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第一章 お隣さんと同居生活
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しおりを挟む「この攻撃に当たると即死するから、まずはフリーランで回避。それで、離れたところから普通攻撃からのコンボを決めて気絶させる」
「なるほど……?」
「あと、武器は槍じゃなくて片手剣の方がいいかも。攻撃速度に差が出るから、槍は玄人向け」
「うっ、そうなんだね。キャラとか武器とか、見た目だけで選んでた」
ごはんとお風呂が終われば、わたしは約束どおり蒼太くんから例のゲームの攻略の仕方についてレクチャーを受けていた。
詰まっていた画面を見せれば「ああ、このボスね」と全てを分かった顔をしていて、本当にすごい。
今は蒼太くんに主人公の装備や戦法などを色々と調整してもらって、『いざ決戦のとき』である。
「なんだかいけそうな気がする! 蒼太くんありがとう、頑張るね!」
「あ、ああ、うん」
ふかふかのソファーで体操座りをして、わたしは真剣に画面を見つめる。
何度も何度も挑戦して負けたボスとの勝負。
――ええと、この光を集めるモーションのあとに強い攻撃がくるから、避ける……!
蒼太くんが言っていた攻撃を避け、わたしは敵の後ろに回り込んだ。
それから、わたしなりに連打をして、敵に攻撃をする。
「市山、今だ」
「わかった!」
蒼太くんの合図で必殺技のボタンを押す。
今までろくに攻撃を当てられなかったボスが、わたしの操作するキャラクターの攻撃で吹っ飛び、そこから気絶状態になった。
やった……できた……!!
「市山、まだ! 次立ち上がってきてからも、ゲージがなくなるまで同じことの繰り返し!」
「はっ、はいっ!」
ついつい油断していたわたしに、蒼太くんから檄が飛ぶ。
そうだった、いつも油断してたら負けるんだった。
ちょこちょこと蒼太くんにアドバイスをもらいながらなんとか激戦を制し、わたしは初めて苦戦していたボスを倒すことが出来た。
「やった~~~! 蒼太くん、ありがとう! 初めて勝てたよ~~~」
「……良かったじゃん」
「うん、嬉しい!」
「……っ」
喜びのあまり、わたしは蒼太くんに興奮のまま話しかけてしまった。
ちょっと引かれてしまった気もするけど、いまはとにかく嬉しい。
ゲームでも、なにかを達成したらこんなに嬉しいんだなぁ。
「さっそくお父さんに報告してくるね!」
いても立っても居られなくなって、わたしは自室のタブレットでメッセージを送るために部屋に駆けた。
「……ひなちゃんが喜んでくれてよかったね、蒼チャン」
「兄ちゃん、その呼び方やめろ」
部屋に残っていた兄弟がそんな会話をしていたなんて、リビングに戻ってきたわたしはもちろん知らない。
☆☆☆
あのゲームの一件以来、蒼太くんと家でゲームの話をすることが増えた。
なんだろう、ハードルが低くなったというか……
とにかくお父さんと懐かしのゲームにはお礼を言いたい。
「せっかくゲーム機がふたつあるし、今日はこのゲームやってみないか?」
水曜日の下校後、蒼太くんに提案されたのは『モンスター・イェーガー』という魔物狩りのゲームだ。
タイトルのとおり、キャラクターを操作して、大きな魔物の討伐を目指す。
「えっでも……わたし、下手だよ」
このゲームはとっても有名なのでわたしも興味はあったけど、難しそうでできる気がしない。
「大丈夫、俺がサポートする。配信の前に一回テストプレイしたくて……手伝ってもらえると助かる」
蒼太くん――超絶ゲームの上手いアオくんにそこまで言われて、断るわけにはいかない。
推しのお手伝い。
それはもう、がんばるしかないのでは。
「お手伝いになったらいいいいんだけど頑張ってみる」
「ありがとう」
わっ!
蒼太くんがとても嬉しそうな笑顔を見せてくれたから、わたしは驚いて固まってしまった。
ハッとした顔の蒼太くんはすぐにいつもの難しい顔に戻ったけれど、わたしの頭にはさっきの顔がしっかりとインプットされている。
前はあんな風によく笑っていた気がする。
蒼太くんはいつからこんな風にゲームが得意になったんだろう?
「じゃ、始めるぞ」
「お願いします……!」
テキパキと準備を終えた蒼太くんに言われて、わたしは慌ててゲーム機を構える。
それから二人でチュートリアルを終え、いよいよ狩りの時間だ。
「ひっ」
「わっ」
「えええっ」
「わあわあわあわあ!」
ひとり騒がしいわたしの隣で、蒼太くんは黙々とプレイをしている。
いやわたしに色々アドバイスをくれてはいるのだけど、わたしが下手くそ過ぎるせいで全然そのアドバイスを生かせていないのだ。
「……ごめん、蒼太くん」
狩場からトボトボと戻るわたしのキャラクターは、心無しかわたしのようにしょんぼりしているように見える。
「ふ。手ぶらでティラノサウルスに突っ込んで行った時はどうしようかと思った」
「あ、あれは……こう足の間をくぐろうと……!」
「いや、無理あるだろ。ふくく、普段はビビってるくせに変なところで思い切りいいよな」
わたしの行動が下手くそかつ予想外だったせいか、蒼太くんは思い出し笑いをしている。
だって、『伝セイⅢ』のボスを倒せたんだから、少しは上手くなったと思ったのだ。
蒼太くんはよっぽどそれが楽しかったらしく、まだ笑顔を見せている。
わあ、蒼太くんが笑ってくれたからいいかぁ。
わたしもそんな気持ちになってきた。
わたしがどれだけ下手くそで足を引っ張っていても、蒼太くんは怒ったりしなかった。
本当に。特攻した時だけポカーンと口を開けて、そのあと笑っていたくらい。
ゲームが好きで上手だからといって、他の人を悪く言ったり邪険にはしない。
まさにブラストのアオくんが貫いているポリシーと一緒だ。
「あ、なに、二人でゲームしてるの!? 俺も混ぜて~!」
帰ってきた紫音くんがそう言う。
「言っとくけど、市山は兄ちゃんより上手いからな」
「! 嘘だろ、ひなちゃん……」
「兄ちゃんがゲーム下手すぎなんだよ」
そっか、紫音くんは本当にゲームが苦手なんだね……!?
前もそうだったし、とわたしが納得した顔で頷いていると、それを見た蒼太くんがまた笑っていた。今日は蒼太くんがたくさん笑ってくれてわたしもうれしい。
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