8 / 57
第一章 お隣さんと同居生活
7
しおりを挟むそれから、予定通りにお昼はピザパーティーをした。
午前中のうちにみんなで近くのスーパーににアイスやお菓子を買いに行って、なんだかとってもワクワクする!
「わ、わわわ……!」
そして今は、蒼太くんと紫音くんと三人でテレビゲームをしている。
「ちょ、ひなちゃん、それ絶対俺に当てないでね~」
蒼太くんのうちにはたくさんゲームカードがあって、わたしは驚いてしまった。
蒼太くんがゲームを好きなのは知っていたけど、こんなに……!
今やっているゲームは、数ある中からわたしがやったことがあるものをということで蒼太くんが選んでくれたレースゲームだ。
それぞれキャラクターとマシンを選んで、みんなで競争する。
コースの途中にある虹色のボックスに触れたらアイテムを手に入れることができるのだ。
「え、えっと、どれを押したらいいの? ボタンがよくわからなくてっ」
「わ~~~~!」
無我夢中でコントローラーのボタンを押すと、発射されたボールが見事に紫音くんが操作するキャラクターにぶつかってしまった。
くるくるとスピンしてしまった葉っぱのようなキャラクターの横を、他のキャラたちもビュンビュンと追い抜いてゆく。
そしてわたしが操作するお姫様のキャラクターは、そのままゴールのゲートをくぐった。
「ご、ごめんね、紫音くん」
「ううん……いいんだよ、ひなちゃん」
「兄ちゃんはこのゲームだけ異常に弱いからな」
あきれた顔をしている蒼太くんは随分早くにゴールをしてしまっていて、もちろん一位だ。
もう最初から独走ですごかった。
「蒼太くん、相変わらずゲームが上手なんだね」
変わらないことがうれしくて、わたしは蒼太くんにそう言った。
紫音くんが考えてくれたこのパーティーのおかげで、ふたりとも少しだけ打ち解けられた気がする。
少なくとも、昨日この家に来る前に感じていた緊張がすっかりほどけている。
「……ありがとう。市山も結構すげーじゃん」
「え、でもわたしなんて五位だし」
「兄ちゃんなんて七位より上になったことないんだからな」
「ええっ! それは……本当に?」
ついつい疑いの目を紫音くんにむけてしまう。
勉強もスポーツもなんでもできるイメージがあるのに、とても意外だ。
「謎解きゲームなら自信あるんだけどな……」
「まあ、言っても兄ちゃんはパーティゲームとかも反応鈍いけどな」
「わ! 蒼太、それ言うなよ~」
紫音くんが蒼太くんにそう言ってすがりつくような仕草を見せる。
それに対して蒼太くんはどこか冷ややかで……
――あれ?
なんだかこの光景を目にしたことがあるような。
いや、聞いたことがあるような。
蒼太くんと紫音くんのやりとりを見ていたら不思議な気持ちになった。
ああでも、二人のやりとりを懐かしく思うのは当たり前かも。だって幼なじみだもの。
「市山。次は何やる?」
「あっ、えっと!」
考え事をしていたわたしは、急に話しかけられてワタワタとしてしまった。
ゲームが好きだからか、蒼太くんの声はいつもよりもずっと楽しそうにしている。
「よし、ひなちゃん。次はチーム戦で、蒼太をボコボコにしてやろう!」
紫音くんがいつもの笑顔でそう言う。
「……ふーん、受けて立つ」
「えっ、ええっ」
「よーし! じゃあこの風船バトルにしよう。俺たちは赤にするから、蒼太は青チームな」
「わかった」
紫音くんと蒼太くんの勢いに乗り、二回戦はカートに取り付けられた風船をより多く割ったチームが勝ちになる……というモードで遊ぶことになった。
その結果。
「なんで⁉︎ 蒼太ほんとに強すぎだろ」
「蒼太くん、すごいね……!」
ひとりでとんでもない数の風船を破壊した蒼太くんは、見事にぶっちぎりで勝利した。
な
そんな蒼太くんに風船を壊されてばかりだったらしい紫音くんは悔しそうにしている。
わたしも他のキャラクターの風船を偶然壊すことができたけど、蒼太くんは本当にすごい。
「なあなあ、蒼太。今度このゲームみんなでやってみない? 新しいゲームじゃないけど、逆に新鮮でおもしろそう」
「別にいいけど……四人プレイで?」
「蒼太と俺と……あとはカネちとモモがいればいいんじゃない?」
「わかった」
紫音くんと蒼太くんが何かの話をしている。
お友達ともこのゲームをやるのかな?
確かに、みんなでやると盛り上がって楽しいだろうな。わたしでもできるくらいだもの。
常に冷静でどんどん点数を稼いでいく蒼太くんと、風船が一個壊れる度に「うわあああ」「やられた」「ひどすぎー!」と大騒ぎしながら実況する紫音くんの対比がおもしろくて。
わたしもプレイ中についクスクスと笑ってしまったんだ。
「はー。さんざん騒いだらすごく喉渇いたな……」
立ち上がった紫音くんが飲み物を取ろうとすると、あいにく全員のグラスが空だった。
よいしょ、と立ち上がった紫音くんは冷蔵庫の方へと向かう。
「ひなちゃんは何飲む~? 蒼太は牛乳でいいよな」
「あっ、わたしが自分で……」
「いいよいいよ。うわ、母さん牛乳めちゃくちゃ買ってる……ちょ、もう全員牛乳でいくねー」
考えるのが面倒になったのか、紫音くんは一度洗った全員のグラスにコポコポと牛乳を注いだ。
喧嘩
う……牛乳……!
魅惑の真っ白の飲み物が目の前に置かれる。
蒼太くんはさっとそれを取って、またしてもあっという間に飲み干した。
本当は大好きな牛乳。
よく冷えていてとっても美味しそうだ。
「はーーーー! 牛乳うまい」
紫音くんが本当に美味しそうな声を出すものだから、わたしは誘惑に負けてグラスを手に取った。
そして、ひと口飲む。
美味しい。甘くて冷たくて、柔らかい味。
もうひと口、もうひと口……とやっている内に、わたしのグラスもすっかり空っぽになってしまっていた。
うっ……本当は大好きだったから、我慢できなかった……
「いい飲みっぷり! 蒼太もひなちゃんもおかわりいる?」
「いる」
「わたしは大丈夫、です」
即答した蒼太くんは、また牛乳を一瞬で飲み干すと、口元を拭いながらわたしの方を見た。
なんだろう?
何か言われるのかなとドキドキしていたら、しばらく無言だった蒼太くんはゲームカードを取り出した。
めん
「……市山。ほかにやりたいやつある?」
「えっ、ええっと……知ってるやつあるかなあ」
「前これもやってなかったっけ?」
「あ! 覚えてる。ふふ、わたし下手くそだったから、蒼太くんが手伝ってくれてたねえ」
このゲームは二人で敵を倒しながら進むアクションゲームなんだけど、わたしが何度も失敗してしまったのを蒼太くんに助けてもらったんだった。
幼稚園時代の楽しい思い出だ。
まだわたしが、他の子よりちょっと大きいことなんかまるで気にしていなかった頃だよねえ。
あの頃は良かったな……
なんだかちょっと切ない気持ちになりながら、その日は三人でずっと楽しくゲームをした。
33
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~
狭山ひびき@バカふり200万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。
そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。
「……わたしは、妖精が見えるの」
気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは――
心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
魔法が使えない女の子
咲間
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。
友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。
貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる