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【3】お飾り王妃 シャルロット

三年間

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「……なるほどシャルロット妃……いえ、シャル様は亡命のような形でこの国に来たのですね。次回までに、わたくしの方でも情報を集めておきます」
「うふふ。内緒よ? 私、死んだことになっているらしいから」
「はい。わかりました」

 シャルロットの部屋に素早く設けられたお茶会のようなセットで優雅なティータイムを楽しみながら、ふたりは情報を交換した。
 まずは、シャルロットがここに来た経緯を。

 レリアが抱えていたバスケットの中には茶葉や見知らぬ菓子が入っていて、あっという間にセッティングが整った。

 そしてふたりは、銀製のティーセットで香り高い紅茶を楽しむ。
 ここ三年で、一番美味しいお茶だとシャルロットは思った。

「この銀製の食器類はシャル様に差し上げます。毒物の類が混入した場合、黒く変色しますのでその場合は何も口にしないでください」
「まあ……ありがとう、レイ。何から何まで」
「毒見役もいないだなんて……この離宮の警備体制にも少し手を回させていただきます」

 はきはきと話すエクレールの様子を、シャルロットはまじまじと見つめる。
 銀髪の美しい少女。確か、今年で十四歳だと言っていた。自分よりも四つも歳下なのに、彼女の瞳や表情は、年齢よりもずっと大人びて冷静に見える。

 それこそ、六度も生を繰り返したというのであれば、彼女はその身の中に何十年も過ごした記憶があるのだ。

「私に、何か協力できることがあるかしら。ご覧のとおり、私には何もないの。この離宮でなんとなく生きているだけなのに、貴女の力になれることなんて、あるのかしら」
「姫さま……」

 シャルロットは、言いながら力なく微笑んだ。
 同席していた侍女のシュゼットは、思わず口から言葉が溢れた。仕えている姫――いまは妃だが、その彼女の表情が暗くなったのを見逃さなかった。

 戦火に巻き込まれなければ、輝く美貌の妖精姫として、どこか大国に正妃として嫁ぎ、華やかな暮らしも出来ただろう。それくらい、彼女は周囲に愛されていた。光の差す場所にいた。

 それなのに、現状はこの寂れた離宮に侍女がひとりだけの状態で三年も閉じ込められている。門番のような者もいるにはいるが、警備は手薄だ。
 食事だって、王族として暮らしていた頃とは比較にならないほど質素で、王宮から与えられる食材を元になんとかシュゼットがやりくりしている始末だ。

 それでもこの健気な姫は、この扱いに文句を言わずに、毎日にこにこと笑顔で過ごしているのだ。「この国に危ない所を助けてもらったのだから」と。

「っ、エクレール様……どうか、どうか姫さまをお救いください……!」
「シュゼット⁉︎ どうしたの」

 急に床に這いつくばるような姿でエクレールに頭を下げる侍女の姿に、シャルロットは慌てて席を立つ。
 急いでその手を引くと、侍女はぼろぼろと涙を流していた。

「私は……悔しいです。姫さまが、誰よりも幸せになれるはずだった姫さまが……! それに、結局謀略で命を落とすだなんて……!」
「シュゼット……ありがとう。私のことを、心配してくれているのね」

 堰を切ったようにすすり泣く侍女の背中を、シャルロットは優しく撫でる。
 いつもは厳しい顔をしてシャルロットを嗜めているシュゼットが、このように感情を爆発させる姿を見ることは初めてだ。

「――シャル様。シュゼットさん」

 凛としたエクレールの声に、地べたに座りこんでいたふたりは顔をあげる。
 背後から射す朝日が後光のようにエクレールを照らして、まるで女神のようだ。

「わたくしにとっても、シャル様の存在がようやく見つけた救いの道だと確信しています。なのでまた、お話を聞かせてください。お二人のお話が、糸口になる筈です」
「ええ、勿論。私で力になれることならば」

 立ち上がったエクレールは、二人に頭を下げると、控えていた侍女のレリアに向かって目配せをする。それを合図に、彼女は帰り支度を整え始めた。
 ――もう帰る時間のようだ。

「また来ます。必ず。そして次に来るときまでに、シャル様にはこの人のことを思い出していただきたいと思っています」

 ふたりが窓から飛び去る前に、レリアから渡されたのは、誰かの人物画だった。

 そこに描かれていたのは、金髪碧眼の――どこか見覚えのある人物の姿だった。

「……ロアン=パラディール、第一王子……」

 その夜。絵姿に添えられていた名前を読み上げながら、シャルロットはゆっくりと瞳を閉じた。


 

 
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