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21.野坂さんの迷い!
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週の半ばの昼休みに野坂さんから内線電話が入る。
「今日、空いてない? 相談したいことがあるけど」
「珍しいね、相談したいなんて」
「どこか落ち着いて話せるところある?」
「この前の表参道のスナックでいい?」
「いいわ」
「7時でどう?」
「わかった。その時話すわ」
***************************************
表参道のスナック「凛」はママが代わって営業していた。少し前にひょっとしてと思って前を通ったら営業していたので入ってみた。
看板は『凛』のままだったが、やはりママは知らない人だった。以前に来たことがあるといったら、ここを譲り受けたと言っていた。
おそらく、凛の知人か親しい人だと思い、聞いてみたら、ママとは懇意にしてもらっていたと言っていた。おそらく昔の仲間だろう。それ以上は詳しくは聞かなかった。雰囲気からそれと分かるきれいなママだった。
水割りを飲んでいると野坂さんがやってきた。
「ごめん、私の方から頼んだのに遅れてしまって。急に取材の打合せが入ってしまったの」
「忙しいんだね。身体の方は大丈夫かい? 僕みたいに身体を壊すなよ」
「ありがとう。健康には気を付けているわ。ジムに通って運動もしている。私も水割りお願いします」
「ママが代わったのね」
「前のママから譲り受けたといっていた」
「何か食べる?」
「食べる気にならないの」
「じゃあ、つまみにチーズとナッツを頼もう。空きっ腹で飲むと良くないからね。ところで相談って何?」
「うーん、ある人から、私が好きだと告白されて」
「へー、のろけか? それで何を相談したいの?」
「どうすればいいのか、あなたは彼女と付き合う時、どう決心したの?」
「そんなことは人それぞれだから、それに男と女は違うだろうし、僕の場合が参考になるのかな? それに君だって今までいろんな人と付き合ってきたんだろう」
「私、男性と付き合ったことがないのよ」
「僕とも、気楽に飲んでいたじゃないか」
「あなたとは、ただの同期としてのお付き合い」
「やっぱりね、男性としては意識されていなかったのか」
「私は男の兄弟ばかりだったから、男の子と張り合って生きてきたように思うの、小学生の時から学生時代もずっと、だから男の人を好きになれなかったみたい」
「会社に入ってからも張り合っていた?」
「そうね、そのままだったわ、今もそうかもね」
「でもオシャレに気を使っている」
「オシャレは女の武器、同性に対しても、センスが問われるから」
「男性に関心はなかったのか?」
「今まで仕事優先で来たので、男性は張り合う相手だから関心がなかったの。男性としてみるのなら、同年代ではもの足りなくて、40代位の年上の男性が丁度いい感じと思っていたわ」
「野坂さんは学生時代にはモテモテで、いろんな人と付き合っていたのだろうと思っていた。でも今は付き合っている人はいないだろうと」
「学生時代にいろいろな人と付き合ってはいたけど、好きだったからじゃないの、好きになった人はいなかったわ」
「なんとなく分かる」
「それで、ある人から突然好きだから付き合ってくださいと言われて」
「どうしていいのか分からないというのか?」
「好きだと言われたことがなかったから」
「信じられないな、野坂さんが言われたことがないって」
「本当になかったのよ」
「確かに、君には近寄りがたいオーラがあるからね」
「オーラだなんて」
「その彼は勇気があるね、よっぽど君が好きなんだろう」
「私には初めてのことで、どうしてよいか分からなくて」
「どうなの? 好きだから付き合ってくれと言われて?」
「すぐに返事できないから、時間がほしいと言ったけど、よく考えてみると嬉しいような」
「嬉しいような? その時、すぐに断らなかったのは、まんざらでもないからじゃないのか?」
「そう、すぐに断れなかった。迷ったの、どうしてか分からなかった。好きと言われて嬉しかったの、誰かに好かれるってとっても嬉しいことだとその時に思ったの。私って今まで、誰からも好きって言われたことがなかったのに気がついて」
「それなら、受け入れて付き合ったらいいじゃないか」
「迷いがあるの、なぜ迷っているか分からないけど」
「何が気になる?」
「私の後輩で年下なの」
「僕の経験から言うと、相手が誰であっても迷いはあるものだ。でも迷っているうちに僕は大事な人を何度も失った。だから思い切ってそれを乗り越えることが大切だと今は思っている」
「この迷いって何なのかしら」
「体裁、世間体、自身が作っている壁とか思い込みと言っていいのかもしれない。そのようなものだと思う」
「体裁なんか、自分が考えるほど周りの人は気にしていないから、自分の思い込みだ。自分のしたいようにすること、迷いとか壁とかを吹っ切って、自分の思いに素直になることが大切だと思う。思いが強ければ勇気をもって素直にそれに従うことだ」
「ありがとう、よく考えてみるわ」
「ところで、その相手は誰?」
「今は言えない、そのうちに分かるから。ありがとう相談にのってくれて」
「いや、君も米山さんの相談にのってくれたみたいだから、ありがとう」
新庄君は野坂さんに告白したみたいだ。二人とも同じ有名大学卒で年齢が3歳年下というだけで、理想的なカップルだと直感的にそう思う。年の差なんて年を経るにしたがって個人差の中に埋没して無きに等しいことだと思う。
すべての望みにかなった相手などありえない。すべて望みにかなったとしても付き合っていれば欠点も見えてくる。理想のカップルに見えていても離婚することもある。見方をかえれば、自分にも欠点や至らないところはいっぱいある。お互いにすべてを受け入れるしかない。
大体すべて条件がそろっている相手なんかいない。それはあくまで自分の理想だ。まして体裁なんか考えていたらだめだ。僕は自分の思いに素直になって、大切なものを手に入れることができたのだから。野坂さんにもそうして欲しい。
「今日、空いてない? 相談したいことがあるけど」
「珍しいね、相談したいなんて」
「どこか落ち着いて話せるところある?」
「この前の表参道のスナックでいい?」
「いいわ」
「7時でどう?」
「わかった。その時話すわ」
***************************************
表参道のスナック「凛」はママが代わって営業していた。少し前にひょっとしてと思って前を通ったら営業していたので入ってみた。
看板は『凛』のままだったが、やはりママは知らない人だった。以前に来たことがあるといったら、ここを譲り受けたと言っていた。
おそらく、凛の知人か親しい人だと思い、聞いてみたら、ママとは懇意にしてもらっていたと言っていた。おそらく昔の仲間だろう。それ以上は詳しくは聞かなかった。雰囲気からそれと分かるきれいなママだった。
水割りを飲んでいると野坂さんがやってきた。
「ごめん、私の方から頼んだのに遅れてしまって。急に取材の打合せが入ってしまったの」
「忙しいんだね。身体の方は大丈夫かい? 僕みたいに身体を壊すなよ」
「ありがとう。健康には気を付けているわ。ジムに通って運動もしている。私も水割りお願いします」
「ママが代わったのね」
「前のママから譲り受けたといっていた」
「何か食べる?」
「食べる気にならないの」
「じゃあ、つまみにチーズとナッツを頼もう。空きっ腹で飲むと良くないからね。ところで相談って何?」
「うーん、ある人から、私が好きだと告白されて」
「へー、のろけか? それで何を相談したいの?」
「どうすればいいのか、あなたは彼女と付き合う時、どう決心したの?」
「そんなことは人それぞれだから、それに男と女は違うだろうし、僕の場合が参考になるのかな? それに君だって今までいろんな人と付き合ってきたんだろう」
「私、男性と付き合ったことがないのよ」
「僕とも、気楽に飲んでいたじゃないか」
「あなたとは、ただの同期としてのお付き合い」
「やっぱりね、男性としては意識されていなかったのか」
「私は男の兄弟ばかりだったから、男の子と張り合って生きてきたように思うの、小学生の時から学生時代もずっと、だから男の人を好きになれなかったみたい」
「会社に入ってからも張り合っていた?」
「そうね、そのままだったわ、今もそうかもね」
「でもオシャレに気を使っている」
「オシャレは女の武器、同性に対しても、センスが問われるから」
「男性に関心はなかったのか?」
「今まで仕事優先で来たので、男性は張り合う相手だから関心がなかったの。男性としてみるのなら、同年代ではもの足りなくて、40代位の年上の男性が丁度いい感じと思っていたわ」
「野坂さんは学生時代にはモテモテで、いろんな人と付き合っていたのだろうと思っていた。でも今は付き合っている人はいないだろうと」
「学生時代にいろいろな人と付き合ってはいたけど、好きだったからじゃないの、好きになった人はいなかったわ」
「なんとなく分かる」
「それで、ある人から突然好きだから付き合ってくださいと言われて」
「どうしていいのか分からないというのか?」
「好きだと言われたことがなかったから」
「信じられないな、野坂さんが言われたことがないって」
「本当になかったのよ」
「確かに、君には近寄りがたいオーラがあるからね」
「オーラだなんて」
「その彼は勇気があるね、よっぽど君が好きなんだろう」
「私には初めてのことで、どうしてよいか分からなくて」
「どうなの? 好きだから付き合ってくれと言われて?」
「すぐに返事できないから、時間がほしいと言ったけど、よく考えてみると嬉しいような」
「嬉しいような? その時、すぐに断らなかったのは、まんざらでもないからじゃないのか?」
「そう、すぐに断れなかった。迷ったの、どうしてか分からなかった。好きと言われて嬉しかったの、誰かに好かれるってとっても嬉しいことだとその時に思ったの。私って今まで、誰からも好きって言われたことがなかったのに気がついて」
「それなら、受け入れて付き合ったらいいじゃないか」
「迷いがあるの、なぜ迷っているか分からないけど」
「何が気になる?」
「私の後輩で年下なの」
「僕の経験から言うと、相手が誰であっても迷いはあるものだ。でも迷っているうちに僕は大事な人を何度も失った。だから思い切ってそれを乗り越えることが大切だと今は思っている」
「この迷いって何なのかしら」
「体裁、世間体、自身が作っている壁とか思い込みと言っていいのかもしれない。そのようなものだと思う」
「体裁なんか、自分が考えるほど周りの人は気にしていないから、自分の思い込みだ。自分のしたいようにすること、迷いとか壁とかを吹っ切って、自分の思いに素直になることが大切だと思う。思いが強ければ勇気をもって素直にそれに従うことだ」
「ありがとう、よく考えてみるわ」
「ところで、その相手は誰?」
「今は言えない、そのうちに分かるから。ありがとう相談にのってくれて」
「いや、君も米山さんの相談にのってくれたみたいだから、ありがとう」
新庄君は野坂さんに告白したみたいだ。二人とも同じ有名大学卒で年齢が3歳年下というだけで、理想的なカップルだと直感的にそう思う。年の差なんて年を経るにしたがって個人差の中に埋没して無きに等しいことだと思う。
すべての望みにかなった相手などありえない。すべて望みにかなったとしても付き合っていれば欠点も見えてくる。理想のカップルに見えていても離婚することもある。見方をかえれば、自分にも欠点や至らないところはいっぱいある。お互いにすべてを受け入れるしかない。
大体すべて条件がそろっている相手なんかいない。それはあくまで自分の理想だ。まして体裁なんか考えていたらだめだ。僕は自分の思いに素直になって、大切なものを手に入れることができたのだから。野坂さんにもそうして欲しい。
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