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【3】お飾り王妃 シャルロット
また朝がやってくる
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朝日の眩しさで目を覚ましたシャルロットは、数日前のことを思い出してぼんやりと窓の外を眺めていた。
不思議な夜だった。
まるで夢かと思えるくらいに。
「……エクレール嬢……」
そうぽつりと呟いた時、窓にこつりと何かがぶつかった。
気のせいだろうかと目を瞬かせていると、再度小石のようなものがこつりとぶつかる。
まさか、と思ったシャルロットは窓に駆け寄り、下を覗いてみる。
するとそこには、例のエクレールの姿と、もうひとり誰か知らない女性の姿があった。
シャルロットと目が合ったエクレールは、仕草で窓を開けるように告げる。
一瞬だけ逡巡したシャルロットは、鍵を開けて、窓を大きく開け放った。
まだいつもの起床時間よりは早く、侍女のシュゼットも来ない時間だ。
「少し窓から離れてくださいませ」
聞こえた声に、シャルロットは従うことにした。ベッドのあたりまで下がると、何か鉤のようなものが外から飛んできて、窓枠にかつりと引っ掛かる。
程なくして、二人の侵入者は息を切らすこともなく颯爽とシャルロットの部屋へと飛び込んで来た。
「おはようございます。シャルロット妃、ご機嫌いかがですか」
「おはようございます。ええっと、とても元気です」
先日の宵闇のような装束とはまた違い、今日はブラウスにパンツという乗馬をする際のようなスタイルだ。
貴族らしい華やかさもある。
「シャルロット妃殿下。こちら、わたくしの侍女のレリアですわ。今日はふたりで参らせていただきました。当然、信頼できる者です」
「――レリアと申します」
エクレールの少し後ろで、侍女だというレリアはぴっしりとした礼をする。身のこなしから、只者ではないだろうことは流石のシャルロットにも容易に想像はついた。
「さて、シャルロット妃殿下。今日は色々とお話を聞かせていただきたく参りました。準備を万全にするために」
「ええ、そうね。私も色々と気になるわ。あ、でも、その前に!」
「なんでしょう……?」
にこにこと微笑むシャルロットに、エクレールは不思議そうに首を傾げる。
そのエクレールに近づくと、シャルロットは彼女の右手を取って、両手で包み込んだ。
「せっかくこうして出会えたのだもの。私のことはシャルロット……いえ、シャルとでも呼んで欲しいわ」
「妃殿下、それは……」
「私たちは、運命共同体なのでしょう。そのくらいいいじゃない。それに、こっちに来てからお友達が出来たのは初めてだから、とても嬉しいの」
無邪気なシャルロットの様子に、エクレールは何か言おうとした言葉を、ぐっと呑み込んだ。
それに気づいて、シャルロットはことさら柔らかく微笑む。どうやら受け入れてもらえそうな雰囲気だ。それが嬉しい。
なんせ、侍女を除けば、三年もここでひとりで暮らしているのだ。話し相手がいるだけで、シャルロットはとても満ち足りた気持ちになる。
「私の我儘に、付き合ってもらえるかしら」
「……はい、シャル……様」
「ふふふ、ありがとう!」
「ちなみに、エクレール様の愛称は『レイ』です」
「まあ、では私はレイと呼ばせてもらうわね」
口を挟んだのはレリアで、エクレールが急いで振り返るともう素知らぬ顔をしている。
そうして歩み寄ったシャルロットとエクレールは、秘密の共有者として、お互いの状況について話し合うことになった。
不思議な夜だった。
まるで夢かと思えるくらいに。
「……エクレール嬢……」
そうぽつりと呟いた時、窓にこつりと何かがぶつかった。
気のせいだろうかと目を瞬かせていると、再度小石のようなものがこつりとぶつかる。
まさか、と思ったシャルロットは窓に駆け寄り、下を覗いてみる。
するとそこには、例のエクレールの姿と、もうひとり誰か知らない女性の姿があった。
シャルロットと目が合ったエクレールは、仕草で窓を開けるように告げる。
一瞬だけ逡巡したシャルロットは、鍵を開けて、窓を大きく開け放った。
まだいつもの起床時間よりは早く、侍女のシュゼットも来ない時間だ。
「少し窓から離れてくださいませ」
聞こえた声に、シャルロットは従うことにした。ベッドのあたりまで下がると、何か鉤のようなものが外から飛んできて、窓枠にかつりと引っ掛かる。
程なくして、二人の侵入者は息を切らすこともなく颯爽とシャルロットの部屋へと飛び込んで来た。
「おはようございます。シャルロット妃、ご機嫌いかがですか」
「おはようございます。ええっと、とても元気です」
先日の宵闇のような装束とはまた違い、今日はブラウスにパンツという乗馬をする際のようなスタイルだ。
貴族らしい華やかさもある。
「シャルロット妃殿下。こちら、わたくしの侍女のレリアですわ。今日はふたりで参らせていただきました。当然、信頼できる者です」
「――レリアと申します」
エクレールの少し後ろで、侍女だというレリアはぴっしりとした礼をする。身のこなしから、只者ではないだろうことは流石のシャルロットにも容易に想像はついた。
「さて、シャルロット妃殿下。今日は色々とお話を聞かせていただきたく参りました。準備を万全にするために」
「ええ、そうね。私も色々と気になるわ。あ、でも、その前に!」
「なんでしょう……?」
にこにこと微笑むシャルロットに、エクレールは不思議そうに首を傾げる。
そのエクレールに近づくと、シャルロットは彼女の右手を取って、両手で包み込んだ。
「せっかくこうして出会えたのだもの。私のことはシャルロット……いえ、シャルとでも呼んで欲しいわ」
「妃殿下、それは……」
「私たちは、運命共同体なのでしょう。そのくらいいいじゃない。それに、こっちに来てからお友達が出来たのは初めてだから、とても嬉しいの」
無邪気なシャルロットの様子に、エクレールは何か言おうとした言葉を、ぐっと呑み込んだ。
それに気づいて、シャルロットはことさら柔らかく微笑む。どうやら受け入れてもらえそうな雰囲気だ。それが嬉しい。
なんせ、侍女を除けば、三年もここでひとりで暮らしているのだ。話し相手がいるだけで、シャルロットはとても満ち足りた気持ちになる。
「私の我儘に、付き合ってもらえるかしら」
「……はい、シャル……様」
「ふふふ、ありがとう!」
「ちなみに、エクレール様の愛称は『レイ』です」
「まあ、では私はレイと呼ばせてもらうわね」
口を挟んだのはレリアで、エクレールが急いで振り返るともう素知らぬ顔をしている。
そうして歩み寄ったシャルロットとエクレールは、秘密の共有者として、お互いの状況について話し合うことになった。
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