上 下
17 / 27
第1部 都会・同居編

17.恋人の代役を頼まれた!

しおりを挟む
いつまでも地味な結衣と可愛い絵里香を演じ分けていることができなくなる事態になった。大変なことを頼まれてしまった。

「白石さん、お願いがあるんだけど、リビングダイニングに来てくれないか?」

「どうしたんですか?」

呼ばれて出て行くとこのトレーナースタイルをじっと見られた。これが部屋で一番着ていて楽でリラックスできる。

「親父とお袋がこの週末にここに押しかけてくることになった」

「それがどうかしたのですか?」

「故郷へ帰って見合い結婚をして、実家の後を継げとうるさいんだ」

「私とは関係のない話ですが」

「俺がここを出ていくと白石さんもここを出ていかなければならなくなるぞ。それでもいいのか?」

「いつかはそうなるでしょうから、覚悟はできています。でも今すぐと言う話でもないでしょう」

「そのとおり。今、俺はその気がない。好きな娘ができたんだ。だから時間が必要なんだ」

「その人とちゃんと付き合っているんですか?」

「何で俺が君に彼女との関係を説明しなければならないんだ」

「私にお願いってなんですか?」

「彼女の代わりに俺の恋人になって両親に会ってもらいたいんだ」

「本人に頼めばいいじゃないですか」

「頼めるくらいなら君に頼んだりしないだろう」

「ほかに何人も恋人の役を引き受けてくれる人がいるじゃないですか? あの恵理さんに頼んだらどうですか?」

「恵理に頼んで本気になったらどうする。後始末がもっと大変だ」

「私なら、後始末は簡単だとおっしゃるんですか?」

「もともと恋愛関係にはならないと賃貸雇用契約書に書いてある」

「確かに書いてあります」

「衣服や準備にかかる費用は俺がすべて負担する」

「私ならお金で済むと言う訳ですか?」

「契約の範囲内だと思うけど、時給は10倍出してもいいから、どうしても引き受けてくれないか?」

「引き受けた後はもっと難しいことになるかもしれませんが、良いのですか?」

「どういう意味だ? 俺の恋人になりたいのか?」

「いいえ、私よりもあなたの問題です」

「お引き受けする前に聞いておきたいのですが、あなたはその人のことをどう思っているのですか?」

「本当は俺にもよく分からないんだ。でも彼女にとても惹かれるんだ。初めての経験だから何と言って良いか分からない」

「気持ちが固まっている訳ではないんですか?」

「よく分からないんだ。だから時間が欲しい」

「時間稼ぎのためですか?」

「親に恋人と同棲しているところを見せると少なくともお見合いはあきらめるだろう。今はそんな気にはなれない。時間稼ぎと言えばそうかもしれない」

「私はどうすればいいんですか?」

「両親は俺の好みを知っている。俺の好みの服装、髪形などをそれらしくしてほしい。きっと信じる」

「両親はいつここへいらっしゃるんですか?」

「土曜日の3時に来ると言っている。そしてここに泊まりたいと言っている」

「ここに泊まるんですか?」

「そうだ」

「私との同居を言っていないのですか?」

「言う訳ないだろう」

「じゃあ、私はどうすればいいのですか?」

「両親は俺の部屋に泊める。ダブルベッドだから二人でも寝られるし、俺が来る前はそうしていたらしい」

「あなたはどうするんですか」

「ソファーでもいいが、それはまずい、恋人と一緒に住んでいるということにしたいから、君の部屋に泊めてくれ」

「困ります」

「頼むよ、誓って何もしないから」

「少し考えさせてください」

私は自分の部屋に戻ってきた。篠原さんはこの私に絵里香の代役をしてほしいと言っている。引き受けるのは簡単だけど、そのあとはどうなるだろう。

まず、この地味な私があの絵里香と分かって動転することは間違いない。それから両親になんと言って紹介するのだろう。恋人の白石結衣と言うのか、それとも石野絵里香と紹介するのだろうか?

恋人と同棲していると言ったら、ご両親はどういう反応をするだろう。すぐには認めないに違いない。だってお見合いの話を持ってくるのだから、そういう人と結婚させたいに決まっている。

その場で言い合いになるのは目に見えている。そして喧嘩別れ。篠原さんの計画どおり時間稼ぎはできる。それからの展開は予想できない。彼が私に対してどういう態度をとるか? 私もどうしてよいか分からない。

いずれにしても、遅かれ早かれいつかは私が絵里香だと篠原さんに言わなければならない。それが今度の土曜日なだけと考えよう。いくら考えてもなるようにしかならない。

そう思って、部屋からリビングダイニングへ出てきた。篠原さんはコーヒーを飲んで待っていた。

「お引き受けします。土曜日の午前中に一緒に出掛けてあなたの気に入った服を買って下さい。帰ってから準備します」

「ありがとう」

「これはあなたの責任ですることです。これだけは承知しておいてください」

彼は引き受けることで安心したようで、この言葉の意味は全く理解していなかった。

************************************
土曜日は、篠原さんの実家から電話が入って、来ることが確認できたら、ショッピングに出かける予定にしていた。9時に電話があって、こちらに着くのは3時頃だと言うので、すぐに出かけることになった。

二人で渋谷まで出かけて服を選んだ。彼は絵里香に似合いそうだと言ってシックなワンピースを選んだ。試着してみても、まあ、センスは悪くない。迷っている時間はない。すぐそれに決めた。彼が支払いを済ませた。

それから絵里香がしていたような髪形を私に説明して同じ髪形にしてくれと頼まれた。それはお安い御用、私は髪をカットして帰るといってその場で分かれた。彼は私に必要額を渡してくれて、一人でマンションに戻った。

カットはすぐに終わった。すこし髪が長くなっていたので丁度良かった。12時過ぎにはマンションに帰ってくることができた。

「お昼は何か召し上がりましたか?」

「いや、余り食欲がない」

「サンドイッチを買って来ました。一緒に食べませんか?」

「ああ、一切れもらうとするか? コーヒーを入れてあげよう」

「ありがとうございます」

篠原さんはサンドイッチを一切れ食べただけで、食欲がないみたい。私は気合を入れておかないといけないので、しっかり食べた。

「それで、これからのことだけど、両親が3時ごろに来るから、これから準備をして、俺が呼ぶまで自分の部屋にいてほしい。両親に事前の説明を終えてから、君を紹介するから、恋人の振りをしてくれていればいい。特段、話もしなくていい。すべて俺が話す。いいね」

「分かりました」

「ああ、それからもちろんメガネは外してね。それにお化粧もしっかりしてね、頼むよ。成否は白石さんにかかっているから」

「分かっています」

私は準備のために部屋に戻ってきた。これから絵里香に変身する。ご期待にお応えして立派に絵里香を演じますとも! でもあとは知らないから!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春の雨に濡れて―オッサンが訳あり家出JKを嫁にするお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。なお、本作品はヒロイン目線の裏ストーリー「春の雨はあたたかい」のオリジナルストーリーです。 春の雨の日の夜、主人公(圭)は、駅前にいた家出JK(美香)に頼まれて家に連れて帰る。家出の訳を聞いた圭は、自分と同じに境遇に同情して同居することを認める。同居を始めるに当たり、美香は家事を引き受けることを承諾する一方、同居の代償に身体を差し出すが、圭はかたくなに受け入れず、18歳になったら考えると答える。3か月間の同居生活で気心が通い合って、圭は18歳になった美香にプロポーズする。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...