上 下
24 / 40

24.ストーカー追跡事件―勘違いにもほどがある!

しおりを挟む
4月から久恵ちゃんが勤め始めた。勤めるに当たって僕は社会人の先輩として父親として心構えを話してあげた。

「職場には自分と相性の良い上司と相性の悪い上司がいるのが分かるようになると思うけど、どちらも必要なんだ。僕も会社で両方の上司に付き合ってきたけど、大体、良い上司と悪い上司には交互に仕えるようになっているみたいだ。良い上司はスキルを身につけさせてくれる。一方、悪い上司は忍耐を身につけさせてくれる。両方にうまく仕えていかないと、職場では生き抜いていけないよ」

「パパ、ためになる話ありがとう」

「久恵ちゃんなら、きっとうまくやっていける」

ホテル勤務は早く帰る早番の日と遅く帰る遅番の日がある。ただ、早番の日の出勤は朝早く、遅番の日の出勤は昼からでいいので勤務時間は変わらないという。

遅番の日は午後11時ごろには帰ってくるが、顔を見るまでは心配だ。ここのところ遅くなる日は誰かにつけられているような気がすると言っていた。

まあ、この辺でストーカーとか不審者のうわさはなかったが、帰りは必ず大通り沿いの歩道を歩くように言っておいた。

11時過ぎに久恵ちゃんから携帯に電話が入った。

「パパ、やっぱり誰かにつけられている。歩くのを早めると早くするし、遅くすると遅くして一定の距離を保っている。怖い。すぐ迎えに来て」

「分かった。今どこ?」

「大通りを渡って、こちら側を歩いて、半分くらいのところ」

「すぐ行くから、落ち着いて」

すぐに玄関から駆け出して、階段を駆け下りて、大通りへ走った。

50mほど駆け足で進むと、久恵ちゃんの姿が見えたので、安心した。久恵ちゃんも僕が迎えに来たと分かって、足を速めてこちらへ近づいてきた。

久恵ちゃんの顔が引きつっている。僕に抱きついた。しっかりと抱きしめる。こんなことはめったにない。いや初めてだ。華奢な身体、良い感じだ。

いや浮かれていてはいけない。危機は去っていない。僕はすぐに後ろからくる男に身構えた。

「あれ、山本さんじゃないですか」

「今晩は、川田さん」

「どうしたんですか、そちらはお嬢さんですか?」

「まあ、そういったものです」

「誰?」

「丁度上の階に住んでいる山本さんだよ」

「ストーカーじゃないの?」

「まず、大丈夫だと思う。奥さんもおられるし」

「なんで知っているの?」

「一昨年、マンションの自治会の役員を一緒にしていたから」

「そうなの」

「山本さん、この娘がストーカーにつけられているというので、迎えに出てきました。どうも山本さんをストーカーと間違えたみたいです」

「そうですか。それは申し訳なかったです。この時間ですから、僕もストーカーか何かに間違えられないように、帰りが同じになるとお嬢さんとはいつも一定の距離を取ってあまり近づかないように歩いていました。帰るところが同じだから誤解されたみたいですね」

「速足で歩くと、速足でついてくるので怖かったです」

「僕も早く家へ帰りたかったので、一定の距離が空いていればいいと思って、速度を合わせました。誓ってストーカーなんかじゃないから」

「それなら安心しました。これからは声をかけて一緒に帰って下さい。安心ですから」

「そうします」

やれやれ勘違いでよかった。でも万が一のことがあるかもしないから用心に越したことはない。久恵ちゃんはマンションの住人とはほとんど顔を合わす機会がないからこういうことも起こるかもしれない。

久恵ちゃんとの二人だけの生活が誰からも干渉されることなく送れるのはいいことだけど、二人のほかの住人は誰も知らないというのはどうなんだろう。

知らないもの同士でお互いに干渉しないのもいいのかもしれないが、不審者がいても分からないから、同じマンションの住人の顔ぐらいは知っておきたい。だから、自治会の会合にはできるだけ出るようにしている。

部屋に帰ってくると早速小言を言われた。

「さっき、山本さんからお嬢さんですか? と聞かれたときに、『まあ、そういったものです』とか言っていたけどそれはないでしょう。ちゃんと言ってください。誤解されます」

「なんて」

「管理人さんに言ったように妻ですと。ここでは妻ということになっているのですから、辻褄が合わなくなります」

「でもそうは言えないだろう」

「だったら、正確に義理の姪というべきだったのでは、誤解されます」

「ごめん、今度から気を付ける」

確かに「まあ、そういったものです」はまずかった。でも、妻と言ったらもっと誤解される。これは言いがかりだと思う。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

春の雨に濡れて―オッサンが訳あり家出JKを嫁にするお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。なお、本作品はヒロイン目線の裏ストーリー「春の雨はあたたかい」のオリジナルストーリーです。 春の雨の日の夜、主人公(圭)は、駅前にいた家出JK(美香)に頼まれて家に連れて帰る。家出の訳を聞いた圭は、自分と同じに境遇に同情して同居することを認める。同居を始めるに当たり、美香は家事を引き受けることを承諾する一方、同居の代償に身体を差し出すが、圭はかたくなに受け入れず、18歳になったら考えると答える。3か月間の同居生活で気心が通い合って、圭は18歳になった美香にプロポーズする。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...