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【1】お飾り王妃 シャルロット
六度目
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随分と話し込んだ後、銀髪の少女はまた宵闇の装束のフードを深く被り、夜明け前に去っていった。
あの俊敏で身軽な身のこなしで、公爵令嬢。
全くイメージが結びつかない。
「……今回はかなり鍛錬したと言っていたものね」
ベッドに突っ伏した状態で、シャルロットはひとりごちた。
彼女の話を聞いて、すっかり目が冴えてしまった。だというのに、夢見心地のようにどこかふわふわもしている。
『まず……信じてもらえないかも知れませんけれど、わたくし、今回で6度目の生ですの』
彼女のその言葉と瞳は、とても嘘偽りを言っているようには見えなかった。
6度目、それが意味する所は、彼女に過去5回の死の記憶があるということ。
エクレールは、シャルロットも5回死んでいると言っていた。だが、幸いなことに、シャルロット自身にその認識はない。
今だって、ただ一度の生を何とか生き抜こうとしているだけだ。
『わたくしは毎回、婚約者である第一王子に公衆の面前で婚約破棄を申し付けられ、断罪されます。過去5回、なんとかその運命を回避出来ないかともがきましたが、ダメでしたわ。そして、また今生がやってきましたの』
エクレールは、黙って話を聞いているシャルロットに皮肉げな微笑を見せた。
6度目の生、5度の失敗。
1度目の生では、確かに彼女も王子を愛していたらしい。金髪碧眼の、それはそれは麗しい姿をしているそうだ。
だが彼は、いつの頃からか婚約者であったエクレールを邪険に扱うようになり、その傍らには桃色の髪をした伯爵令嬢がいつもくっついているようになる。
嫉妬に駆られた公爵令嬢エクレールは、その礼儀知らずな令嬢に対して色々と手酷い嫌がらせをしたらしい。それは1回目の話だそうだけれど。
……そして、断罪された。
『――そして目を覚ますと、わたくしはまた十歳に戻っていました。そして反省し、次は婚約を回避しようとしました。ですけれど、それは出来なかった。ならばと思って件の伯爵令嬢の様子を静観していたのですけれど……盲目というかなんというか、王子は嫌がらせの犯人はわたくしと決め込んでいらっしゃいました。結果は同じでしたわ』
二度目、三度目と、彼女は同じことを繰り返さないように努力をした。
少しは変わることもあったが、結果は同じ。
何が原因なのかと真相の究明に努め、前回ようやく糸口を見つけた、という。
「それが私だなんて、一体どういうことなのかしら……?」
エクレール公爵令嬢とただ身分だけを与えられたお飾り王妃であるシャルロット。その生に絡む共通点など何も見出せない。
これまでも、これからも、きっと交わらない人生だったはずだ。
詳しくはまた話す、と言ってエクレールはもう帰ってしまった。
「第一王子……どんな御方だったかしら」
かつて国同士で交流があった幼い頃に、会ったことがあるような気がする。
記憶の中のその人の姿を呼び覚まそうと、シャルロットは静かに瞳を閉じた。
輝かしい金の髪を揺らし、ふっくらとした頬の幼い天使が、シャルロットの方に駆けて来る。
――この子が、そうなのかしら……
いつの間にかシャルロットの意識は溶けて、そのまますやすやと眠りについていた。
あの俊敏で身軽な身のこなしで、公爵令嬢。
全くイメージが結びつかない。
「……今回はかなり鍛錬したと言っていたものね」
ベッドに突っ伏した状態で、シャルロットはひとりごちた。
彼女の話を聞いて、すっかり目が冴えてしまった。だというのに、夢見心地のようにどこかふわふわもしている。
『まず……信じてもらえないかも知れませんけれど、わたくし、今回で6度目の生ですの』
彼女のその言葉と瞳は、とても嘘偽りを言っているようには見えなかった。
6度目、それが意味する所は、彼女に過去5回の死の記憶があるということ。
エクレールは、シャルロットも5回死んでいると言っていた。だが、幸いなことに、シャルロット自身にその認識はない。
今だって、ただ一度の生を何とか生き抜こうとしているだけだ。
『わたくしは毎回、婚約者である第一王子に公衆の面前で婚約破棄を申し付けられ、断罪されます。過去5回、なんとかその運命を回避出来ないかともがきましたが、ダメでしたわ。そして、また今生がやってきましたの』
エクレールは、黙って話を聞いているシャルロットに皮肉げな微笑を見せた。
6度目の生、5度の失敗。
1度目の生では、確かに彼女も王子を愛していたらしい。金髪碧眼の、それはそれは麗しい姿をしているそうだ。
だが彼は、いつの頃からか婚約者であったエクレールを邪険に扱うようになり、その傍らには桃色の髪をした伯爵令嬢がいつもくっついているようになる。
嫉妬に駆られた公爵令嬢エクレールは、その礼儀知らずな令嬢に対して色々と手酷い嫌がらせをしたらしい。それは1回目の話だそうだけれど。
……そして、断罪された。
『――そして目を覚ますと、わたくしはまた十歳に戻っていました。そして反省し、次は婚約を回避しようとしました。ですけれど、それは出来なかった。ならばと思って件の伯爵令嬢の様子を静観していたのですけれど……盲目というかなんというか、王子は嫌がらせの犯人はわたくしと決め込んでいらっしゃいました。結果は同じでしたわ』
二度目、三度目と、彼女は同じことを繰り返さないように努力をした。
少しは変わることもあったが、結果は同じ。
何が原因なのかと真相の究明に努め、前回ようやく糸口を見つけた、という。
「それが私だなんて、一体どういうことなのかしら……?」
エクレール公爵令嬢とただ身分だけを与えられたお飾り王妃であるシャルロット。その生に絡む共通点など何も見出せない。
これまでも、これからも、きっと交わらない人生だったはずだ。
詳しくはまた話す、と言ってエクレールはもう帰ってしまった。
「第一王子……どんな御方だったかしら」
かつて国同士で交流があった幼い頃に、会ったことがあるような気がする。
記憶の中のその人の姿を呼び覚まそうと、シャルロットは静かに瞳を閉じた。
輝かしい金の髪を揺らし、ふっくらとした頬の幼い天使が、シャルロットの方に駆けて来る。
――この子が、そうなのかしら……
いつの間にかシャルロットの意識は溶けて、そのまますやすやと眠りについていた。
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