偽装同棲始めました―どうして地味子の私を好きになってくれないの?

登夢

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第2部 帰郷・お見合い編

19.突然の訪問に驚きました!

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私は母の手術の2日前に実家に帰ってきた。すでに術前の検査を終えて、明日入院、明後日に手術の予定だった。間に合って良かった。母は、見た目はいたって元気だった。

私の顔を見て「ごめんね、心配をかけて」と言って泣いていた。私が「これからはずっとそばにいるから安心して」と言ったら、また泣いていた。親一人子一人で寂しかったのだろう、これからは少しでも親孝行しようと思った。

幸い、手術は成功して、術後の経過も良好で3週間後に退院できた。安心した。ただ、抗がん剤を服用していることもあり、当分は自宅療養することになった。

それで母の実家の伯父さんに頼まれて母が手伝っていた経理の仕事を私が手伝うことになった。大学の専門は経営や経理だったので、それが生かせて丁度良かった。派遣社員のころはここまで任せてもらえなかった。やはり親族だから信頼できるみたい。

伯父の店に通勤する時も東京で会社に勤めていた時と同じ地味なスタイルにしている。社長の親族なので目立たないためといらぬ気遣いをさせないためでもある。

故郷へ帰って来てから3か月位経って、生活にも仕事にも慣れたころに、伯父の社長に呼ばれた。

「『澤野』の女将さんが結衣に会いたいと言ってきている。都合はどうかと聞いているがどうする? 同業の付き合いもあるから、俺の顔を立てて会ってくれるといいんだが」

「なぜ私に会いたいのか分かりませんが、いいですよ。事務所の応接室を使わせてもらっていいですか?」

「自由に使っていいから」

「それじゃ、仕事が終わった夕方の6時過ぎならかまいませんが」

「そう伝える」

************************************
それで今日の6時に『吉野』の本店の応接室で会うことになった。応接室にお見えになったと言うので、応接室をノックして入った。

そこに座っていたのはあの時マンションで紹介された篠原さんのお母さまだった。驚いて「あっ」と声を出してしまった。

「驚いたところを見ると、やはりあの時のお嬢さんですね」

とっさのことで、それを否定することができなくて、頷いていた。

「どうして、ここに?」

「あなたに会いに、そしてお願いに来ました」

それからお母さまはここへ私に会いに来るまでの話をしてくれた。

あれからお父さまと帰ってきてから、すぐに東京の知人に興信所を紹介してもらい、私たち二人のことを調査してもらったそうだ。

そして紹介された石野絵里香さんと同居している地味な白石結衣さんがおそらく同一人物であろうことも分かったという。

二人の監視を依頼しておいたところ、息子の出張中に結衣さんが転居し、その転居先が同郷のこの地で、実家の住所も分かったそうだ。

それから、私の身辺調査をここの興信所に依頼して、私がなんと菓子店『吉野』の社長の姪であることが分かったという。それで叔父の社長に頼んで直接私に会いに来たとのことだった。

それから同居のいきさつを教えてほしいというので、会社での出会いから、同居中の生活やら、合コンに石野絵里香に変装して行ったら息子さんがいて人目ぼれされて、遂にはその変装した絵里香の身代わりを頼まれてご両親に会ったことなどをありままに話した。

それから母親が乳がんで手術することになったので、息子さんには黙って、東京から引っ越して来たことも話した。

「私達親が結婚に反対したので、息子には黙って、身を引いて引越をされたのですね」

「それもありますが、ずっと同居していた地味な私より、一目ぼれした可愛くて綺麗な絵里香が良いと言うので」

「ごめんなさいね。あの子は昔からちょっと寂しげな可愛い子が好きだったから。今もその石野絵里香さんと一緒に生活していると嘘を言っているのよ。許してくれるまでは帰らないと言って」

「お母さまは私がここにいることを教えるつもりですか?」

「あなたはどうしてほしいの? 知らせてほしいの?」

「どうしたらいいのか分かりません。東京での生活とは決別して帰ってきたつもりです。もう元通りにはいかないような気がしています」

「私には、真一があの時言っていた『俺の好きな人と結婚させてくれ』と言う言葉がずっと耳に残っているのです。あの言葉、以前、私の夫が、結婚を反対していた自分の両親の前で言った言葉なんです。始めは私たちも結婚を反対されていました。でも夫が『どうしても俺の好きな人と結婚させてくれ』と言って譲らなかったのです。だから私は真一の希望をかなえてやりたいと思っています」

「私はどうすればいいんですか?」

「私は真一がいずれここへ戻って来て、店を継ぐことになると思っています。夫も歳をとってきました。このごろは真一に店を継いでほしいといつも言っています。あの子はきっと戻ってきます。そういう優しいところがある子です。その時は、真一との結婚を考えてもらえませんか?」

「私にそれまで待っていてくれとおっしゃるのですか?」

「いいえ、真一がいつ帰って来るかも分かりませんから、そんな無理なことは申しません。良い方が見つかったらその方と結婚してください。その時はご縁がなかったということですから、そこまでお願いするつもりは毛頭ありません」

「分かりました。もし、そういう時が来たら息子さんとの結婚を考えてみます。もちろん息子さんのお気持ち次第ですが」

「そう言っていただけてほっとしました。ここへあなたに会いに来たかいがありました」

篠原さんのお母さまはそういうと嬉しそうに帰っていった。「時々お電話してもよろしいでしょうか?」というので携帯の番号を教えてあげた。

社長の伯父から「『吉野』の女将さんはどういう用事できたんだ」と聞かれたので「私の友人のことを聞きたくてお見えになった」と答えておいた。
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