お見合い結婚します―でもしばらくはセックスレスでお願いします!

登夢

文字の大きさ
上 下
11 / 26

11.同居生活第1日目、入れてくれたコーヒーがとてもおいしかった!

しおりを挟む
(10月第4日曜日)
6時に目が覚めた。窓から明かりがさしている。今日は日曜日だからゆっくりできる。隣の亮さんの部屋から物音がしないので、まだ眠っていると思う。7時まで寝ていようと、まどろむ。私はこれが一番好きで幸せな時間。

7時になったので、静かに部屋を出てバスルームへ行って身繕いをする。化粧も薄くする。みっともない姿を亮さんには見せたくない。鏡を見てほほ笑んでみる。OK!

昨日コンビニで買ってきたものをお皿に盛って食卓に並べる。何とか朝食らしくなった。テレビのボリュームを下げてニュースを見る。ここのところニュースを見る時間と余裕がなかった。世の中は平和みたい。

8時過ぎに亮さんがリビングへ出てきた。

「おはよう。よく眠れた?」

「はい、とても良く眠れました」

「朝食にする?」

「準備はできています」

亮さんは食卓の朝食を覗き込む。それからバスルームへ入って行った。しばらくして部屋に戻って部屋着に着替えてきた。席に着くと食事を始める。

「明日から朝食はどうします? 献立は何がご希望ですか?」

「朝食は必ず食べることにしています。でないと昼前にへたってしまうから。献立と言うほどは必要ありません。理奈さんの負担にならないように簡単なものでいいです。例えば、トースト、牛乳、ヨーグルト、リンゴやバナナなどの果物があればいい」

「それじゃあ、トーストとミックスジュースでいいですか?」

「ミックスジュースって?」

「果物、野菜、ヨーグルト、牛乳などをミキサーにかけてミックスしたジュースです。栄養満点でそれを飲むだけでいいですから」

「それでいいから、作って下さい」

「お弁当は作りません。結構手数と時間がかかりますから、昼食は外食でお願いします」

「それでいいよ。今までどおりだ」

「夕食は必ず作りますから」

「楽しみにしているから」

「時間は遅くていいですね」

「帰る時間は早くはないから、会社を出る時にメールを入れます。ここには8時前後になることが多いと思う」

「それならなおさら好都合です。ゆっくり作れますから」

「食材などの買い物はどこでするつもり?」

「乗換駅がありますから、そこでします。ここからはスーパーが少し遠いですから」

「あとから近所のスーパーを案内しようか? この辺は土地勘があるから」

「このあたりに長く住んでいるんですか?」

「洗足池駅の近くに独身寮があったので、入社してしばらく住んでいたことがあった。それにここに来てもう5年位になるかな」

「ここから散歩がてら、公園を通って行ってみないか?」

「夕食の準備もありますから、連れて行って下さい」

それから二人でそれぞれの部屋をひととおり掃除して、身のまわりの持ち物を整理した。それから亮さんはお風呂の掃除をしてくれた。私はリビングや台所を掃除した。

11時前に二人そろって外出した。荷物が多くなることを想定してか、亮さんがリュックを持ってきてそれを背負った。私は笑ってしまった。

亮さんが言うには、先の震災からリュックを通勤に使う人が増えたとのことで、使ってみると両手が使えるので便利と分かって、いまは通勤用と買い物用に2つのタイプのリュックを使っているそうだ。確かに言うとおりかもしれない。

道に出ると亮さんの方からなにげなく手を繋いできた。私は一瞬亮さんの顔を見て、そのまま手を繋いだ。とても自然だったから違和感がない。

亮さんはこういうことに慣れているように思った。亮さんは何食わぬ顔で手を繋いでいる。私は黙って従っている。すぐに公園に入った。

「せっかくだから一周りしないか? 案内してあげる」

「はい」

池の周りを二人でゆっくり歩いた。もう、紅葉の季節が近づいてきている。今日は清々しい良いお天気だ。私はこの公園が初めてで珍しかったので周りを見ながら歩いている。この時間は散歩の人がほとんどだけど、私たちのような若いカップルは少ない。

「理奈さんとこうして歩いているのが夢のようだ。今年の春先には一人侘しく散歩していた」

「私もこんなことになろうとは思いもしませんでした。ご縁があったのでしょうか?」

「ご縁というのはあるかもしれない。前世の因縁とか? そうでないとあんな出会いはないと思っている」

「私たちは運命の赤い糸でつながっていたのかしら?」

「今はそう思いたいし、そう信じたい。この繋がりを大切にしたい。理奈さんを放したくない」

「そうですね。大切にしたいですね」

「理奈さん、ボートに乗らないか? 少年は彼女をボートに乗せたがるものなんだ」

「少年?」

「気持ちだけだけど」

「いいですよ。私も彼氏とボートに乗ってみたいと思ったことがありました」

「じゃあ、今実現と言うことで」

ボート乗り場に行くと、ボートが2種類あった。手漕ぎのボートと脚でペダルを漕ぐタイプ。亮さんは手こぎタイプを選んだ。

私を乗せるとゆっくりと漕ぎだした。意外と力が必要みたいで無言で漕いでいる。

「気持ちいいですね」

「ああ、水面は周りよりも涼しいね。清々しい。理奈さんをボートに乗せているから最高の気分だ」

「そう言ってもらえてうれしいです」

亮さんはボートを漕ぎながら私をジッと見つめる。見つめられると緊張する。目をそらす。

「一周したら上がろうか?」

「はい」

亮さんは漕ぐのに精いっぱいで話辛そうだった。ボートから上がるとほっとした。すぐに亮さんが手を繋ぐ。手を繋ぐのにはすぐに慣れた。今度は池の周りの遊歩道をゆっくり歩く。

「休みの土曜日には、二人でどこかへ出かけることにしないか? デートするみたいに」

「毎日二人でデートしているみたいですが、わざわざ外へ出かける必要がありますか?」

「外の方が話しやすいこともあるんじゃないかな? 部屋で面と向かって話すと理奈さんは緊張するみたいだから」

「私、そんなに緊張していますか?」

「そういうふうに感じるけど」

「すみません。そんなふうに感じさせてしまって」

「なぜか自然と身構えるようなので、こちらも気にしてしまう。もっと信用してくれてもいいんじゃないかな」

「信用しています。だから一緒に住んでいるんです。そんな感じを与えてすみません。もっと亮さんと親しくしたいんですが」

「そういってくれるのは嬉しい」

亮さんが手を強く握った。私も強く握り返してあげた。亮さんは嬉しそうだった。良かった。少しずつだけど、気持ちが通じ合っているように思えた。

お昼は洗足池駅の近くのハンバーガー屋さんに入って昼食を食べた。それから、長原のスーパーまで大通りを歩いて食料品の買い出しに行った。

二人で持てる精一杯の食料品を購入した。これで3~4日分は十分あると思う。亮さんはリュックを持って来ていたので、重いものは中に入れてしょって帰ってくれる。あとの軽いパンなどは私が持って帰った。

日曜日は二人で食料品の買い出しに来ようと歩きながら決めた。亮さんが夕食に食べたいものがあれば、その時に材料を買っていけばよい。

マンションに帰ると、私は冷蔵庫に食料品を整理してしまった。亮さんはキッチンでお湯を沸かしてコーヒーの準備を始めている。

「一緒にコーヒーでも飲まないか、僕が入れるから」

「はい、飲みます」

「新橋駅のコーヒーショップで買ったキリマンジャロだけど」

「レギュラーコーヒーですか?」

「そう、豆から挽いてドリップで入れる」

「本格的ですね」

「理奈さんは茶道の経験は?」

「学生のころ、茶道のサークルにも入っていたので、ひととおりのことは知っています」

「僕はテレビで見たくらいで、お茶会に行ったこともないけど、コーヒーを入れていると茶道が分かるような気がする」

「共通するところがありますか?」

「豆をミルに入れて、ゆっくり挽いて粉にして、ドリップにセットして、少しお湯を注いで、豆を蒸らして、それからお湯を注いで一杯分を作る。お客様のために気持ちを込めて作る」

「私がお客様?」

「こうして人のためにコーヒーを入れるのは初めてだ。一緒に飲んでくれる人ができてよかった」

「初めてのお客が私?」

「そう、飲んでみてくれる?」

「いただきます」

私はソファーの亮さんの隣に座って、淹れてくれたカップのコーヒーをゆっくり味わって飲んだ。私はいつもコーヒーをブラックで飲んでいる。

「おいしいです」

「いつもブラックで飲んでいるの?」

「その方がコーヒーの味が分かりますから」

「コーヒーは好きなの?」

「大好きです」

「知らなかったけど、それはよかった。入れた甲斐があった。またひとつ理奈さんのことが分かった」

「私も亮さんのことが一つ分かりました」

「いままで一人で入れて飲んでいたけど、こうしてお湯を注いで作っていると、心が落ち着くと言うか穏やかになる」

「そうですね。丁寧に入れてもらって、気持ちが伝わります」

「気持ちが伝わったのなら嬉しい。入れた甲斐があった」

亮さんは私がコーヒーを喜んで飲んだので機嫌が良かった。私も亮さんのことがまた一つ分かって良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地味子と偽装同棲始めました―恋愛関係にはならないという契約で!

登夢
恋愛
都会で就職した老舗の御曹司が父親所有のマンションに引っ越しますが、維持費がかかり過ぎることから同居人を探しました。そして地味な契約女子社員を見つけて同居雇用契約をして偽装同棲を始めます。御曹司は地味子がとても性格の良い娘だと次第に分かってきましたが、合コンで出会った陰のある可愛い娘に一目ぼれをしてしまいます。これは老舗の御曹司が地味子と偽装同棲したら運命の赤い糸に絡め捕られてしまったお話です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ヤクザのせいで結婚できない!

山吹
恋愛
【毎週月・木更新】 「俺ァ、あと三か月の命らしい。だから志麻――お前ェ、三か月以内に嫁に行け」 雲竜志麻は極道・雲竜組の組長を祖父に持つ女子高生。 家柄のせいで彼氏も友達もろくにいない人生を送っていた。 ある日、祖父・雲竜銀蔵が倒れる。 「死ぬ前に花嫁姿が見たい」という祖父の願いをかなえるため、見合いをすることになった志麻だが 「ヤクザの家の娘」との見合い相手は、一癖も二癖もある相手ばかりで…… はたして雲竜志麻は、三か月以内に運命に相手に巡り合えるのか!?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...