殿下、その真実の愛は偽物です

ミズメ

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「ああユーリア! 体調はどうだい?」

「私たちが来る前に……なんてことでしょう」


 ユーリアが目を覚ましてぼんやりと窓の外を見ていると、両親が嘆きながらやってきた。

 どうやらすごくよく寝ていたらしい。

 ユーリアは一瞬呆気に取られたが、すぐににっこりと微笑みを向ける。

 両親が婚約破棄のことを言っていることは察することが出来た。

「大丈夫です。突然のことで驚きはしましたが……」

 王太子との関係は、ずっと良いとも悪いともいえない状況だった。

 ユーリアの方が勉強が出来るのが気に食わないそぶりもあった。

 間違いを指摘すると、知識をひけらかすなと顔を真っ赤にして怒ることもあったし……なんというか、彼はまだ成熟していないと感じた。

 ユーリアだって楽をしているわけではない。

 知識があるのは、それだけ勉強をしたから。
 彼の婚約者になると決まったその日から、ユーリアは妃教育漬けの毎日だった。

 それなのに、王太子にはその事で怒られてしまう。

 だけれど。と思う。
 本来王妃はそうした王をサポートする役割であるべきなのではないだろうか。

 あの男爵令嬢のように上手く立ち回る必要があったのかも――いや、ないな。

「申し訳ありません。お父様、お母様。公爵家に泥を塗ってしまいました。私は今後結婚出来ないかと思いますので、市井に出たいと思うのですが」

 それでも、公爵家に迷惑をかけてしまうことは間違いない。
 ユーリアは昨日即座にはじき出した結論を両親へと向けた。

「!!!!ダメだ!」

「それはダメよ、ユーリアちゃん!」


 しかし!二人に謝罪の言葉を投げると、勢いよく却下されてユーリアは目を瞬かせる。

「あのぼんくらとの婚姻が成立しなかったことは今となってはめでたいことだ。まさかあそこまで阿呆だとは思わなかった」

 父は眦を吊り上げて、ものすごい形相で怒りを露わにしている。

「ええ。王妃陛下と一緒に会場に入ったらひどい状況で驚きましたわ。王太子は変な女を連れているし、皆自分の宝石のことで頭がいっぱいで」

 母もその瞳を剣呑に細める。
 王妃陛下と一緒の入場だったのか……それはなんというか――

 怒りを隠そうともしない両親は、あのあとの夜会がいかに混乱していたかをユーリアに教えてくれる。

 そして、順序を追って話してくれていたところで、二人の顔が急に綻んだ。


「――しかしまぁ、ロイド君のおかげでスッキリしたな。ははは」

「ええ。随分と溜飲が下がりました。陛下には申し訳なかったですけれど」

「彼も立派になったねぇ」

「ええ。しばらく会わないうちに、素敵なご令息に成長されましたわ」

 怒涛の勢いで会話をしていたはずの両親は、ロイドの話を始めると穏やかに戻った。

 だけれど、その内容にユーリアは目を見開く。
 あの時、出入り口付近でユーリアとすれ違ったロイドが……あのあと何をしたというのだろう。


「お父様、お母様。ロイドがどうかしましたの?」

 ユーリアが恐る恐る尋ねると、父は口ひげを撫でながら「ああ」と鷹揚に頷いた。
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