殿下、その真実の愛は偽物です

ミズメ

文字の大きさ
上 下
10 / 10

10 真実の愛

しおりを挟む
 『真実の愛』騒動からひと月後が経った。


 謹慎が解けたロイドが、真っ先にユーリアに会いに来た。そして、どこか緊張した面持ちのロイドから求婚されてユーリアは大変驚いた。

 庭園を散策しようと誘われてついていけば、東屋につくなり「話がある」と切り出されたのだ。


「ロイド、本気なの……?」

「もちろんだ。君は俺の事を弟としか思っていないかもしれないが、俺はずっとユーリアのことが好きだった」

 ユーリアの左手をとり、眼前に跪くロイドの頬と耳の先が赤く色付いている。
 幼い頃の面影がありつつも、そこにいたのは立派な青年だ。

 最初は驚いてばかりだったユーリアも、その真っ直ぐな瞳を見ているとじわじわと胸があたたかくなった。

「ええと……よろしく、お願いします。ロイド、わたくしなんかで本当にいいの?」

「本当か……! 君以外、必要ない」

 ユーリアがにっこりと微笑んで手を伸ばせば、ロイドが目を見張る。

(求婚したのはロイドなのに、驚くだなんて)


「ふふっ」

 思わず笑ってしまうユーリアに、ロイドはムッとした顔をする。
 その表情も可愛らしく思えて、ユーリアはますます笑みを深くした。



◇◇◇


(……夢のようだ)

 くすくすと楽しげに笑うユーリアを見上げていたロイドは、涙ぐみそうになって唇を噛み締めた。

 昔からユーリアのことが好きだったのだが、先に王子との婚約が決まってしまってひどくショックだったこと。

 それでも頑張るユーリアをずっと応援していたこと。

 いずれこの国の王妃となるユーリアを支えるべく、事業を立ち上げ侯爵家の領地で産出される宝石に特別な価値をつけたこと。

 ユーリアに会うと奪いたくなるからプライベートでは会わないようにしていたこと。

 これまでのことが全て報われる日が来ると思わなかった。

 あの王子もいなくなり、ロイドの事業に便乗して悪さを働いた男爵も排除された。

(手放してくれてありがとう)

  何かと腹立たしい元王太子ではあるが、愛欲に溺れて婚約破棄という愚策を講じてくれた事には感謝すらしている。

「ねえロイド。久しぶりにたくさんお話しましょう?   お菓子もたくさん用意しているの」

「……ありがとう。ユーリア」

  ユーリアの聖女のような微笑みを前に、黒い執着心を隠したロイドも喜びを頬に浮かべるのだった。


[完]

─────────

お読みいただきありがとうございました!
ミズメ
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

ニャンコ好き
ネタバレ含む
2024.09.05 ミズメ

感想ありがとうございます!
婚約破棄あるある(?)を使いつつ、ちょっと別の方向にむかってみました🥳
楽しんでいただけたなら幸いです!!

解除
こいぬ
2024.09.04 こいぬ

偶然見つけて一気読みしました。面白かったです。

2024.09.04 ミズメ

感想ありがとうございます!一気読み嬉しいです🥳

解除

あなたにおすすめの小説

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください

八代奏多
恋愛
 伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。  元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。  出ていくのは、貴方の方ですわよ? ※カクヨム様でも公開しております。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。