突然、お隣さんと暮らすことになりました~実は推しの配信者だったなんて!?~

ミズメ

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第一章 お隣さんと同居生活

閑話・アオ②

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  ☆☆☆

 俺や紫音が【ブラスト】として活動していることは、母さんたちは知っているけど、友人の誰にも言ってはいない。
 だから、一緒に暮らすことになった市山にも言うつもりはなかった。

「──あ」

 物音がして振り向いてみると、俺と紫音の部屋のドアのところに何故かパジャマ姿の市山がいた。
 本人も半分ぼおっとしていて、目をこすりこすりしながらこっちを見ていて、俺と目が合ったことに気が付いてかなり驚いている。

 状況を理解したのか慌てて部屋に戻っていったけど、そこから俺はゲームに全然集中出来なくなった。
『アイランドサバイバル』は一度に百人が参加しているネットゲームであり、中にはめちゃくちゃ上手い人もいる。

 ブラストがライブ配信をすることは決まっていたので、当然同時参加したい人たちが殺到し、最初なかなかにサーバが重たかった。
つまり、油断すると俺でも負けてしまう可能性がある。

 だというのに色々とガタガタになって、うまく武器を拾えなかったり、他の参加者から襲撃されたりして負けた。
 コメント欄も不思議そうにしている。

「兄ちゃん、さっき市山が見てたよな……?」

「がっつり目が合ったね。寝ぼけちゃったのかな? はは」

「俺らがブラストだって知られちゃったかも。アオとかシオンとか言ってたから」

「あ~そっか。でも一瞬だったし、どうだろうねえ」

 眠たくなってきたのか、兄ちゃんはあくびをしながら適当に答える。

「ま、ひなちゃんなら大丈夫じゃないかな。心配なら明日聞いてみな~」

「うん……」

 そのあとはずっと、市山にどう説明するかのシミュレーションを頭の中で繰り返す。
 兄ちゃんは「ひなちゃんなら知られても大丈夫でしょー」とのんびり構えて、そのまま寝てしまった。
 それからあまり眠れなかった俺は、顔を洗おうために部屋から出る。

 すると、何食わぬ顔でいつもどおり『おはよう!』と挨拶をしてくる市山がいて、正直かなりびっくりした。

──どうしようか。

「ちょうど良かった。ちょっとこっちに来て」

「えっ」

 俺は一瞬迷ったけど、市山を部屋に連れていくことにした。
 もしあのまま、誰かに話されたら困ると思って。

「市山……昨日の夜俺たちがゲームやってるの見たよな?」

 そう聞くと、パソコンに釘漬けになっていた市山の目が左右に動いた。
 どうしよう、と顔に書いてある。

「ご、ごめん! あれってやっぱり夢じゃなかったんだね? トイレの帰りに道を間違えちゃって……!」

「やっぱり……俺らが何やってたか気付いた?」

「う、うん……『アイサバ』をやってたよね。ブラストと同じ……」

「そうか」

 そこまではっきりとわかっているのなら、もう今さらごまかせない。
 俺は覚悟を決めて口を開いた。

「市山。俺がブラストのアオだってことは、誰にも言わないでほしいんだけど」

「も、もちろん! 蒼太くんがアオってことは誰にも言わない。って、あれ……?」

 打ち明けると、市山は不思議そうな顔をした。
 なんだか思っていた反応と違う気がする。
 ブツブツと何かを口にして、首を捻ったり、困った顔をしている。
 かと思えば、閃いた顔をして俺の方を見た。

「そんなわけないよね」という言葉が聞こえた気がする。

「ごめんね蒼太くん、わたし聞き間違えちゃったみたい。蒼太くんが《ブラストのアオ》だって聞こえちゃった。もう一回言ってもらってもいいかなあ?」

 えへへ、と笑いながら市山がそんなことを言う。
 ……これはもしかして。

「いや、間違ってないけど……」

「えっでも……アオくんって……ブラストのゲーム配信の?」

「うん、俺のこと」

「し、紫音くんももしかして」

「兄ちゃんはそのまんま、ブラストのシオンだよ。一人だと歌ってみた動画がメインだけど」

「~~~~っ‼︎」

 今度こそ本当に、目をまんまるにした市山は、とんでもなく驚いた顔をした。
 声にならない声を抑えて、何度も俺とパソコンのモニターを見比べている。

 もしかして、市山は気づいてなかったっぽい……?
 俺が言わなければ、アオが俺でシオンが兄ちゃんだって気づいてなかったような気がしてきた。
 完全に墓穴を掘った。

 この騒ぎでにいちゃんが起きてきて、むにゃむにゃと眠そうに挨拶をしている。

「市山」

「はっ、ハイッ!」

 俺が声をかけると、市山は軍人のように気をつけをして威勢の良い返事をした。
顔が緊張している。
 俺たちがブラストだとわかって、市山も動揺しているらしい。

「わかってると思うけど……このことはみんなには内緒だからな」

 ブラストは素性を一切明かしていない。
 なので、秘密を知ってしまった市山には一緒に秘密を守ってもらう必要がある。

「も、もちろんです! 誰にも絶対言いません! 秘密は守ります‼︎」

 市山はすごいスピードで何度も何度も頷くと、妙な軽度でそう宣言した。
 いつもとは違うその様子になんだかおかしくなる。

「ふ、なんでそんな変な敬語なの?」

 面白くなって近づいてみると、腕を構えてガードされた。

「絶対に誰にも言わない、約束するから……! じゃあわたし、朝の準備をするねっ」

 素早く後退りをした市山は、脱兎のような勢いで部屋から消えた。

「はは、ひなちゃんめちゃくちゃ動揺してたね~。気付いてなかったっぽい」

 兄ちゃんは伸びをしながらのほほんとそんなことを言った。

「やっぱり、そうだよな……」

「うん。まあ、良いんじゃない? 一緒に暮らすのに秘密があると大変だし。ひなちゃんなら大丈夫だよ。ブラストの配信見てくれてるっぽいね~うれしいな」

「……そうかな」

「うんうん。あ、でもひなちゃんに知られちゃったことはみんなに共有しとこっと」

 兄ちゃんはスマートフォンを操作して、グループメッセージを送信したようだった。
 俺のタブレットにも通知が来る。

「……」

 なんだかズルズルと秘密を話してしまったが、市山がブラストのことを知っているのは素直に嬉しい。

 俺はホクホクとした気持ちで朝の支度をする。
 ただそのあと、しばらく市山は目を合わせてくれなかった。
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