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第二章 ブラストのみんな
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「……びっくり。お母さんにも教えてあげよう」
わたしはタブレットのメッセージを確認し、お母さんとやりとりをする。
もちろんリスの話題も添えておいた。
今日は蒼太くんがサッカークラブの練習に行っていて不在で、アキさんは在宅ワークをしている。
まだ紫音くんも帰ってきていないから、家の中はいつもよりずっと静かだ。
「……宿題、やっとこ」
わたしはランドセルから課題のプリントを取り出した。
そして、ちょうど宿題が終わった時にガチャリと玄関ドアが開く音がした。
この部屋は玄関に一番近いから、音がよく響くのだ。
「ただいま~」
この声は紫音くんだ。
「お邪魔しまーーすっ!」
そして、どこかで聞いたことあるようなないような、そんな声が聞こえてきた。
紫音くんのお友達かな……?
少なくとも、同居するようになってから紫音くんが誰かをこの家に連れてくるのは始めてのことだ。
「カネち、適当に寛いでて。なんか飲み物取ってくるから」
「オッケー」
廊下で話す紫音くんたちの声が聞こえる。
どうやら、部屋で遊ぶことになっているようだ。
……今なら、部屋を出ても大丈夫だよね?
帰ってきてから、手洗いをして動画をみたあとそのまま宿題をしていて、今とても喉が渇いている。
夜ご飯まで我慢したらいいのかなとも思うけど、喉が渇いたことに気付いてしまったらどんどん喉がカラカラになってきた気がする。
しばらく廊下の様子を窺っていたわたしは、廊下に誰もいないことを確認して素早くキッチンへと急いだ。
「あっひなちゃん。おかえり~」
「たっ、ただいま……!」
キッチンでは紫音くんが飲み物をふたつ用意している所だった。
もれなく牛乳だ。グラスに並々と注がれている。
初日から思ったけれど、どうやら志水家では牛乳をもりもり飲むのが当たり前らしい。
「飲む?」と聞かれたから今回は断って、麦茶を用意する。
「今日ね、友だちが来てるんだ」
「あ、うん、声が聞こえたから……邪魔しないように静かにしておくね」
紫音くんの言葉に、わたしは「もちろん!」と頷く。
同居させてもらっているのはわたしの方だから、そのせいで二人が窮屈な思いをするのはいやだ。
「あー……いや、そういう意味じゃなくて。こっちがうるさくしちゃうかも。カネち――鐘ヶ江朱人(かねがえあやと)っていう中学からの同級生なんだけど、すっごく騒がしいヤツだからさ」
そう言いながらも、紫音くんはどこか嬉しそうだ。
その鐘ヶ江くんという人は、紫音くんにとってとても大切な友だちなのだと思う。
「あっ、そうだ! ひなちゃんも会ってみる?」
「えっ」
「うん、そうだ、そうしよ。もう俺らのことバレちゃってるし、完全に知ってもらった方が色々考えなくて良さそう」
「し、紫音くん……?」
「来て来て! あっ、蒼太がいないから怒られるかな……? ま、いっか、カネちだし」
「???」
紫音くんに言われるがまま、わたしはその後をついていく。
いやわたし、かなり場違いなのでは……。
「カネちー。開けるよー」
紫音が部屋の前でそう言うとー中からは「おう」と短く返事があった。
涼しげな表情の紫音くんとは反対に、わたしはドキドキが止まらなくなってきた。
思わず背が丸まり、紫音くんの背中に隠れるような仕草をしてしまう。
そんなわたしに気付きつつ、紫音くんは何も言わずに扉を開けた。
紫音くんの友人は、頭の後ろに手を組んで、腹筋をしていた。
「飲み物持ってきた」
「ありがと……ってうおっ! 相変わらず志水家の牛乳接待やばいな! そんなグラスなみなみの牛乳なんて滅多に見ないって」
「そう? うちじゃ普通だけど」
「いやいやいや……って、あれ」
紫音くんのお友達の視線が、わたしに向いた。
爽やかな短髪に、人懐っこい笑顔を浮かべていたその人が、一瞬真顔になる。
「こちらはお隣のひなちゃん。いまご両親が事情があってこっちにいないから、うちで預かってるんだ。蒼太と同じクラスだよ」
「は、はじめまして! 市山ひなです」
わたしはあわてて自己紹介をして頭を下げる。
紫音くんがさらりと説明してくれて助かった。
「で、ひなちゃん。こっちが友だちのカネち。実はさ、カネちも配信やってるんだ」
「そうなんだ……?」
なんと。この人も配信をやっているらしい。
わたしが不思議そうに眺めると、カネちさんはすっくと立ち上がる。
「ンッンッ! 《こ~んに~ちは~~!》」
声の調律をしたカネちさんが、お腹から明るい声を出す。
「えっ、それって」
それはとても聞き覚えのあるフレーズと声色で……
さっきまで動画を見ていたわたしは、頭の中にブラストの姿が浮かんだ。
赤色のメンバー。リーダのアカネくん。
「もしかして……アカネくん……?」
おずおずとそう尋ねる。
何度も繰り返し見たブラストの動画。
各メンバーの単独配信もちょこちょこ覗いているし、話し方の特徴もなんとなく分かる。
わたしがドキドキしながら返事を待つと、カネちさんはニッカリと破顔した。
わたしはタブレットのメッセージを確認し、お母さんとやりとりをする。
もちろんリスの話題も添えておいた。
今日は蒼太くんがサッカークラブの練習に行っていて不在で、アキさんは在宅ワークをしている。
まだ紫音くんも帰ってきていないから、家の中はいつもよりずっと静かだ。
「……宿題、やっとこ」
わたしはランドセルから課題のプリントを取り出した。
そして、ちょうど宿題が終わった時にガチャリと玄関ドアが開く音がした。
この部屋は玄関に一番近いから、音がよく響くのだ。
「ただいま~」
この声は紫音くんだ。
「お邪魔しまーーすっ!」
そして、どこかで聞いたことあるようなないような、そんな声が聞こえてきた。
紫音くんのお友達かな……?
少なくとも、同居するようになってから紫音くんが誰かをこの家に連れてくるのは始めてのことだ。
「カネち、適当に寛いでて。なんか飲み物取ってくるから」
「オッケー」
廊下で話す紫音くんたちの声が聞こえる。
どうやら、部屋で遊ぶことになっているようだ。
……今なら、部屋を出ても大丈夫だよね?
帰ってきてから、手洗いをして動画をみたあとそのまま宿題をしていて、今とても喉が渇いている。
夜ご飯まで我慢したらいいのかなとも思うけど、喉が渇いたことに気付いてしまったらどんどん喉がカラカラになってきた気がする。
しばらく廊下の様子を窺っていたわたしは、廊下に誰もいないことを確認して素早くキッチンへと急いだ。
「あっひなちゃん。おかえり~」
「たっ、ただいま……!」
キッチンでは紫音くんが飲み物をふたつ用意している所だった。
もれなく牛乳だ。グラスに並々と注がれている。
初日から思ったけれど、どうやら志水家では牛乳をもりもり飲むのが当たり前らしい。
「飲む?」と聞かれたから今回は断って、麦茶を用意する。
「今日ね、友だちが来てるんだ」
「あ、うん、声が聞こえたから……邪魔しないように静かにしておくね」
紫音くんの言葉に、わたしは「もちろん!」と頷く。
同居させてもらっているのはわたしの方だから、そのせいで二人が窮屈な思いをするのはいやだ。
「あー……いや、そういう意味じゃなくて。こっちがうるさくしちゃうかも。カネち――鐘ヶ江朱人(かねがえあやと)っていう中学からの同級生なんだけど、すっごく騒がしいヤツだからさ」
そう言いながらも、紫音くんはどこか嬉しそうだ。
その鐘ヶ江くんという人は、紫音くんにとってとても大切な友だちなのだと思う。
「あっ、そうだ! ひなちゃんも会ってみる?」
「えっ」
「うん、そうだ、そうしよ。もう俺らのことバレちゃってるし、完全に知ってもらった方が色々考えなくて良さそう」
「し、紫音くん……?」
「来て来て! あっ、蒼太がいないから怒られるかな……? ま、いっか、カネちだし」
「???」
紫音くんに言われるがまま、わたしはその後をついていく。
いやわたし、かなり場違いなのでは……。
「カネちー。開けるよー」
紫音が部屋の前でそう言うとー中からは「おう」と短く返事があった。
涼しげな表情の紫音くんとは反対に、わたしはドキドキが止まらなくなってきた。
思わず背が丸まり、紫音くんの背中に隠れるような仕草をしてしまう。
そんなわたしに気付きつつ、紫音くんは何も言わずに扉を開けた。
紫音くんの友人は、頭の後ろに手を組んで、腹筋をしていた。
「飲み物持ってきた」
「ありがと……ってうおっ! 相変わらず志水家の牛乳接待やばいな! そんなグラスなみなみの牛乳なんて滅多に見ないって」
「そう? うちじゃ普通だけど」
「いやいやいや……って、あれ」
紫音くんのお友達の視線が、わたしに向いた。
爽やかな短髪に、人懐っこい笑顔を浮かべていたその人が、一瞬真顔になる。
「こちらはお隣のひなちゃん。いまご両親が事情があってこっちにいないから、うちで預かってるんだ。蒼太と同じクラスだよ」
「は、はじめまして! 市山ひなです」
わたしはあわてて自己紹介をして頭を下げる。
紫音くんがさらりと説明してくれて助かった。
「で、ひなちゃん。こっちが友だちのカネち。実はさ、カネちも配信やってるんだ」
「そうなんだ……?」
なんと。この人も配信をやっているらしい。
わたしが不思議そうに眺めると、カネちさんはすっくと立ち上がる。
「ンッンッ! 《こ~んに~ちは~~!》」
声の調律をしたカネちさんが、お腹から明るい声を出す。
「えっ、それって」
それはとても聞き覚えのあるフレーズと声色で……
さっきまで動画を見ていたわたしは、頭の中にブラストの姿が浮かんだ。
赤色のメンバー。リーダのアカネくん。
「もしかして……アカネくん……?」
おずおずとそう尋ねる。
何度も繰り返し見たブラストの動画。
各メンバーの単独配信もちょこちょこ覗いているし、話し方の特徴もなんとなく分かる。
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