだか嬉しくて無理に身体を縮めようとはしなくなった。
先週は先生の千明くんにも褒められて、ホッとしている。
今日はちょうど五時間めに体育の授業があって、ダンスの全体練習だった。
結愛ちゃんには動きが良くなったことに気付かれて不思議な顔をされたけど、自主練をがんばっていることを伝えたのだ。
ちなみに、千明くんの昼休みレッスンの効果か、うちのクラスは完成度が高かったらしく先生も驚いていた。
さすがは千明くんだ。
そして放課後。ようやく帰る時間になって、わたしは下駄箱へと急ぐ。
「……あれ?」
靴箱から靴を取り出すと、何かの紙がはらりと落ちた。
わたしの靴箱からだったよね……?
不思議に思いながら、わたしはその紙を拾う。
――なんだろう、手紙みたいだけど。
カサカサとその紙を広げたとき、わたしは一瞬息が止まってしまった。
「ひっ………」
ピンクの便箋には
「デカ女」
「でかすぎてダンスの邪魔」
「蒼太くんと千明くんの近くに立つな」
「鏡を見てくださ~い」
という悪意のある言葉が書かれていた。
心臓がバクバクする。
あわてて周囲を見渡しても、人の気配はない。
なにこれ。なにこれ……!
「ひなちゃん、どうかしたの?」
「わっ!」
気付いたら、近くに結愛ちゃんが来ていた。
今日も途中まで一緒に帰ろうと約束していたのだ。
「そんなにびっくりしなくても……早く帰ろう~~運動会の練習で疲れたよぉ」
「ご、ごめんねっ」
わたしは急いでその手紙をポケットに突っ込んで、靴を履いた。
宙に浮かんでいるようで、現実味がない。
ズキズキ、ズキズキと心臓がいたむ。
「ひなちゃん、なんか顔色悪いよぉ? だいじょぶ?」
「だ、大丈夫」
「じゃあいいけど。あ~でも本当に、千明くんたちにむらがってるみんな、なんなのかなぁ?」
「……うん」
「ひなちゃんもそう思う!? なんか無駄にベタベタ触っちゃったりしてさぁ! ついでに蒼太くんにまでめちゃくちゃ話しかけてるしっ」
「……うん」
「わたしたちグループが最強なのにっ! ほんとグループ活動がんばろうねっ」
「……うん」
結愛ちゃんの言葉が、テレビの音のように流れていく。
みんなと過ごすうちに少しずつ上向いてきた気持ちが、一気に叩き落とされたような。
ようやく自分のことが少しだけ好きになれた気がするのに、わたしはまた背中を丸めてしまう。
「やっぱチョーシ悪いよね、ひなちゃん」
「あ、ご、ごめん……!」
話を全然聞けていなかったことに、きっと結愛ちゃんは怒ってしまった。
腰に手をあてた結愛ちゃんがわたしを見ている。
その姿もかわいい。
わたしなんかと、違う……。
「ねーひなちゃん、ゼッタイなんかあったでしょ! どうしたの?」
「なんでもないよ」
「なんでもなくないしっ! 言ってよ!」
「……結愛ちゃんには関係ないから」
「……っ」
ハッとして顔を上げたけど、その時にはもう遅かった。
結愛ちゃんはすごく傷付いた顔をしている。
「わかった、もう聞かない! バイバイ!」
「あっ、結愛ちゃん……!」
駆け出した結愛ちゃんは、ちょうど青になった信号を一気に渡って、すぐに見えなくなってしまった。
八つ当たりだ。
結愛ちゃんは何も悪くないのに。
わたしのことを心配してくれていたのに、何も言えなくて。
目の前から知らないカップルが歩いてきて、わたしはぶつからないようにサッと避ける。
「……えー、今の小学生?」
「ランドセルあるからそうでしょ」
「いや、デカくない? ふつーに」
「ランドセルが浮いてるよね」
運が悪いことに、わたしの耳はそんな会話をしっかりと拾ってしまった。
最近はずっと、優しい人たちに囲まれていたから忘れていた。
そうだ。身長が大きいのにランドセルを背負っているわたしは、異質に見えるんだった。
どうして忘れていたんだろう。
とぼとぼと家に帰り、あとから帰ってきた蒼太くんには、今日のダンスの練習にはいかないことを告げた。
「市山。兄ちゃんが帰って来たから一緒にゲームしないか?」
「んー……今日はやめとくね。ありがとう」
「……うん」
ごはんを食べたあとはまた部屋に戻って、ひとりでベッドの上で丸まる。
お母さんたちに会いたくても会えない。
動画を見る元気もなくて、タブレットは真っ黒な画面のままだ。
――わたし、なにを頑張ろうと思っていたんだっけ。
結愛ちゃんのことも怒らせちゃったし、学校に行くのがこわい。
あの手紙は捨てることも出来ずに棚の中にしまってしまった。
誰がやったかはわからないけど、あの手紙があるということは、それだけわたしに悪意を持っている人がいるということ。
それが見えてしまったのが本当にこわい。
「お母さん……蒼太くん……結愛ちゃん……」
これまでもデカ女と言われたことはあったけど、その時よりもずっと辛い。
グルグルと考えごとをしていると、わたしはいつの間にか眠ってしまっていた。
1
あなたにおすすめの小説
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜
おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。
とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。
最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。
先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?
推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕!
※じれじれ?
※ヒーローは第2話から登場。
※5万字前後で完結予定。
※1日1話更新。
※noichigoさんに転載。
※ブザービートからはじまる恋
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる